やっぱり、こうなるのね
外で蝉が”ミンミン”と五月蠅い。
「どうして亀の話になったんだっけ」
話のきっかけを見失うというのは、稀にあることだ。
決して若年性の健忘症とかでは無いはず。
「ああ、舞子が、頼子にお使いを頼まれたって話を聞いてな」
「あっ、そうだ。お使い!」
頼子っていうのは私のお母さんの名前。
それよりも、しまった。
すっかり”お使い”を失念していた。
私は立ち上がり、スマホをポッケから出す。
14:38。
13時にここに着いたから、もう一時間半近くここに居るようだ。
「じゃあね、お爺ちゃん。私帰らないと」
「ああ、じゃあの。それとな、別に毎日ここに来る必要は無いんだぞ。彼氏とデートもあるだろうに」
「居ないの知ってるでしょ、ばか」
「ハハ、気を付けて帰るんだよ」
「はーい。お爺ちゃんも煙草吸わないようにね」
「……」
「返事!」
「ハイ!吸いませんとも」
お爺ちゃんは私に敬礼をする。私は「なら、よろしい!」と上官気取りでふざけた。
**************
病院を出たところで、花壇の傍に”亀”を見つけた。
私の手のひらで持てるくらい小さくて、甲羅が綺麗な深緑色をしていた。
お爺ちゃんの話を聞いた後だったので、運命的なものを感じざるを得ない。
「うちのお爺ちゃんが会いたがってますよ……って知り合いに喋る亀がおりましたら、お伝えください」
亀は首をながーく伸ばしてこちらを不思議そうな顔でこっちを見ている。
ちょっぴり、喋ったらいいな なんて期待してたので残念。
私が踵を返して歩き出したところで、背後から声が聞こえた。
「その喋る亀って、うちの爺ちゃんのことかな?」
私が驚いて振り向くと、誰も居なかった。
亀しか居なかった。
亀は”のろのろ”とこちらに歩みを進める。
「え、喋った?」
「はい。驚かれました?」
「あ、え、はい」
「”またお会いできる日を楽しみにしています”とのこと。うちの爺からです」
「え、えーーっと……」
「ああ、申し遅れました。私、ミドリガメの”カメタキ”と申します。いや、眉唾の話だと思ってましたが、本当に我々と話せる人間がいるとは。長生きするものです」
亀がそう言い終えて、”ハッハ”と笑い声を上げる。
私は、お爺ちゃんの教訓を思い出していた。
”物珍しいものに興味を惹かれ、それに時間を割くのも良いが、それ以上に質素な日常を大事になさい”
それに従うなら、この亀は見なかったことにして、買い物へ急ぐのが良いだろう。
そうすれば、私は日常に戻ることが出来る。
けれど、私は気づけば、亀を抱き上げていた。
「お、おやめなさい。お嬢さん。た、高い。怖い。どひゃぁ」
亀はバタバタと手足を振って抵抗している。
私はそんな亀を両手に抱え、病室に戻ることに決めた。




