助っ人その③ー
ドアの向こうで息を切らしていたミリィの背後に、もう一つ影があった。
静かに、一歩。
店内へと足を踏み入れる。
長い黒髪を太い三つ編みにまとめた女。整った顔立ちに、紫がかった瞳。無駄のない動きで立つその姿は、ただのメイドとは明らかに違う。
ベルが目を見開く。
「……パティ?」
女は一礼する。
「お久しぶりでございます」
その声に、マリーナの眉がわずかに動いた。
「……パラスウェットか」
アンジュも目を細める。
「あなた……まだ生きていましたのね」
パティは感情をほとんど表に出さないまま、静かに答える。
「おかげさまで」
ミリィが慌てて駆け寄る。
「すみません、遅くなりました!お父様やトレントは無理でしたが―」
少し誇らしげに振り返る。
「パティが来てくれました!」
パティは一歩前に出ると、ベルたちに向かって深く頭を下げた。
「お嬢様が大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます」
そのまま、さらに頭を下げようとするが――
マリーナが軽く手を上げて止める。
「そこまででいい。お前が来たなら話は早い」
アンジュは腕を組み、満足げに頷く。
「ええ。これでようやく“戦力”として数えられますわね」
マークスが小声で呟く。
「この人、知り合いなんですか……?」
マリーナは短く答える。
「ああ。一度共闘している」
アンジュも続ける。
「ええ。少なくとも――そこらの親衛隊よりはよほど信用できますわ」
ラインはそのやり取りを聞き、わずかに目を細めた。
「なるほど……これは心強い」
バロムが、こくりと頷く。
リックスは優雅に微笑む。
「戦力が整ってまいりましたね」
ベルはミリィとパティを見て、小さく頷いた。
「……うん」
場の空気が、確かな手応えと共に引き締まる。
「大所帯になってきたことですし、他に客がいないとはいえ、場所を移動しませんか?」
ラインの提案に、全員が自然と頷いた。
マリーナがすぐに口を開く。
「なら、大陸警察の支部を使おう。会議室が空いている」
異論は出なかった。
――ほどなくして。
一行は街の大陸支部へと移動し、案内された会議室に入る。
長机を囲むように、それぞれが席につく。
人数が増えたことで、空間にはわずかな緊張と圧が生まれていた。
椅子の軋む音が止み、静寂が落ちる。
その中で、ラインがゆっくりと立ち上がった。
「では――改めて、作戦会議を始めましょう」
静かな声だったが、その一言で場の空気が一段階引き締まる。
ラインは全員を見渡し、続ける。
「現状、敵はハリス帝国親衛隊。確認できているだけで七名、未確認を含めれば最大で十名規模」
指で机を軽く叩き、思考を整理するように言葉を重ねる。
「そして、その全員が“姫神の指輪”を所持している可能性が高い」
その事実に、空気がわずかに重くなる。
ラインはそこで一度言葉を切り、全員の反応を見た。
「これを前提に――各個撃破を基本戦術とします」
ラインは言葉を切り、ふと視線を横へ流す。
「――と、その前に」
一拍置き、穏やかなまま問いかけた。
「貴女は、どちら様でしょう?」
その言葉に、場の視線が一斉に動く。
ラインの見ている先――
テーブルについた面々に紛れて、いつの間にか一人の少女が座っていた。
黒髪に黒い瞳、褐色の肌。
ライン、リックス、バロムの三人がわずかに身構える。
マークスが目を見開く。
「え、ちょっと待って……いつの間に入ってきたんですか!?」
ベルは一瞬きょとんとした後、はっと気づく。
「……ビビ!来てくれたんだ!?」
ミリィもぱっと表情を明るくする。
「ビビさん!」
マリーナは腕を組んだまま、呆れたように息をついた。
「相変わらず気配が薄いな……」
少女はそんな反応に、にこりと微笑む。
「久しぶり〜」
ゆるい調子で手を振る。
「ちょっと遅れちゃった」
ラインはそのやり取りを見て、警戒をわずかに解く。
「……なるほど。お知り合いでしたか」
ベルは頷きながら説明する。
「うん、西大陸の……アダラ王女の侍女で、護衛の人」
マークスが小声で呟く。
「また強そうな人が増えた……」
パティは無言のまま、ビビをじっと見ている。
アンジュは腕を組み、興味深そうに目を細めた。
「ふうん……」
ビビはくすっと笑い、軽く肩をすくめる。
「大丈夫だよ〜。わたし、ちゃ〜んと強いから」
その柔らかな声音とは裏腹に、空気がわずかに張り詰めた。
ラインは一度頷き、再び全体へと視線を戻す。
「では今度こそ、これで全員、ということでよろしいですね」
ラインは全員に視線を向け、声を上げた。
「現在、戦力としては9名。時間が許すならば、3人1組で事に当たるのが確実と判断しますが……その場合、アンジュさん達教会の方々は3人で組むとして、他の2組はどうしましょう。たとえば、ベル君とは――」
マリーナは腕を組み、落ち着いた声で答えた。
「そこはもちろん、このー」
ビビは手を挙げ、にこやかに言った。
「は〜い!ベルくんと組みた〜い!」
ラインが少し首を傾げ、柔らかく問いかけた。
「理由を伺っても?」
ビビはにこりと笑みを浮かべ、軽く手を振る。
「だって〜強いからだよ〜。あと、密かにお嫁さんになりたいと狙ってるし〜」
マリーナがビビをチラリと見やり、短く言い放つ。
「待て。私もベルと組みたい。ここは譲れない。」
ビビは一瞬目を丸くするが、にっこり笑って手を振った。
「そっか〜じゃゃ〜3人でしよっか〜!わたしはぜんぜんい〜よ〜」
ベルは少し困惑しながら、二人の表情を見比べた。
ラインがテーブル越しに視線を巡らせ、全員の反応を確認する。
「えーそれでは、教会の3人と、ベル君マリーナ警部ビビさん、私、パティさんマークス警部補、の組み合わせということでよろしいですか?」
全員が小さく頷き、それぞれの席で覚悟を決めるように背筋を伸ばした。
ベルは少し疲れた表情で、仲間たちを見回す。




