24)候補剥奪
「王妃様がお待ちです」
外交の公務も終わり、報告もかねて王宮へ向かえば、二人の前に礼儀正しい王妃の側近が現れ呼び出されたのだ。
一応今夜は陛下との晩餐があるという話だったのだが、先に王妃の謁見室に通されてしまった。
「母上何のお話で?」
殿下が訝しげに問えば、王妃は大きなため息と共に言った。
「わかっているでしょ? ヴァレンティナに手を出したでしょう。箝口令をしいたようですが、ホテルの従業員まではうまく止められなかったようね」
「「……」」
ヴァレンティナは表情が繕えず顔が羞恥で顔が染まってしまった。その顔を呆れたように王妃は見つめた。
「はぁ、ヴァレンティナ。あなたにはがっかりしました。殿下の愛人にするために推薦したわけではないのに、まぁ、結果としては良かったのかもしれないわね」
「お、王妃様! 私は決して殿下の愛人になどと」
「シノノメ領は王家直轄地になります」
「そんな!!」
王妃の言葉に朱に染まった顔は今度は青ざめてしまった。
「母上、待ってください。ヴァレンティナは爵位を継承したいと望んでおります」
「貴方が手を出した時点で無理に決まっているでしょう。でも、ヴァレンティナの子は王位を継げない代わりに、シノノメ家を継げるのだからよいではないか」
「待ってください。私は愛人にはなりません!!」
「殿下を愛していないと」
「それは……」
「愛人になりたくなければ、なぜ応じた。それとも、王族を誘惑した罪で捕まりたい?」
「そんな……」
「母上! 違います。私が!」
「殿下はお黙りなさい。これは決定事項です。ヴァレンティナ、貴方は愛人として今後殿下に仕えるように、婚約者候補から外します」
そう言うと王妃は退出をしてしまった。
ヴァレンティナは立ちすくんでしまった。とんでもないことをしでかしてしまったと、いっときの感情に流されて、貴族としての義務を蔑ろにしてしまったと……。自分に必死に連絡をしてくれた家臣たちになんて伝えたらいいのだろうかと失意と混乱に陥っていると、殿下がヴァレンティナの手を掴み頭を下げた。
「すまない、ヴァレンティナ」
「殿下……頭をあげてください。私が浅はかだっただけです」
「違う! 俺が」
どちらも浅はかに行動してしまったのだ。晩餐の場では陛下から、ヴァレンティナを愛人として認めると言う発言と共に、むしろ喜ばしいとまで言われてしまい、ここで辞退したいなどと発言できる度胸などヴァレンティナにはなかった。
婚約者候補者たちには、ただヴァレンティナが候補から外れたと言うことだけが伝えられた。
そして住まいも新たに用意され、移動することになったのだった。
「愛人なのに別邸が用意されるんですか?」
「あぁ、警備上の問題であのアパートメントでは危ないだろう」
「今まで叔父上の派閥からの襲撃を受けたことがありませんが」
「婚約者候補として居住地はもう知れ渡っている。今まで安全だったのは運が良かっただけだよ」
そう殿下に諭され、用意された別邸に案内された。貴族街の隅っこにある、落ち着いた一軒家は広すぎず小さすぎずちょうど良い広さだ。庭も広く外からは庭の木々が建物をうまく隠してくれていた。
「素敵な屋敷ですね」
「あぁ、俺の隠れ家の一つさ」
「殿下の?」
「あぁ、街に抜け出すのにちょうどいい位置にあるんだ」
そう言いながら、王城からの隠し通路と街へ抜ける抜け穴をヴァレンティナに教えた。
「いいんですか? そんな機密情報を」
「あぁ、だって隠し通路をよく使うからね、どっちにしろすぐにバレるだろ?」
「よく使うんだ……」
ヴァレンティナは思わず苦笑した。
そのまま、屋敷の中を案内と屋敷を管理する使用人たちが紹介された。皆殿下が選んだ人らしく、礼儀正しくヴァレンティナを女主人として迎えてくれたのだった。
しかも騎士の間には常に数人が待機し警備に当たり、庭には数頭猟犬もいる。
厳重な警備の様子に、ヴァレンティナは内心動揺していた。
「……爵位を継承できなかった私にここまでするのは」
「何を言ってるんだ。母上は王家の所有というがもともとは君が正当に引き継ぐ爵位だ。今は母上が全権限をもってしまっている状態だが、いずれは君が持つものだし、私たちの子が持つものだ」
「殿下」
「シノン、君はシノノメ家の姫君だ。忘れてはいけないよ」
「……はい」
殿下が真剣にいう様子にヴァレンティナは戸惑った。
「大丈夫、俺が何とかするから」
ヴァレンティナは殿下の言葉の真意は理解できなかったが、自分のために手を尽くしてくれていることは、屋敷の中の様子から伺えたため、お礼と共に十分してもらっていると感謝だけにとどめたのだった。
新しい住まいとなった屋敷での初めての晩餐は、殿下と一緒に過ごせたが、彼は食べ終えると屋敷に泊まらずに城に戻ってしまった。
用意された部屋に一人寂しく戻れば、窓の外には綺麗な満月が浮かんでいた。
「……月はどこでみても綺麗だわ」




