1-2 元引きこもりはご褒美にチャンスを与えられる
異世界転生、してみたいですよね。
「本来、お主はあの場で死ぬはずではなかったのじゃ」
「どういうことですか?」
いきなりの発言に理解が追いつかない。
現に俺は死んでこの場にいるのだ。
それなのに、死ぬはずではないとは意味が分からない。
「あの強盗事件は女性店員が包丁で傷つけられ、それにビビった犯人が逃げ出す流れだったんじゃよ」
「・・・・・・」
神様の言葉に俺は何も言えなかった。
女性店員のことはわからないが、犯人に関しては腑に落ちることがある。
彼は俺を刺した後、自分のしたことに恐れをなして逃げ出した。
それぐらい肝っ玉が小さいので、その流れは納得せざるを得ない。
「じゃが、お主が乱入したせいで運命が変わってしまった。犯人の包丁がお主に襲い掛かり、その命を奪ってしまったわけじゃ」
「・・・・・・つまり、俺は無駄なことをした、と?」
「まあ、結果としてはそうじゃな」
「・・・・・・」
あっさりと認められ、俺はさらにショックを受ける。
自分の正義を信じての行動が意味が無いと言われたのだ。
今までを否定された気分である。
そんな俺の反応を見て、神様は申し訳なさそうに話を続ける。
「といっても、お主の行動のおかげで女性店員は怪我一つなかった。そういう意味では救ったとは言えなくないのう」
「気休めは結構です・・・・・・けど、ありがとうございます」
慰めの言葉を素直には受け入れられなかった。
それでも少しは気持ちが楽になった。
「それで、チャンスとはどういうことですか?」
気持ちが落ち着いたことで、本題の方が気になった。
人間の命は一度きりなので、今更チャンスがあるとは到底思えない。
一体、何が起こっているのだろうか?
「一言で言うと、もう一度だけ人生を謳歌してみないか、ということじゃな?」
「はい?」
予想外の内容に呆けた声を漏らす。
当然の反応だろう。
ただでさえ死後の世界という非現実的な状況なのに、さらに混乱することを言われたら仕方がない。
だが、神様はいたって真剣な表情だった。
「お主には異世界で別の人物として生きてもらう」
「別の人物? 俺自身ではなく?」
説明を聞き、首を傾げる。
てっきり俺自身として生きると思っていたが、そういうことではないようだ。
「お主の死は既に周囲に認識されておる。そんな状況下で生き返ったら、更なる混乱を招くじゃろう」
「まあ、そうですね」
説明に納得する。
たしかに死んだ人間が生き返ったなんて、確実に大変なことになる。
とんでもない出来事として扱われるのならまだしも、怪物として扱われることにもなりかねない。
そうなれば、人生の謳歌などできるはずがない。
「というわけで、お主にはシェイド=アモンという少年として過ごしてもらう」
「少年? しかも、日本人ではなさそうですね」
名前を聞いた時点でまったく聞き覚えがない。
しかも、少年とはどういうことだろうか?
「10歳の少年じゃな。異世界だから日本人ではないのは当たり前じゃよ」
「たしかにそうですね」
「ちなみに、中性的で可愛らしい見た目の少年じゃ。今のお主とは似ても似つかないのう」
「・・・・・・余計なお世話ですよ」
気にしていることを指摘され、イラッとしてしまう。
元々身体を鍛えていたが、3年の引きこもり生活でだらしない身体になってしまった。
ずっと鍛え続けていたら、あんな風に強盗犯に後れを取る事なんてなかった。
「異世界転生、というやつですか? でも、おかしくないですか?」
「何がじゃ?」
神様は首を傾げる。
異世界転生という言葉を聞けば、期待に胸を膨らませるだろう。
引きこもり生活の間にそういう作品をたしなんでいた。
主人公達が異世界で活躍する姿と当時の自分の姿の差に悲しい気持ちで一杯だった。
まさか自分にもチャンスが回ってくるなんてと思ったが、それよりも気になることがあった。
「俺がシェイド少年として人生を謳歌するのなら、そのシェイド少年本人はどうするんですか?」
「っ⁉」
俺の指摘に神様の表情が変わる。
指摘されたくない所だったのか、視線を彷徨わせる。
言い訳を口にしようとしているが、小さく動く口からはまともな言葉が出てこない。
何かあるのは確実だろう。
そんな神様にはっきりと予想を突きつける。
「もしかして、そのシェイド少年は既に亡くなっているのでは? だからこそ、俺が彼の代わりに生きるという話になったのでしょう?」
「・・・・・・」
神様はその場に視線を落とす。
それだけで俺の言ったことが真実であることがわかった。
一体、どういうつもりなのだろうか?
洗いざらい話してもらおう。
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