暗雲立ち込める
「確かに、山で何か起きていると考えてもいいかもしれないな」
「山だけじゃなく、ボラでも……」
カランコエの沈黙が意味ありげだ。今から向かう東北の支部ボラは、東の山の麓に位置する町だ。
山の異変に、いつもなら来るはずの定期連絡が無かった治安維持員。何かの因果を感じざるを得ない。
「少し急ぐか」
俺は乗っていた愛馬ビオラの手綱を持つ手に力を込める。
「そうですね。おい、ラスリ! 少し急ごう!」
カランコエの呼びかけに、ラスリも歩かせていた馬を咄嗟に走らせる。
俺の横まで走ってきたラスリは困惑の表情だ。
「……あの。団長、なにかあったんですか?」
「あぁ、何かありそうなんだ。あいつを見てみろ」
「ん? 城の周りでは見ない獣ですね。ちょっと人に似てて、なんてゆうか愛嬌のあるやつじゃないですか。あいつがどうしたんですか?」
愛嬌……ないない。あいつ人に爪を立てる怖い獣だし。でも、見た目だけの印象だもんな、山猿に対する感想としては聞いた事は無かったけど、そう感じる奴もいるか。
甲高い声で叫ぶし、見た目もなんか本の世界に出てくるモンスター、そうゴブリンとかの空想生物っぽいし、怖い獣だとばかり思っていたが……愛嬌がある、か。面白いな。
そう言えば山猿は頭が良いと聞いた事があるし、怖いだけじゃなくて、もしかして友達にもなれるのかもな。そうだよ、先入観にとらわれ過ぎていた。
他人の意見で自分の常識が崩れる快感を感じる。
ラスリはいいこと言う。
「そうか、可愛いか。あいつら頭が良いらしいからな。仲良くなれるかもしれないぞ! 可愛いと思うならチャレンジしてみるか!」
俺は笑顔で提案した。しかし、ラスリの顔に笑みはなかった。
ど、どうして真顔なんだよ。俺はラスリの意見も取り入れて会話しているのに、ラスリは何故そんな怖い顔をしてるんだ。
俺の理解が追いつかない中、隣を走るラスリからため息と共に冷めた視線が突き刺さる。
「今、そんな話してませんよ団長。ボラでなにがあったか、そう言う話してたんじゃないですか。さっきの獣と仲良くなりたいって相談はしてないですよ……」
冷めた視線は俺を外れ、ラスリは減速しつつカランコエの隣へと移動した。
その後、ボラへと向かう道中。一度は思考がぶれたが、ボラの事を考えていた。
ボラの治安維持員は無事なのだろうか。
一体山になにがあったのだろうか。
いくら考えても答えは出ない。
森を抜け、視界が一気にひらける。とてつもなく小さいが、視界にはボラの町並みが見えた。
先程まで晴れていた空は雲におおわれ、辺りは薄暗くなり、それは心の不安を映しているようだった。
ちなみに、ボラへ着くまで、俺のもとへラスリが再び来ることはなかった。少し寂しかった。




