初めての戦い
ソラ家の絵本2
周りと自分の違いに気付いたのは、いつだっただろうか。
傾国の危機を救った時、異例の若さで騎士団長になった時、稽古に明け暮れていた時、違う。
それは自我が芽生えた時すでにあったのだろう。
何故周りはこんなに弱そうなのか。同い年の者たちはおろか、数歳は上である近所の子供たちも触れれば壊れてしまう泡のように感じ、優しく、気を付けてあつかっていた。みんなとは別の持って生まれた使命があるのだ、この力を活かしたいと思った。
ある日、夜になっても近所の子供達が家に帰ってこないと騒ぎになった。各親は思い思いの行動に出た。消えた子供の名を叫び続けて街をさまよい、情報を集めて奔走して、泣き叫ぶ親もいた。大人達がこれだけ探して見当たらないのだ。
街の外に出たに決まっている。
自分は単身、魔獣が支配する街の外へと飛び出した。
夜間街の外に出てはいけない。そう言われ育ってきた。初めて飛び出した夜の街の外に明かりはなく、視界は想像を超えて悪かった。
しかし、視界は悪くとも感じるものがある。草むらの奥から何かが動く物音が、遠くから人の物ではない雄叫びも聞こえてくる。
不気味さは感じ無い。複数の生き物が動いているだけだと思ったからだ。俺は足を止めずに進んだ。
夜に街の外に出る、俺にとって初めての体験だったそれは圧倒的な存在感によって印象をかき消されることとなる。
しばらくすると、複数の悲鳴が聞こえた。子供の声だった。声の聞こえる方へと俺は走った。
街の子供達を見つけた、が、状況は切迫している。
子供達は首が痛くなるほど見上げてようやくその顔を見ているのだろう。魔獣だ。
人型ではあるのだが肌の色は血の気を感じない青、肌自体もゴツゴツとしていて見るからに柔らかさを感じない、そして何より大きさが明らかに人で無い。こんな物と街の一番の大男が並べば、街一番の巨体も魔獣の腰に頭が届くかどうかだろう。
子供達はこれまで全力で逃げていたのだろう、死を目前にしても誰も走り逃げる気配がない。その場にへたりこみ、ただただ悲鳴を上げている。
人型の魔獣の名はトロール。
トロールは悲鳴で手を緩めることは無い。俺が現場に着いたのはトロールが拳を振り上げ、目の前で座る子供達に拳を振り下ろそうとしている瞬間だった。
今考えればトロールはこの周辺で住む魔獣の中では最強の相手、そんな状況に出くわし俺の身体は考えるより先に動いた。
こんな時に動けた俺はやはり人とは違うのだろう。そんなことを思いながら手は地面にあった石ころをトロールに投げつけ、トロールがこちらを向いた時にも恐怖はなかった。
標的を変えた拳が振り下ろされる。
それを横に転がりかわしながら手に当たった木の枝を拾う。
反対の拳が再度振り下ろされる。
今度はそれを僅かに当たらない程度にかわし、すぐさまその巨体の腕を駆け上がり肩へと昇る。
そして肌とは違い柔らかそうな眼に木の枝を突き立てる。
トロールは巨体に見合った大声で叫び身体をよじらせた。俺はその反動で肩から振り落とされ地面へと落ちる。
受け身が取れずに肺から息が飛び出す。身体が動かない。
しかし仰向けに倒れた姿勢のおかげでトロールの姿がよく見えた。
トロールは眼を押さえながら身体を反転させ、その場を走り去った。
そうして、街の子供達は全員無事に帰ることができた。
俺は勝った。
あれが、騎士としての第一歩だったのだろう。




