ボラ、到着
「もうすぐだ、ひとまず走るぞ!」
ボラが見えてきてからも、その道を駆け抜けていた。
まだ夜には早いが、森を抜けてから空に広がった雲は辺りを薄暗くするだけでなく、自身も真っ黒になり、激しい音を立てて雨を大地へと落とし続ける。
視界が悪く、濡れた服が重く冷たい。
「いやー、酷い天気だな」
誰のものとも知らない家の軒下で俺達は一休みする。
ビオラに背負ってもらっている旅支度の鞄の中からタオルを取り出し、ラスリへと投げた。
「あ、どうも。助かります」
ラスリは顔を背けて言った。
ラスリは、城での準備が1日しかなかったこともあり一人で旅支度をしたらしいのだが、初めての長期旅に何を持っていけばいいかわからず、使える荷物をあまり持って来てはいなかった。
「どーいたしまして。忘れたんだもんな」
「もうその話はいいじゃないですか。今度からはもっと使える荷物を揃えますって!」
何かあるたびにラスリにはこうやって色々と物を貸しているのだが、ラスリは恥ずかしそうに今度からは上手くやると話すのだ。
初めての旅でそんなに上手く出来るはずがないのだから、それに俺が余分に荷物を用意しているんだ。もっと頼ってくれてもいいんだけどな。
ボラの道には人通りが全くなかった。このどしゃ降りだ。当然と言えば当然なのだが、不穏な空気を感じて急いできたのだから、生活音のしない雨音しか聞こえないボラに不安は大きくなる。
「団長、この家は誰も中にいないようです」
自分のタオルで雨を拭いながら窓を覗いているカランコエが言った。
辺りを見渡すと町らしく複数の家が見える。
しかし、窓から人の動きが感じられる家は半数程だった。
「こんな天気でも人の姿ってのはちらほら見えてもいいはずなのにな。見事に誰も居ない。ざっと見渡しただけだが、この家だけじゃなくて空き家も多く感じるな」
やはり不穏だ。カランコエは真剣な顔で頷き返してくれる。この際治安維持員にこだわらず、誰でもいいからボラの現状を聞きたい。
雨脚が少し弱まり、雨の轟音はしとしとと冷たさだけを残して静かになっていく。
「どこでもいい、人の気配のある家を訪ねよう」
タオルを頭にかけ、軒下から出る。
雨宿りの最中に人影の見えた家に一直線に向かい、ドアを叩いた。
反応が無い。
すみませんと声を出して扉を再度叩くと、中から物音がする。物音は扉にゆっくりと近づいている。
警戒されているようだ。出来るだけ優しさを意識して声を出し、扉が開く前から笑顔になるように努める。
「えっ?なんですか団長そんな気持ち悪い顔して」
ラスリの一言に傷付いた。
その時、扉がゆっくりと開く。




