表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R.B1  作者: 白川桜蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/15

エピソード1-2

 だから、私たちがいちばん気をつけなきゃいけない相手はヤクザ。

 危ないならやらなきゃいい、って言われたらそれまで。

 でもガキの私たちにだって、お金は必要なんだ。

 与えてくれる人がいないなら、自分でどうにかするしかない。

 お金がなきゃ生きていけないのは、大人もガキも同じ。

 合法で稼げないなら、違法で稼ぐしかない。

 凛は、驚くほど顔が広い。同い年はもちろん、上は三十代から四十代くらいまで。

 なぜそんな人脈があるのかは分からないけど、その繋がりを使って、お金に困っている子にバイトを回している。

 凛が紹介してくる仕事は、コンビニの店員から売春まで、本当に幅が広い。

 私は、そんな凛に仕事探しを相談することにした。

「月、どのくらい必要なの?」

 凛が神妙な顔で距離を詰めてくる。

「えっと……最低で三十かな」

「〝ウリ〟なしで、三十ねえ……」

 やっぱり、身体を売らずに月三十万円は厳しいらしい。

 三十万円あれば生活費と高校の学費を払っても、まだ余裕がある。

 でも、だからって身体を売る気にはなれなかった。

「……あっ!」

 凛が急に声を上げ、スマホを取り出した。迷いのない動きで操作して、耳に当てる。

「お疲れ様です!」

 いつもより少し高い声。

「あの、人ってまだ探していますか?」

 間を置いて、

「よかった。働きたい子がいるんですけど」

 さらに続ける。

「はい。私とタメなんですけど、身長もありますし、顔も綺麗なんで、年齢はバレないと思います」

 短いやり取りのあと、

「分かりました。明日ですね。連絡して伝えておきます」

 凛はそう言って通話を切った。

「綾、明日の夕方面接だって」

「は? 明日?」

「うん。私も一緒に行くから」

「……それって、なんのバイト?」

「キャバ」

 ……キャバ? それって、キャバクラのこと?

「……無理!!」

「なんで?」

「私にお水の仕事なんて、できると思ってるの?」

 人見知りで短気な私に、接客業の頂点クラスのキャバクラ勤務が務まるわけがない。

「大丈夫だよ。別に指名を取れって話じゃないし。ヘルプでいいんだから」

 ……ヘルプ。それってお手伝い……みたいな?

「先輩にちょうど頼まれてたんだよね。『ヘルプで使える若くて見た目のいい女の子を紹介してくれ』って。綾ならAランクだと思うよ」

「Aランク?」

「そう、お店の女の子にランクをつけてるの。AからDまであって、Aがいちばん上」

「なに、それ……」

 女を品定めしているみたいで、気分が悪い。なんかステーキ用の肉みたいだし。

「ちょっと失礼な話だけど……仕方ないんだって。この業界も厳しいし、そのくらいしないと客が集まらないらしいよ」

 しみじみと飲み屋の事情を語る凛が、どうしても同い年には見えなかった。

「それに綾は、お金欲しいんでしょ?」

 ……その通りです。

「もしAランクなら、指名がなくても出勤するだけで、保証金が一晩で五万だよ」

「ご……五万!?」

「うん。魅力的でしょ?」

 一晩で五万。月に六日、出勤したら三十万円の収入になる。

「……ねえ、凛」

「うん?」

「それ、本当に怪しい店とかじゃないでしょうね?」

 私は凛の肩を掴んだ。

「当たり前じゃん。さすがに綾を騙そうとは思わないよ」

「本当でしょうね?」

「本当だってば。私は、綾に殴られたくないし」

 凛は両手を顔の前に出し、首を振りながら後ずさった。

 その時だった。

「綾」

 背後から男の声が飛んできた。

「あっ! 綾、瑞貴が呼んでるよ」

 私は小さく息を吐き、凛の耳元に口を寄せる。

「明日、面接の二時間前に連絡ちょうだい」

「うん。分かった」

 凛は笑って頷いた。

 声のした方を見ると、男の子たちの輪の中心で、瑞貴がこちらを見て手招きしている。

「凛、明日ね」

 私はその場を離れ、瑞貴のもとへ向かった。気だるさを隠す気はなく、瑞貴の目の前に立つ。

「……なに?」

 用事があるなら、そっちから来ればいいのに。

 そんな想いを込めて瑞貴を見つめる。いや、ちょっと睨んでいたかもしれない。

「なんで、そんな不機嫌な顔してんだよ?」

 歩道と車道を分けるガードレールに腰を掛けた瑞貴が、下から私を見上げてくる。

「不機嫌じゃなくて、ダルいの」

「それって、ババァみてぇだな」

 瑞貴は楽しそうに笑った。

「私、アンタとタメなんだけど」

「知ってる」

 いつまでも笑い続ける瑞貴を前に、溜息が出た。

「私になんか用事があったんじゃないの?」

 その言葉で、瑞貴は笑うのをぴたりと止めた。

「凛となにを話してたんだ?」

 瑞貴は、ハイライトの入った茶色い髪を、鬱陶しそうにかき上げる。

「髪、切れば?」

 凛との話をしたくなくて、私は話題を逸らした。

「なんで?」

「邪魔じゃない?」

「別に邪魔じゃない。てか、お前のほうが髪は長いじゃん」

 瑞貴が、私の胸の下まである髪を指さす。

「私はいいの。似合ってるから」

「じゃあ、俺も似合ってるからいいじゃん」

 自信満々に言い切られる。

「……自分で言うなよ……」

 小さく呟いた声は届かなかったらしく、瑞貴は笑ったままだ。

 ……確かに。瑞貴は、かっこいい。

 整った眉の下に切れ長の目。通った鼻筋に、薄く形のいい唇。

 癖のある髪も、その顔によく合っている。

 身長は、百六十九センチある私より頭ひとつ分高い。まだ伸びるはずだ。

 長い手足。人をまとめるのがうまく、このグループでも自然と中心にいる。

 軽そうな見た目とは裏腹で、性格は真逆だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ