お使いの先へ
外に出ると日差しがまだ高く、私は手庇で顔を覆った。
カメタキも眩しそうに目を細めてたので、私は手庇をカメタキの上に移した。
「どうも、さゆりさん」
カメタキは適度にしわがれた声でそう呟く。亀にこの刺すような日差しはしんどいに違いない。早く水場に戻してあげないと。
「そうだ、爺やに会って行かれませんか?」
カメタキからそんな提案があって、私は「いいかもね」と返した。
が、良くない閃きが私の頭に訪れたので、私は立ち止まった。
(しまった、お使い頼まれてたんだった)
腕時計を見ると、”15:22”。今から家に真っすぐ帰っても16時を過ぎる。
お母さんは時間に厳しい。それに本当は私がお爺ちゃんのとこに通うのもよく思ってない。
だから今日も、私を使いに出すことでお爺ちゃんからじわりと遠ざけようとしているのかもね。
「ごめん、カメタキ。私お使いを済ませないと」
「ほう、ご用事があったのですな。それは申し訳ないことを」
「いえ、いいの。私こそ、ごめんね。勝手にカメタキを連れまわしちゃって」
「はっは、全然いいんですよ。因みにお使いと云うのはどういったもので?」
私は言うべきかどうか少し迷って、こう言うと酷いが”亀だから別にいいか”と考えた。
「神社に行くの」
「神社?ほう、何処の神社ですかな」
「春日宮神社ってとこ」
「ああ、それは丁度いいですな」
カメタキは”はっはっ”と朗らかに笑った。
「何が丁度いいの?」
「いやなに、うちの爺やも今、春日宮神社にある池におるんですわ」
「”かすがい池”?」
「いかにも」
それは確かに丁度いい。あの緑色の濁った池の中に喋る亀が住んでいたのね。
それなら、あの不愛想な住職に会いに行くのも少しは苦じゃなくなる。
病院を出てすぐにあった自販機でペットボトルの水を買うと、二口飲んでからカメタキの甲羅の上にかけてやった。
私の手のひらにも冷たい水がかかって気持ちがいい。
「いやー、ありがたい。実は干上がってしまいそうじゃった」
「やっぱりね。遠慮しないで言ってくれていいんだから」
私たちは神社へと歩を進めた。




