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R.B1  作者: 白川桜蓮


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2/17

エピソード1-1

 私は別に不幸なんかじゃない。

 特別な家庭事情があるわけでもないし、私を取り巻く状況だってありがちな話だと思っている。

 父親はギャンブルに溺れ、仕事もせず、借金を作って、ある日突然、姿を消した。

 母親はそんな父親にさっさと見切りをつけ、毎日遊び歩き、日替わりで違う男を家に連れてくる。

 父と母にとって、一人娘の私は邪魔な存在だった。それは、自分でもよく分かっている。

 こんな話、どこにでもある。ありすぎて同情すらしてもらえない。

 同じような境遇の子なんて、この世にいくらでもいるんだから。


 父親がいなくなって二年が経ったころ、私はこの家に必要とされていないのだと、はっきりと思い知らされた。

「アンタ、一人暮らしすれば?」

 父との離婚が正式に成立し、借金取りに追われることがなくなった母が、なんでもないことのように言いだした。

「別にいいけど。必要なお金は、出してくれるんだよね?」

「いいわよ。ただし、出せるのは部屋を借りるときに必要なお金だけ。毎月の生活費は自分でどうにかしてね」

 母は美しく口元を引き上げて、妖艶な笑みを浮かべる。

「はぁ?」

 生活費。家賃に、光熱費に、食費。

 それに、勉強嫌いな私が必死で合格した高校の学費。

「それって、普通のバイトで生活できるの?」

「バイトなんてしなくていいわよ」

「じゃあ、どうやって生活するの?」

「男を見つければいいじゃない。アンタは、私に似て顔だけはいいんだから」

 高校入学を控えた娘に対して、母親が向ける言葉じゃない。

 だけど、この人はそういう人だった。

 それに、一人暮らしは母にとっても、私にとっても都合がいい。

 私が帰ってこなければ、母は男を家に連れ込み放題。

 私も、母が男を連れてくるたびに、気を遣って夜中に外へ出る必要はなくなる。

「……分かった。私は、この家を出て行く」

 正直に言えば、お金の当てはあった。だから私は、迷わず頷いた。

「そう。頑張ってね」

 母は私によく似た顔で、にこりと笑った。


「凛、バイトを紹介してくれない?」

 一人暮らしを決めたその日の夜、私は繁華街の溜まり場にいた。

 遊び友達の凛を見つけて、声をかける。

「なんで? 綾、お金に困ってんの?」

「困ってるっていうか……」

「短期? 長期? 額は?」

 派遣会社の面接官みたいな質問に、私は思わず笑ってしまった。

「長期で稼げる方がいい」

「長期で稼げるって言ったら、秘密のバイトがあるけど……綾、〝ウリ〟はいやでしょ?」

「そうだね。〝ウリ〟は勘弁」

「だよね……。てか、そんなバイトを綾に紹介したら、私が瑞貴に怒られるもんね」

「は? なんでこのタイミングで瑞貴が出てくるの?」

「え? あんたたち、付き合ってるんじゃないの!?」

 ……付き合ってる?

 私と瑞貴が?

「私たちは、そんな関係じゃないよ」

 凛の盛大な勘違いに、私は鼻で笑った。

「……でも、寝たんでしょ?」

「うん、寝た。……っていうか、なんで知ってんの?」

「そんなの綾と瑞貴を見てたら分かるよ。逆に分からない方が不思議だと思う」

 凛は呆れたように笑った。

「そっか」

「てか、瑞貴のことが好きだから寝たんじゃないの?」

「瑞貴のことは好きだけど……恋愛の対象じゃないから」

「それって、瑞貴も知ってるの?」

「うん。話して、納得してくれたから寝たの」

「そうなんだ」

 凛と瑞貴とは、遊び友達として出会った。

 母親が男を家に連れ込むたび、私は繁華街で時間を潰していた。

 そのとき声をかけてくれたのが、凛だった。

 小柄な身長に、大きな瞳と柔らかそうな髪。

 見た目は女の子らしいのに、中身は驚くほどさっぱりしている。

 そのギャップが、私にはちょうどよかった。

 どちらかといえば、女の子らしい性格の女は苦手だから。

 すぐ泣いたり、ひとりで行動できない子といると、落ち着かない。

 初めて凛に会ったとき、その見た目だけで友達にはなれないと思った。

 でも、一緒に過ごすうちに、凛の性格が好きになった。

 今では、会わない日がない。

 同じくらいの歳で、家に帰りたくない子たち。夜になると自然と集まり、気づけば顔なじみになる。

 次の約束をして、別れるわけじゃない。

 それでも翌日には、約束でもしたかのように、また集まっている。

 同じ時間を過ごすうちに、仲間意識が生まれていった。

 いつの間にか、私たちはひとつのグループになっていた。

 学校の仲良しグループとは違う。

 深夜の繁華街に集まる、帰る場所を持たない子たちの集まり。

 表向きに目的があるわけじゃない。

 ただ、裏でやっていることを外の人間には話せなかった。

 その大半が、違法なことだから。

 バレてしまうと警察も動くし、この辺りのチームやヤクザが黙っているはずがない。

 でもまあ、目を付けられるのは時間の問題だと思っている。

 相手が警察なら、まだましだ。捕まったとしても鑑別、最悪でも年少。

 できれば行きたくはないけれど、いつかはここへ戻ってこられる。

 人生に期待なんて持っていない私たちにとって、経歴に少し傷がついたところで、大した問題じゃない。

 年少に入ったことを武勇伝みたいに語る奴もいるくらいだ。

 そういう話を尊敬や羨望の目で聞いている連中も、正直どうかと思うけれど。

 でも、相手がヤクザだったら話は別だ。反省したふりが通じる相手じゃない。

 未成年のガキに本職が本気を出すことはないだろうけど、やっていることが遊びの範疇を越えていたら終わりだ。


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