この声が聞こえるかい?
「お爺ちゃん見て見て!」
私は逸る気持ちで、病室の中に飛び込んだ。
ベッドに上体を預けながら、うたた寝をしていたお爺ちゃんの前にカメタキを差し出した。
「んー」
お爺ちゃんがひとつ唸って、寝ぼけ眼で、私が差し出すカメタキをじとぉっと見つめる。
「なるほど、この御仁が私の爺と出会ったといわれる方ですかな」
カメタキがそう話すも、お爺ちゃんは黙っている。
お爺ちゃんは顔を近づけたり遠ざけたりして、ようやく合点がいった表情になった。
「ああ、こりゃ亀か」
「うん、そうだよ」と私は答える。
「これは、どこで捕まえてきたんだ?」
「病院の玄関にある花壇のところ。それより、お爺ちゃん驚かなかった?お爺ちゃんが言ってた喋る亀だよ」
「えっ、この亀喋るのかい?」
「喋るも何も。さっき喋ったじゃん」
私はお爺ちゃんが寝ぼけて聞き逃したのかなと思った。
カメタキは、えほんと咳払いをした。
「いやはや、私の爺が昔お世話になったそうで。爺はさぞかし貴方に会いたがっておりました。ただ、先日排水口に足を挟んで怪我をしてしまいまして……ここには来られず残念がってました」
カメタキがそう丁寧な口調で説明するも、お爺ちゃんは黙ってカメタキを見つめるばかりだ。
カメタキがあまり回らない首を精一杯後ろに向けようとしていた。
「やはり、そういうことみたいですね」
カメタキは少し悲哀じみた声で、私に語り掛けた。
「そういうこと、ってどういうこと?」
「どうやら、貴方のお爺様はもう亀とは喋れないようです」
「え、どうして?」
「詳しくはわかりません。ただ、私の爺がその可能性が高いだろうと言っていました。年を取ると亀の声が聞こえなくなるようなのです」
「そうなんだ……残念だな」
お爺ちゃんの目には、私が独り言を言っているように見えているってことか。
だけど、お爺ちゃんはいつも通りの穏やかな顔で、私を見てた。
ただ、目元だけが少し寂しそうにしている。
「そうか……儂にはもう聞こえんか」
お爺ちゃんは独り言のように、そう言った。




