↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大いなる野望 敵の城を買いました。~30石の武士が商人と軍師を味方につけ、謀略で大名になるまで~  作者: 松本 俊介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/36

第5話:不敗の猛将

**『大いなる野望Ⅲ 天下統一編』**

**第5話:不敗の猛将**


「押せ! 押せい! 織部の首を取る者は、我が吉川家第一の功臣ぞ!」


播磨の平原に、地鳴りのような咆哮が響き渡っていた。


水軍の全滅で兵糧を断たれ、窮地に陥った毛利軍が放った、乾坤一擲の切り札。それが、生涯七十余戦無敗を誇る毛利家第一の猛将・吉川元春と、その率いる二万の先鋒であった。


重厚な甲冑に身を固めた吉川の精鋭は、まさに鬼神の群れである。兵糧が尽きかけた焦燥を凄まじい狂気に変え、行く手を粉砕しながら、一直線に信綱の本陣を目指して突き進んでくる。


「敵先鋒、前線陣地を突破! 本陣まであと三里! 勢い、止まりませぬ!」


伝令の叫びが飛び交う陣中で、信綱は床几にどっかと腰を据え、腕を組んでいた。側近たちが青ざめるなかで、その面差しには恐れの色ひとつない。


「来たか、不敗の猛将。……左近は着陣したか」


「ハッ! 北陸の抑えより急行した柴崎様、たった今、三千の鉄砲騎馬隊を率いて、敵の側面へ回り込みました!」


信綱は口元を吊り上げた。


「よし。左近に伝えよ。『誉れはいらん。勝機を掴み、毛利の牙をへし折ってこい』とな」


    *


播磨の野の北端、小高い丘の陰。


柴崎左近は馬上で、長槍を静かに握りしめていた。背後に控えるのは、信綱から託された織部家最強の切り札、三千の鉄砲騎馬隊。馬上で扱いやすい短い筒を携え、機動力と火力を兼ね備えた精鋭である。


「殿の御命令だ」


左近は低い声で、居並ぶ将兵を見渡した。


「敵は毛利が誇る不敗の猛将、吉川元春。武士として、これ以上の相手はおらん。我らが一歩でも退き、ここで吉川を止められねば、殿の天下は潰えるぞ。……全軍、槍を立てよ! 火縄に火を点せ!」


「おぉぉぉっ!」


三千の騎馬が一斉に火縄を灯し、硝煙の匂いが丘を包んだ。


やがて吉川軍は、信綱の本陣を目前に勝利を確信し、突撃の速度を上げた。その瞬間――。


「今だ! 突撃ぃぃぃっ!」


左近の雷鳴のような号令とともに、丘の上から三千騎が一気に駆け下りた。疾風のごとき蹄の音が、大地を揺らす。


「なにっ!? 側面から敵だと!?」


うろたえる吉川軍の脇腹へ迫り、左近が叫ぶ。


「放てぇぇぇっ!」


ドドドドォォォン――!


三千の銃弾が、吉川軍の側面をえぐり取った。馬上からの一斉射撃で乱れた敵陣へ、騎馬隊は長槍を掲げたまま雪崩れ込む。


「ぬうわぁぁぁっ!」


「怯むな! 立て直せ!」


吉川軍の陣形が、一瞬で崩れ落ちた。だがさすがは無敗の猛将の精鋭、すぐに槍を揃え、左近の騎馬隊を押し返し始める。


「突っ込め! 織部の成り上がりどもを叩き潰せ!」


最前線で、巨大な大薙刀を振り回し、左近の部下を薙ぎ払う男がいた。吉川元春その人である。全身から放たれる圧倒的な威圧と武勇。その咆哮ひとつで、毛利兵は息を吹き返し、凄まじい反撃に転じた。


「敵将、吉川……! 見事な武勇!」


左近は馬を進め、大薙刀を振るう吉川の前に立ちはだかった。


「柴崎左近! 織部信綱が臣、その御首、頂戴いたす!」


「尾張の小童どもが! わしの前に立つか!」


両雄の視線が交錯し、一騎打ちの火花が散る。


吉川の大薙刀が空を裂き、左近の長槍がそれを弾く。キン! ガン! と甲高い金属音が轟き、互いの鎧が削られ、血が飛び散る。まさに武士の誉れを賭けた死闘であった。


「はぁぁぁっ!」


吉川の入魂の一撃が、左近の兜の立物を吹き飛ばした。額から鮮血が流れ、視界が赤く染まる。


「終わりだ、左近!」


とどめを刺そうと、吉川が大薙刀を振りかぶる。その一瞬――。


左近の瞳に、信綱から授かった「勝利への執念」が燃え上がった。左近は、武士の矜持である正々堂々の打ち合いを捨て、腰の短筒を引き抜いた。


「なにっ……!?」


「殿が教えてくださった……勝つことこそが、真の誉れよ!」


至近距離。短筒が火を噴いた。


バァァァン!


「ぐはぁっ……!」


弾は吉川の胸甲を撃ち抜き、猛将の巨体は、馬上から崩れ落ちた。


「吉川様が討たれたぞぉぉぉっ!」


大将の落馬を目の当たりにした吉川軍二万に、決定的な動揺が走る。そこへ左近の騎馬隊が畳みかけて突入し、毛利の先鋒は完全に瓦解。悲鳴を上げながら、西へと敗走していった。


額の血を拭った左近は、倒れた吉川を見下ろし、静かに槍を下ろした。


「……見事な手応えであった、吉川殿」


血煙の立つ戦場に、織部勢の勝鬨が轟き渡った。


    *


播磨の本陣で、吉川軍撃破の報を受けた信綱は、大きく頷いた。


「よくやった、左近。毛利の『武』の象徴を打ち砕いたな」


「はっ! 左近、命を賭して任を果たしました!」


深く頭を下げる左近。小早川の『智』を黒崎玄蕃が封じ、吉川の『武』を柴崎左近が砕いた。十万を誇った毛利軍の戦意は、いまや完全に潰えようとしていた。


だが、信綱の表情は崩れない。


「勝利の杯を挙げるのは、まだ早い。……玄蕃、京の動きはどうだ」


影の中から、玄蕃が足早に進み出た。その顔には、かつてない懸念が浮かんでいる。


「殿……毛利の敗色が濃くなったことで、追い詰められた御影道玄が、最後の暴走を始めました。京の公家どもを脅し、殿を正式に『朝敵』とする宣旨を出させたのです」


「何だと……!?」


「さらに、道玄本人が、この私に直接接触を図ってきております」


黒幕・御影道玄が、ついに表舞台へ姿を現したのだった。


(第5話 完)


**次回予告(第6話:黒幕の盤上戯)**

京で信綱が正式に「朝敵」とされ、城下が騒然とするなか、軍師・黒崎玄蕃の前に姿を現した黒幕・御影道玄。「信綱を殺し、私とともに新しい国を作れ」――甘い誘惑に、玄蕃の忠誠が試される!


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。