エピソード4-3
「で、話ってなに?」
瑞貴がポケットからタバコの箱を出したのを見て、私はそこから一本奪い取りながら聞いた。
瑞貴は驚く様子もなく、自分も一本くわえると、いつものジッポで火を差し出してくる。
私は遠慮なく火をもらった。
私のタバコに火がつくと、瑞貴も自分のタバコに火をつける。
煙を一度吸い込み、ゆっくり吐き出してから言った。
「チームを作ろうと思う」
「……え?」
「準備は、もう整ってる」
「準備?」
「他のチームに負けねぇくらいの人数は揃ってる。しかも、ほとんどが繁華街で名の通った連中だ」
「……」
「仕切ってるヤクザや他のチームにも話は通した」
「いつの間に?」
「お前がバイトに入り浸っている間だ」
今、さらっと嫌味を言われた気がした。
でも事実だから、なにも反論ができない。
ここは聞き流すしかない。
「……そう」
「ああ」
「もうチーム作るって決まってるんでしょ。なんでわざわざ私に話すの? 私、関係ないじゃん」
「は?」
瑞貴の表情が一気に険しくなり、顔が至近距離まで近づく。
……近いんですけど。
「お前も、そのチームのメンバーだからだ」
「……はい?」
「なんだ?」
「チームって、男ばっかりじゃないの?」
「いや」
「……そうなの?」
「今までグループにいた男は、そのまま全員チームに入る」
「女は?」
「グループと違って、危険が増える」
「でしょ?」
「だから、お前と凛だけ残す」
「……は? なんで私と凛?」
「お前らなら、男相手でもやり合えるからだ」
「……」
「嬉しいだろ?」
全然、嬉しくない。
そんな理由で喜べるわけがない。
「光栄に思え。うちのチームで、初代の女メンバーはお前と凛だけだ」
「……」
だから、光栄じゃないし。それって、女扱いしていないって言われてるのと同じじゃない。
この話は、丁重にお断りしよう。そう考えて、私は口を開く。
「……あの」
「断るとか言うなよ」
瑞貴が、鋭い目で睨みつけてくる。
無理っぽい。これは本気の目だ。
この状態の瑞貴は、なにを言っても聞かないパターンだ。
「……ちなみに凛は、なんて言ってるの?」
「お前と一緒なら問題ないって喜んでる。今日は準備で、朝からずっと繁華街を走り回ってる」
……凛。だから、今日は一度も顔を見なかったんだ。
「でも、私はバイトがあるから、毎日なんて顔を出せないよ」
「別に毎日来る必要はねぇ。時間がある時だけでいい」
『お前は』って、ことは……。
「他の子は毎日来るんでしょ?」
「まぁな」
「じゃあ、私だけ来ないのはおかしいじゃん」
「綾」
「なに?」
「チームのトップは俺だ。俺がいいって言っている。誰も文句なんか言えねぇ」
「……そう」
どうやら、私は断れないらしい。
「チームに入るよな?」
「……うん」
「決まりだな」
瑞貴は満足そうに笑った。
軽い眩暈がした。
校内に午後の授業開始のチャイムが響く。
最近、この音を聞くと強烈な眠気が襲ってくる。
いつも居眠りしているせいだろうか。
「教室に戻るか?」
瑞貴が顔を覗き込んでくる。
戻りたい気持ちはあるけど、今から行っても間に合わない。
それに、もう限界だった。
「……ここで少し寝る」
「そうか」
てっきり瑞貴は、このソファを譲ってくれるものだと思っていた。
でも、違った。瑞貴は私の肩に腕を回し、一気に引き寄せた。
抵抗する暇もなく、身体が倒れる。頭は、そのまま瑞貴の膝に収まった。
「なにしてるの?」
その体勢のまま尋ねる。
「眠いんだろ?」
「うん」
「じゃあ、寝ればいい」
「このまま?」
「文句あるか?」
文句はない。言いたいことはあるけど。
瑞貴が頭を撫でる。
その手が妙に落ち着いていて、私は、そのまま眠りに落ちた。
意識が遠のく瞬間、ふと疑問が浮かぶ。
友達同士で、これは普通なのか。
恋人じゃないのに。
私は瑞貴に抱かれた。
それでも、私は割り切れている。
少なくとも、今は。
答えを出す前に、眠りに沈んだ。
◇◇◇◇◇
目を覚ましたのは、すべての授業が終わり、部活帰りの生徒が校舎を出始めたころだった。
「……ん……」
最初に目に入ったのは、瑞貴の顔だった。
「やっと起きた」
瑞貴の一言で、眠りに落ちる直前までの記憶が一気に戻ってきた。
「……今、何時?」
気のせいであってほしい。
そう思いながら窓の外を見る。
……やっぱり、暗い。
「十九時過ぎ」
「……は?」
言葉が出ない。
いったい何時間寝ていたんだろう。寝すぎにも程がある。
「……バイト……」
「あ?」
「バイトに行かなきゃ!」
頭の中が一気に騒がしくなる。
準備があるから二十時までには店に入らないといけない。
その前に一度、家に帰りたい。
……シャワーで済ませる? いや、それでも間に合わない。
「もう、なんで起こしてくれなかったの?」
「……は?」
分かっている。瑞貴は悪くない。むしろ、ここまで付き合ってくれたのに。
それでも焦りで思考がぐちゃぐちゃになって、八つ当たりみたいな言葉しか出てこなかった。
「……どうしよう……」
瑞貴は呆れたように溜息をついた。
「……綾」




