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亀はそういうのが見える


「お爺ちゃんに悪いことしちゃったな」


私は、病院の廊下をとぼとぼと歩いた。

手のひらの上にはカメタキが乗っている。


「いやー、爺からは”多分覚えてないだろう”とは言われていたのですが……その通りでしたな」


ハッハとカメタキは豪快に笑う。

そんなに笑っては、横を通り過ぎたばかりの看護婦さんが怒って戻って来るんじゃないかと気にしたが、そんなことはなかった。

やはり、カメタキの声は私以外に聞こえていないようだ。


カメタキと一緒にエレベーターに乗り込む。

若い女の看護師さんと、点滴を持ったお爺さんと一緒だった。


「そういえばお名前をお伺いしてなかったですなぁ」


カメタキはのんびりとした声でそう言った。


「言ってなかったっけ?私は”さゆり”って言うの」


言い終えてから、すぐに”しまった”と思った。

カメタキの声が聞こえているのは、私だけなのだ。

案の上、看護師さんが私を見て、びっくりした表情を浮かべていた。

けれどちょっとして思いついたような顔になった


「ああ、くすのきさんのとこのお孫さんね。さゆりちゃんって言うんだ」


看護師さんの胸のバッジには【倉島】と書かれている。

そういえば何度か目にしたことがある看護師さんだ。


「え、ええ。そうなんです。いつも祖父がお世話になってます」

「あら、しっかりしてるわね」


倉島さんがうふふと楽しそうに笑う。


「楠さん、あなたが来る日はとても嬉しそうにしてるのよ。いつもありがとね」

「いえ、そんな。私何もしてませんし」

「ううん。あなたは自分が思っている以上に、ね。楠さん、ほんとに喜んでるんだから」


エレベーターのドアが開く。

一階に着いたのだ。


「じゃあね。夕方から雨が降るらしいから、気を付けて」


倉島さんが手を振ってくれたので、私も振り返す。

カメタキも真似してなのか、前足をぶらぶらと横に振ってる。


「彼女はいいですな。とても満ち溢れた気を持ってらっしゃる」

「そういうの分かるの?」

「ええ、亀ですからな。因みに貴女も良い気ですぞ」

「ふーん、ありがと」


点滴を持ったお爺さんがとぼとぼとエレベーターから出ていく。

カメタキに”あのお爺さんは?”と尋ねようとして、すぐにそんな自分を厭らしく思い、恥じた。










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