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ギルドを訪ねてみようー

ラインの提案で、まず教会に立ち寄る。魔法による怪我の手当を受け、大きな傷は塞がったものの、完全には消えていない。それでも、少しは落ち着ける。


その後、洋服屋に向かい、体に合わせつつも、少し大きめの服を選ぶ。動きやすさと、銀髪の少年ベルの体格を考えてのことだ。デザインはほとんど以前と変わらないが、しっかりと体を包むものだ。首に巻いた真っ赤なスカーフだけは、そのまま使うことにした。


街の路地を抜け、今日の目的地であるギルドに着く頃には、午後の陽光が街を柔らかく照らしていた。



ギルドに着いたベルは、受付に近づき声をかける。


「すみません、ハリス帝国に関する案件についてお尋ねしたいのですが」


受付の者は少し驚いたように頷き、奥へと下がる。しばらくして戻ってくると、静かに告げた。


「ギルド長からお話があるそうです。奥の部屋へどうぞ」


ベルはラインと目を合わせ、軽く頷く。二人は静かに奥の部屋へと向かった。


奥の部屋に入ると、そこは立派な応接室だった。重厚な机と椅子、壁には各地で集められたと思しき武具や地図が並ぶ。中央の椅子にはギルド長が座していた。長年戦場をくぐり抜けた冒険者か戦士の面影を残す、落ち着いた風貌である。


ベルとラインが部屋に足を踏み入れるや否や、ギルド長は厳しい声で言った。


「表で他国の話など、あまりするもんじゃない。常識のない馬鹿か、あるいは馬鹿で常識がないと思われるだけだ」


ベルは思わず頭を下げる。


「は、はぁ……すみません」


ギルド長は椅子に背を預け、落ち着いた声で続ける。


「それで? 何だって東大陸の話なんて聞いている?」


ベルは少し戸惑いながら答える。


「えっと、それは……」


そこにラインが割って入った。


「それについては、私からご説明いたします。私はルグレシア王国騎士団隊長、ライン・バックスと申します。実は魔王殺しの件で、少々厄介な事態が生じておりまして……何か情報がないかと思い、参りました」


ギルド長は目を細め、しかし険しい表情ではなく、むしろ落ち着いた調子で言った。


「ルグレシアの……それなら隠すこともない。ブリジット将軍が来ている件、だな?」


ベルはその名前を聞き、思わず声を上げかける。


「……!?」


ラインは静かに頷く。


「まさに。さすが情報が早いですね」


ギルド長は椅子に深く腰を沈め、声を落として言う。


「ギルドにとっても、情報は生命線だからな。特に自分たちの管轄のことなら、嫌でも耳に入るというものだ」


ラインは視線をギルド長に向け、改めて確認するように問いかけた。


「では、やはり――」


ギルド長はゆったりと椅子に座り直し、腕を組む。


「ハリスの将軍が親衛隊と部下を連れて、魔王殺しにちょっかいをかけているのは知っている。知っているだけで、何も出来はしないがな」


ラインは穏やかに頷く。


「さすがに国家間のこととなると、そうなりますな」


ギルド長は苦笑するように肩をすくめる。


「さすがにな。直接街に被害でも起きない限りは、黙って警戒するくらいしか出来んさ」


ベルが身を乗り出し、問いかける。


「では、例えば街で拉致や誘拐が起きた場合には?」


ギルド長は視線を遠くに置くようにして答えた。


「それは――ケースバイケースだな。軍が動くことになる場合もある」


ギルド長は椅子に深く腰掛け、腕を組んだまま言った。


「特に魔王殺しとなると、いろんな国や組織が関わってくる。おいそれと手を出すことも出来んだろう」


ベルは小さく頷く。


「そう……ですよね」


ラインが静かに問いかける。


「もし今後何か動きがあれば、ルグレシア騎士団に連絡をいただくことは?」


ギルド長は少し笑みを浮かべる。


「それはもちろん、こちらとしても各国の騎士団に恩を売れる機会なら、願ったりだ」


ラインは柔らかく笑う。


「素直な方ですね」


ギルド長は胸を張るように言った。


「それが俺の良いところだからな」



ギルドを出た二人は、近くのカフェで休憩することにした。


窓際の席に腰を下ろし、メニューを選ぶ。やがてお互いのドリンクが届いた。


ベルは微笑みながら、しかし少しだけ声を震わせて言った。


「ギルドでは、ありがとうございました」


ラインは静かに頷き、柔らかな口調で答える。


「あんな感じで、よろしかったでしょうか?」


ベルは少し胸の内を打ち明けるように続けた。


「もう、バッチリです……私一人では、あんなにうまく話をまとめられなかったと思います」


言いながらも、心の奥底では、助けに来てくれたラインへの感謝と安堵の気持ちがぐっと込み上げる。戦いの傷がまだ痛む身体に比べて、心だけが少しだけ軽くなったような気がした。


ラインは静かに微笑み、目を細めて答える。


「貴方のお役に立てたのなら、私も嬉しいです」


ベルはその言葉に、さらに安心し、深く頭を下げる。


「来てくださったことも含めて、改めてありがとうございます……」


言葉に涙が混じりそうになりながらも、ベルは強く目を開き、心の中で小さく誓った。

(私、もっと強くなる……次は、誰にも迷惑をかけないように)


ラインは声のトーンを落とし、慎重に言葉を選ぶ。


「ところで、あの姫神の指輪の件ですが……」


ベルは俯き、かすれた声で答える。


「ええ……私が、私のせいで奪われてしまいました」


ラインは短く頷き、表情を変えずに言葉を続ける。


「そうですか……なるほど、そういうわけだったのですね」


ベルは唇を噛み、目を伏せたまま静かに息をつく。状況を整理しようとするが、心の奥が重く痛む。


ラインは間を置き、慎重に続ける。


「今後はしっかり準備を整えて臨まねばなりません。戦う相手は容赦しませんから」


ベルは黙って頷いた。胸に残る悔しさと不安は大きいが、その重さが逆に、次に進む覚悟を少しずつ固めさせていた。


ラインが目を伏せ、声を落として言う。


「こんな時に不謹慎は承知ですが……貴女が本当に困った時、まず私に連絡をいただけたこと、騎士として、男として、本当に嬉しく思います」


ベルは小さく息をつき、目を伏せる。


「……ラインさん」


ラインは肩をわずかに揺らし、口元に苦笑を浮かべる。


「拉致監禁されたと聞いた時は、卒倒しそうになりましたけどね」


ベルは思わず、くすりと笑いながらも顔を赤らめて呟く。


「……もう」


部屋の窓から差し込む午後の光が、二人の影を静かに揺らす。


ラインが少し驚いた様子で、ベルに問いかける。


「どこまで連絡を?」


ベルは肩越しに小さく答える。


「大陸警察のマリーナ警部を通して、ルグレシア王国、教会、ギルド本部、西のカダブランカ、あとはジット村。それとミリィも――」


ラインは眉を少し上げ、視線を巡らせる。


「そう言えば、姿が見えませんね」


ベルは肩をすくめ、口元に微かな笑みを浮かべる。


「彼女も心当たりがあるそうで、一人で出掛けました」


ラインは感心したように頷く。


「なるほど。それにしてもすごいですね。教会や大陸警察はまだしも、西大陸にまでツテがあるとは」


ベルは少し肩を落とし、言葉を選びながら答える。


「それに関しては……まぁ、いろいろありまして」


ラインは柔らかく頷き、視線を逸らさず続ける。


「私も殿下から話は聞いており、事の経緯は把握しています。ですが、ベルさん個人として連絡が出来るのは、本当に凄いことだと思います」


ベルは少し笑みを浮かべ、目を伏せる。


「それは……私というより、あいつの力が」


ラインは軽く眉を動かす。


「魔王殺しの方のベル・ジットですか」


ベルは頷き、少し顔をしかめる。


「そうです。いつも、良いことも悪いこともトラブルも、中心にはあいつがいるんです」


ラインは考えるように頷き、静かに言う。


「ふむ……我々から見れば、彼も貴女も、同じくらい常に話題の中心にいますが」


ベルは首を振り、少し照れくさそうに答えた。


「私はぜんぜん……関係者と言うだけですから」


ラインはふと笑みを止め、真剣な顔でベルを見つめた。


「初めてお会いした時から感じていたのですが、どうも貴女は自分に自信が持てないところがある気がします」


ベルは肩をすくめ、視線を伏せて答える。


「それは……そうですよ。だって私、何も出来ないもの。弱いし……」


ラインは静かに首を振り、言葉を続けた。


「彼を比較対象にするのは間違っています。彼は規格外に強い。強すぎるのです。昨日も、指輪の力を失った状態で親衛隊3人と渡り合っていました。相手が1人なら、圧倒まではいかなくとも、負けはしなかったでしょう。そんなこと、私にだって出来ません」


ラインは少し視線を遠くにやり、言葉を選ぶように続けた。


「ただし――彼は力押しに頼るきらいがあります。彼が正面突破でこれまで戦ってこれたのは、姫神の圧倒的な力があってこそ。姫神なしの彼は、やはり決定打に欠けます。ましてや、姫神の指輪を持った親衛隊相手となると、せいぜい1人か2人が限界でしょう」


ベルは少し間を置き、慎重に尋ねる。


「ラインさんは……どうですか?」


ラインは視線をベルに戻し、落ち着いた声で答えた。


「私も昨夜は2人と対戦しましたが、どちらも姫神の能力は出さず。ですが、もし1人相手なら、確実に――勝てます」


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