第9話:九州平定と朝廷の屈服
**『大いなる野望Ⅲ 天下統一編』**
**第9話:九州平定と朝廷の屈服**
播磨の赤壁における勝利の激震は、瞬く間に日本全土を駆け巡った。
西国の絶対王者・毛利一族の完全なる屈服。その報に接した全国の諸将は、あまりの衝撃に言葉を失った。織部信綱を「成り上がりの逆賊」と見下していた者たちも、武力・資力・謀略のすべてで十万の大軍を壊滅させた「鬼のごとき覇道」の前に、ただ戦慄するほかなかったのである。
最初に動いたのは、九州の猛者・島津家であった。
「信綱に逆らうは、天の意に逆らうに等しい」
武勇を誇る島津の当主は、みずから髪を落とし、降伏の使者を播磨へ送った。これに続くように、北陸の英傑・柴田をはじめとする巨大大名たちも、次々と降伏の書状を差し出してきた。
信綱は一戦も交えぬまま、九州・四国・北陸・東北に至るまで、日本全土をその傘下に収めた。足軽の倅から身を起こした男が、ついに日本中の武士の頂点に立ったのである。
「殿、日本全土の平定、完了いたしました」
播磨の陣中で、お葉が深々と平伏して告げた。だが、信綱の表情に満足の色はない。
「全土の平定など、まだ道の半ばだ」
信綱は鋭い眼光で、東の空、京の都を睨みつけた。
「俺を『朝敵』と断じ、戦乱の種を撒いた腐れ公家どもが、京に残っている。奴らの古い権威を根底から叩き潰さねば、真の平和など来ん」
信綱は腰の刀を強く握りしめた。
「全軍に命ずる。京へ乗り込むぞ!」
*
数日後。
織部の旗印を掲げた五万の軍勢が、地鳴りのような行進とともに、京へ入った。先頭を行くのは、柴崎左近率いる鉄砲騎馬隊。整然と、そして重厚に進むその姿に、京の民は息をのんで平伏した。
信綱は大軍を従え、内裏へ直接乗り込んだ。
信綱を「朝敵」とする宣旨を出した関白・九条兼雅ら、腐敗した公家どもは、威圧感と甲冑の群れを前に、紫宸殿の畳の上で青ざめ、がたがたと震えていた。
「し、信綱……! 武器を捨てよ! ここをどこだと心得……」
兼雅が震える声を絞り出したが、信綱は容赦なく土足のまま殿上へ踏み込み、兼雅の目の前に刀を突き立てた。
ドスッ――。
畳を穿つ不気味な音に、公家たちが悲鳴を上げる。
「九条兼雅」
信綱の声は、氷のように冷たかった。
「道玄の金と脅しに怯え、己の保身のために天下を混乱に陥れた気分はどうだ。朝廷の権威を笠に着て、陰で糸を引いたお前たちの不徳が、どれほどの血を流させたか、分かっているのか」
「ひ、ひぃぃっ! わ、私は道玄に脅されたのだ! 帝をお守りするため、やむなく……!」
見苦しく命乞いをする兼雅を、信綱は冷たく見下ろした。
「言い訳は聞かん。本日をもって、九条兼雅、および朝敵の宣旨に関わった公家一門は、全員追放。全財産は没収とする。異論のある者は、今すぐこの俺の首を刎ねてみよ」
静寂が、殿内を支配した。
信綱の圧倒的な気迫の前に、声を上げる公家は一人もいない。長きにわたり武士の上に君臨してきた「朝廷の絶対的権威」が、信綱の力によって、完全に屈服した瞬間であった。
公家どもを徹底して追放した信綱は、朝廷の機構を自らの支配下に置き、新たな統治体制の樹立を宣言した。
*
その夜。二条城の天守。
京の街並みを見下ろす信綱のもとへ、お葉が密書を携えて現れた。
「殿、追放された兼雅らを陰で操っていた黒幕の居場所が、判明いたしました」
「道玄か」
信綱の目が、危うい光を帯びる。
「はい。支えも手足も失った御影道玄は、丹波の山上にある古城へ逃げ込みました。残党や、道玄に心酔する宗教勢力を集め、最後の抗戦を試みているようです」
信綱の口の端に、不敵な笑みが浮かんだ。
「将棋の駒をすべて失い、ほとんど一人で古城に立てこもったか。……二十年に及ぶ因縁、ここで断ち切る」
信綱は静かに立ち上がった。
「左近! 全軍を率いて丹波へ向かうぞ! 道玄の籠もる孤城を、影も形もなく焼き尽くせ!」
(第9話 完)




