昔話
「という話があってな」
病室でお爺ちゃんが私に少年時代に出会ったという、亀の話を聞かせてくれた。
私は手に持った棒アイスを口に運ぶ。
「ふーん」
不思議な話もあるもんだ。
「それで、その亀とはまた会えたの?」
私がそう尋ねると、お爺ちゃんはゆっくりと首を横に振った。
「いや、会えんかった。買い物帰りに田んぼに声をかけてみたが、返事は無かった」
「亀は嘘つきだね」
「ん?」
「だって、亀と喋れる方が貴重な体験に決まってるのに、お使いの方が大事って言ったんでしょ?」
「ああ……」
そう言った後、お爺ちゃんは遠くを見つめるように、目を細めた。
「いやぁ、あながち間違ってもなかったぞ。あの亀は」
「どうして?」
「儂の母さん……お前の”ひいおばあちゃん”は私が20歳の時に病気で亡くなったんだ。だから、儂は母親と過ごせる時間が少なかった。それに儂は高校から全寮制の学校に行って、卒業後は都会に出て就職をした。気づけば、親と十分に過ごせるような機会ってのは、あの年くらいしか無かったんだわ」
寂しそうな声色でお爺ちゃんが話すのを聞いて、私にもその気持ちが伝播してしまう。
そうだ。確か、昔そんな話を母から聞いた気もする。
私は今14歳だから、6年後にお母さんが居なくなるってことか……
だめだだめだ、そんなテンションが下がることを考えるのは辞めよう。
「それでお爺ちゃん。今の亀の話の教訓は?」
私とお爺ちゃんの会話には一つルールがあった。
それは、お互いお話を終えた後に教訓を”一つ”述べること。
両親が共働きで忙しいのもあって、ここ半年の私は、自身の暇つぶしと、お爺ちゃんを寂しがらせないようにという理由で、ほぼ毎日のように、お爺ちゃんのお見舞いに来ていた。
そして、お爺ちゃんはいつも楽しいお話を沢山してくれるので、幼い頃から大好きなのである。
「そうだな……じゃあ教訓は ”物珍しいものに興味を惹かれ、それに時間を割くのも良いが、それ以上に質素な日常を大事になさい” というのはどうだろう?」
「うーん、いまいちピンとこないけど」
「じゃあ、”舞子が喋る亀に出会ったら、お爺ちゃんが会いたがっていましたよと伝えてほしい”というのは」
「それ、全然教訓でも何でもないよ」
”ハハ”とお爺ちゃんが高笑いをするので、私も釣られて笑った。




