表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R.B1  作者: 白川桜蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/19

エピソード4-2

 私は食堂の入口に視線を向ける。

 壁に腕を組んで寄りかかる瑞貴。その周りを、数人の男の子たちが囲んでいる。全員、なぜか難しい顔をしていた。

 瑞貴は眉間に深く皺を寄せ、話を聞いている。

 なにかあったのか。……それとも、空腹で機嫌が悪い瑞貴に、みんなが気圧されているだけかもしれない。

 どちらにしても、すぐには戻ってきそうにない。

 ここでいいか。

 私はそう判断して通話ボタンを押し、耳に当てた。

「おはようございます、雪乃ママ」

『おはよう、綾乃ちゃん。ごめんなさいね、今、学校よね?』

「はい。でも、お昼休みなので大丈夫です。どうかしましたか?」

 理由は、聞かなくても分かっている。

『今日の夜なんだけど、お店出てもらえない?』

「今日ですか?」

『そうなの。上得意のお客様から、貸し切りの予約が入ったのよ』

「か、貸し切り?」

 あの店を? 貸し切りって、その上得意のお客様は、一体、いくら払うんだろう。

『本当なら急な貸し切りは断るんだけど、その方は特別だから』

「……そうですか」

 どんな客なんだろう。好奇心が動いた。

『無理かしら?』

「大丈夫です」

『よかった。じゃあ、夜、お店で待ってるわね』

「はい、分かりました」

 電話に気を取られていて、気づかなかった。

 瑞貴が、すぐ後ろまで戻ってきていたことに。

「今日もバイトか?」

 瑞貴の声に、身体がびくっと反応した。

 終話ボタンを押したばかりのスマホを、落としそうになる。

 向かいの席に腰を下ろした瑞貴は、まっすぐ私を見ていた。

「うん……そう」

 また、なにか言われる。

 身構えて、身体に力が入る。

 けれど――……。

「あんまり無理するなよ。身体を壊すぞ」

「え……あ、うん」

 意外な言葉に拍子抜けしてしまった。

「なに、間抜けな顔してんだ?」

「は? 誰に言ってんの?」

「お前以外に誰がいる」

「……っ!」

「いいから、早く食え。タバコ行くぞ」

 腹が立つ。

 文句も言いたい。

 でも、それ以上に今はタバコが吸いたかった。

 少し迷って、私は我慢を選んだ。

 さっき伸ばしかけたホットサンドに、もう一度手を伸ばす。

 それを見て、瑞貴が鼻で笑った。

 いつか、絶対に仕返しする。

 心の中で、そう決めた。


 昼食を終え、私と瑞貴は食堂を出た。

 向かったのは、校舎三階の空き教室。

 入学してすぐ、タバコを吸う場所を探していた私に、瑞貴が教えてくれた。

「吸いたくなったら、ここを使えばいい」

 一年の私たちが、校舎内の空き教室なんて使っていたら、上級生が黙っていないんじゃないだろうか。

 そう思ったけれど、空き教室に入ってすぐ納得した。

 中には、同じようにタバコを求めて集まった生徒が何人もいた。

 そこにあったのは見覚えのある顔ばかり。

 繁華街の溜まり場で見かけた子たちだ。

 凛や瑞貴以外とはあまり話さない私は、名前も年齢も知らない。

 それでも、上履きを見れば分かる。

 青、黄、赤が入り混じっている。

 この高校は、学年ごとに上履きの色が決まっている。

 一年が赤、二年が黄、三年が青。

 つまり、この教室には一年から三年までが集まっている。

 繁華街の溜まり場にいたということは、瑞貴のグループ。

 その中心にいるのが、瑞貴。

 だから、ここを使っていても誰も文句を言わない。

 そう理解した日から、私はタバコを吸いたくなると、この空き教室に来るようになった。

 教室の前には、見張りらしい男の子が三人立っていた。

 瑞貴の姿を見つけると、揃って頭を下げる。

 その上履きは、黄色。二年だった。

 彼らの前を、瑞貴は気怠そうに通り過ぎていく。

 頭を下げられる瑞貴を見たとき、ひどく遠い存在に感じた。

 空き教室のドアを開けた瑞貴が、立ち尽くしている私に顎で中へ入るよう示す。

 私は素直に従い、先に教室に入った。

「……誰もいない」

 いつもは人が溢れるほどいるのに、今日はひとりもいない。

「お前に話がある。だから今日は誰も入れねぇようにした」

 後から入ってきた瑞貴が、ドアを閉めながら言った。

「話?」

「ああ」

「なに?」

「まあ、座れ」

 教室の奥にある、誰がどこから持ち込んだのか分からないソファを指差す。

 嫌な予感がする。

 今さら、バイトの話じゃないでしょうね?

 そう思っている間に、瑞貴は私の横を通り過ぎてソファに腰を下ろした。

 私は、少し距離を取るように向かいのソファに座る。

「おい」

「な……なに?」

「なんでそっちに座るんだ?」

「は?」

「お前が座るのは、ここって決まってるだろ」

 確かに、瑞貴の言う通りだ。

 この教室に来るようになってから、私が座るのはいつも瑞貴の隣。

 でもそれは、人が多くて他に空いていないからで。

「今日は誰もいないんだから、こっちでもいいでしょ?」

「ダメだ」

「なんで?」

「お前の席は、ここって決まってんだよ」

「……それって、誰が決めたの?」

「俺」

 ……なに、それ。どこまで本気なんだろう。

「ねえ」

「あ?」

「あんた、何様?」

「俺様」

 胸を張って言われた。

 ……聞いた私が間違っていた。

 それ以上言う気が失せて、私は大きく息を吐き、立ち上がって瑞貴の隣に移動した。

 さっさと話を終わらせて、自分の教室に戻ろう。

 それがいちばんだ。

 これ以上一緒にいたら、調子が狂いそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ