決着の時ー
マークスVSアルマー
アルマーは右手に、ストックと銃身を短く切り詰めた散弾銃を握り、左手の義肢からグレネードを装填する。港の石畳の上で、マークスを見据えた。
「さあさあ、ここで一発キメちゃいましょうか〜!」
軽やかに踏み込み、散弾を撃つ。火花が跳ね、石畳を飛び散る。左手の義肢からも爆裂が飛び、マークスの動きを押さえ込む。
マークスは首輪に手をかけ、どうするか迷う。アルマーの速い動きに、回避の余地はほとんどない。
「まだまだ〜! そっちはいただかないわよ〜!」
散弾と爆裂が交互に飛び、港の夜風に火薬と煙が混ざる。アルマーは口元に微笑み、左手の指輪をちらりと見る。
「さぁ、ここらでちょちょいっと」
その瞬間、世界がふっと静止した――火花も煙も、跳ねる石片も、マークスの体も、時がー止まる。
アルマーはその間に距離を詰め、散弾銃と義肢の位置を微調整する。止まったマークスを目の前に、次の攻撃の準備を整え、冷ややかに笑みを浮かべる。
そして、2秒――
時間が元に戻る。散弾と爆風が一斉に動き出し、マークスは咄嗟に身を捻る。
「くっ…速い…!」
間合いを詰められたまま、マークスは首輪に手をかけ、どう動くか必死で判断する。
アルマーは軽やかに笑い、石畳の上を滑るようにステップし、次の攻撃に備える。
マークスは鋲の付いた黒い犬の首輪に手をかけた。指先が触れた瞬間、体の奥底に冷たい電流が走る。
「警部!約束は破ります!申し訳、ございませんっ!」
叫びと同時に、首輪が引きちぎれる。金属片が石畳に飛び散り、空気を裂く衝撃がアルマーの顔をかすめた。
その瞬間――マークスの身体が、暴力的に膨れ上がる。筋肉がうねるように張り出し、全身を黒く硬い毛が覆う。口は裂け、牙が光を反射し、鼻先が鋭く伸びて嗅覚を研ぎ澄ます。眼光が鋭く閃き、まるで夜を切り裂くようだった。
巨体となったマークスは、二本の足で地面を蹴りしっかりと立つ。獣の鼓動が港の夜風に響き、石畳が微かに震える。黒く鋭い毛皮の影が揺れ、威圧感が港全体を支配する――狼の姿をした戦士が、今ここに立ったのだ。
アルマーが思わず声を上げる。
「な…なによそれ、反則じゃないの〜!」
叫びながら、ありったけの散弾を撃ち、左手の義肢からグレネードを連射する。火花と爆風が港の空気を切り裂き、石畳を砕いて飛び散る。
しかし、獣化したマークスは一歩も退かない。散弾も爆風も、血肉が飛び散る衝撃を身体に受け止める。だがその目は鋭く、怒りと本能だけで燃えていた。
唸り声を上げ、全身から血を滴らせながらも、二本の足で踏ん張る。両手を空に突き出すように広げ、港の夜に響く咆哮をあげる――その声に、港全体が震え、アルマーの身体にまで衝撃が伝わった。
驚愕するアルマーが、再び指輪に手をかけ時を止めようとした――その瞬間、マークスの姿がふっと掻き消えた。
「な、何!?」
目を見開くアルマーの背後に、突如としてマークスが現れる。巨体を揺らし、長大な右腕を振り上げると、その一撃がアルマーの身体を横から薙ぎ払った。
衝撃は圧倒的で、アルマーの体は紙のように宙に弾かれ、石畳に叩きつけられる。
「ぐはあっ!」
口から血を噴き出し、背中と肩に深い衝撃が走る。アルマーの視界が揺れ、夜の港の風景が波打つように歪んだ。
その巨体を揺らし、ゆっくりと倒れたアルマーに、マークスが静かに近づく。
意識が朦朧とする中、アルマーは左手を振り上げ、グレネードを放とうとする。しかし、カチリと乾いた音が鳴るだけで、不発。
「しまった…弾切れ…?」
歯を食いしばり、指輪に意識を集中して時間を止めようとするが――目の前が真っ暗になる。
「なっ…!意識が...」
その瞬間、マークスが目の前まで迫り、アルマーの左腕を掴む。鼻先が触れ合うほどの距離で、獣の瞳が光る。
しばし見つめたのち、マークスは大きく唸りを上げ、裂けた口を開く。ナイフのような牙が並び、左手首に噛み付いた。
「いや…やめ…て…」
激しく金属が割れ砕ける音が鳴り響き、手首が千切れる。反動でアルマーの身体が宙に弾かれ、石畳に叩きつけられた。
「ぐはあっ!」
口から血を吐き、全身に痛みが走るアルマー。石畳に響く衝撃音と破片が、夜の港に重く落ちる。
マークスは、千切れたアルマーの左手首を咥えたまま唸る。牙で掴んだ手首から、指輪の着いた機械の指を獣の指で軽々と引きちぎった。
外れた指輪は獣の大きな手のひらに収まる。それを見つめたマークスが一声、遠吠えの様な鳴き声を上げー
そして、巨体のまま後ろに倒れるマークス――その瞬間、石畳を揺るがすような衝撃と、地響きのような轟音が港中に響き渡った。
倒れると同時に、全身から煙のように黒く光る魔力が漏れ、やがて獣の毛皮も牙も消え去る。港の夜風に魔力が溶け、そこに立っていたのは、裸のままの人間のマークス――元の姿に戻った彼だった。
マークスVSアルマー決着ー
姫神キザミ奪還
パティVSエレン
パティがククリナイフを振り下ろす。
しかし、電撃の衝撃で目眩が走り、刃はわずかに逸れ、エレンの頬を掠めるだけで地面に突き刺さった。
「姫神よ!」
エレンの叫びと同時に、パティの足元から腰までが一気に氷に覆われ、身体が固まる。まるで鎖で縛られたかのように動けない。
その隙に、エレンは腰から大型の拳銃を抜き、氷に閉ざされたパティの額に銃口を押し当てる。
「…終わったな」
引き金が引かれる寸前、パティは咄嗟に体をひねり、頬をかすめる銃弾をかわした。
「っ…!」
驚愕するエレンに向かい、パティは両腕を回して相手を引き寄せる。
全力で締め上げ、巻き付くワイヤーと電撃をそのまま相手に押し返す。
火花が飛び、電流が交錯する。パティの全身を貫く痛みに、眉間にしわが寄るが、顔色は変わらない。
「いいでしょう…ここから先は、意地の張り合いです!」
凍りついた足元の感覚も、電撃の痺れも、すべて意識の端に追いやる。
パティの瞳が鋭く光る。刃は地面に突き刺さったままでも、身体の力は確実に次の動きへと集中していた。
電撃が全身を走り、下半身は氷に閉ざされ、動きは完全に奪われる。
それでもパティの腕の力は衰えず、締め上げる手に力を込めるほど、氷漬けの身体は逆に強固に相手を捕らえていた。
「助かりました…正直、もう自力では立っていられませんので。凍り付けにしていただき、ありがとうございます」
声は静かだが、鋭く切り込むように響く。
エレンの顔が歪む。唇を噛み、呻くように声を漏らす。
「くっくっそぉ…」
「もう私も限界ですので、このまま――終わらせていただきます」
パティの瞳が大きく開き、全身に力が漲る。エレンの身体を逃がさないように。
「ぬっ…ぐぐ…」
電撃が止み、エレンの両手がだらりと下がる。瞳は見開いたまま、完全に意識を失っていた。
空気が凍りついた甲板に静寂が広がる。
パティの身体は凍りついたまま、指先を慎重にエレンの指輪に伸ばす。
指輪を外し、両手で包み込む。大きな掌に収まった金属の冷たさが、静かな達成感を伝える。
天に翳した瞬間、月光が指輪に反射して、凍りついたパティの姿を銀色に照らす。
「あぁ…ようやく、ようやく、これで…少しは恩を、返せましたで…しょう、か」
言葉は途切れ、力尽きたかのように意識が遠のく。
両手を天に掲げたまま、凍りついた姿勢のまま、身体を氷の中に委ねる。




