40. 相談
久しぶりのスピード更新……
これまたキャラの強い女です……
「あのー、別のところで相談されたらどうですか?」
詐欺にあって家を追い出されそう。貯金もない。こんなものここでするような相談じゃない。もっと専門的なとこでやるべきだ。
「私、大学二年生の二十歳で……」
「あのー、無視しないでもらえます?」
「あっ、名前は雛川 由紀って言って」
「あれ? 聞こえてます? ねぇ?」
「あれは、二ヶ月ほど前」
「おい」
「るせぇ童貞ぶち殺すぞ」
「こっわ。え、急にこっわ。え、何この人……」
というか、この物語の女達は全員童貞に何か恨みでもあるのだろうか。
「あれは二週間前のことだった……」
「そして当たり前のように回想入るんですね……」
◇◆◇
『私はいつも通り自分の体を縄で縛って、紙袋の覆面を被って大学のキャンパスを歩いていたの』
『そのいつもどおりはおかしい』
『みんな、私を冷ややかな目で見ていたわ』
『でしょうね』
二ヶ月前の私は、このいつもの日常に飽き飽きしていた。
『その格好を飽きることはないでしょ』
刺激が足りない、そう感じていた。
『だから十分だって』
「はぁー、暇ね。何かいい出会いはないかしら? イケメンに声をかけられたり」
そんなことを呟きながら歩いていた。
『その格好の女に急に声をかけるイケメンはいないと思いますけどね』
「最近は、大学のみんなもまたお前か、もう見飽きたって感じの目で見てくるし……」
『どんだけそれやってたんだよ』
そんなある日、彼はやってきた。
キャンパス内を歩く。紙袋の覆面だけあって、視界は悪い。前は見えても、横はまるで見えない。刺激を探して歩いていると、ドンッと横から何かがぶつかった。
「きゃっ!」
「うわっ!」
どうやら誰かがぶつかったらしい。私は横が見えないからしょうがないとして、角でもないところでこうしてぶつかるなんていたずら? そう思いながらも、横を見ると、男の人が尻もちをついていた。男の目の前には散らばった紙。なるほど。どうやらこれらを見ていて、私に気づかなかったらしい。
すると、男はハッと顔を上げながら言う。
「あの、気づかなくて、すみま……ヒッ!」
男はすみませんと言いかけて、私の顔を見るや否や、小さな悲鳴を上げて、腰を抜かす。
『まぁたしかに紙袋覆面の全身縛られた人見たらそうなりますよね』
人の顔を見てそんな反応するなんて失礼な奴だ。怯えられても嬉しくない。
『素顔は未だ見えてないんですけどね。それから怯えられたくないならその格好やめれば?』
私の顔に何か変な物でも付いているのだろうか?
『紙袋は変な物に入らないんですかね?』
と、思ったが、その考えは一瞬にして吹き飛ぶ。
「あ、こちらこそごめんなさい……」
「い、いえ……」
「イケメン……」
「え?」
そう、イケメンだったのだ。声もカッコいい。私は自分の胸の中で何かが燃え上がるのを感じた。これを逃してはダメだ。そう思った。
「あの!」
「ヒッ! な、なんですか?」
「食事に行きませんか?」
「えっ?」
このままの格好では怪しまれるかもしれない。私は急いで覆面を取った。
『かもじゃなくて確実にですし、もう手遅れだと思いますけどね』
「あっ、綺麗だ……」
男は、私の顔を見てそう言った。体温が高くなるのがわかる。私は急いで縄を取り、彼を食事に再度誘った。抵抗は若干していたが、ぶつかったお詫びということで、なんとか了承を得た。そしてその日の夜、近くのレストランで食事を取ることになった。
目一杯のお化粧に、勝負下着。今日はこのままゴールインするつもりまんまんで行った。
そうして始まった食事会。彼とはいろいろ話した。名前は江川 涼というらしい。
涼さんは、私と同級生らしい。涼さんの家は父が他界しており、貧乏で、下に兄弟がいる。母を少しでも楽させるために、バイトをいくつも掛け持ちしているらしい。
罪悪感が湧いた。彼にとって、外食というのはお金がかかって嫌らしい。そんな彼を私は無理やり誘ってしまった。それでも、ぶつかったのは自分だからと食事を了承したと。ここは私が出す! 私はそう言った。当然彼に止められたが、関係ない。私が無理やり会計を済ませると、彼はありがとうと言った。
その日以来、私は彼とよく話すようになった。一週間ほどして告白すると、OKしてくれた。嬉しかった。私は、彼の負担を少しでも減らしたい、そう思った。私はバイトをすることにした。もらった給料の半分を彼に渡す。彼は遠慮していたが、私が押すと受け取った。
そうしたある日、彼が私に頭を下げてきた。聞けば、弟が今度、留学することになったそうだ。だがお金が足りないらしい。今度の給料が入ったらすぐに返す。彼はそう言った。私は喜んで、貯金を全額下ろし、彼に渡した。彼は泣いていた。泣きながら、ありがとうと言っていた。
しかし、それ以来私が彼に会うことは無かった。電話をかけても、繋がらない。そうこうして一週間が過ぎた。家賃の取り立てが来た。
私は、ネットの掲示板に相談してみた。どうやら詐欺らしい。私は騙されていた。気づいたときには遅かった。こんなバカらしいこと、親にも言えない。一体どうすればいいのだろう。そんなとき、私はある噂を聞きつけた。なんでも、無料で相談に乗ってくれる料理店があるらしい。
◇◆◇
「と、言うわけ」
「すみません、最初の格好のインパクトが強すぎて何も入ってこないんですが」
「私は一体どうしたらいいの!?」
「知らないっすよ、警察に言えば?」
「警察じゃ私の悩みを解決してくれるわけないでしょ?」
「ここよりよっぽどしてくれると思いますけど」
「でも、警察に話したら涼さんが捕まってしまうじゃない!」
「? 捕まえたいんじゃないんですか?」
「? 私がいつそんなこと言ったの?」
「は? いや、普通に考えて……じゃあむしろ何をしたいんですか?」
「会いたいのよ、涼さんに、もう一度」
「会ってどうするんですか? お金を返してもらうんですか?」
「そんなことしたら意味ないじゃない」
「は?」
「ぜーんぶ、彼に騙されてたって思うと、たまらなく興奮するの。彼の貧乏は嘘で、それにまんまと騙されてバイトして、お金を貢ぐ私。あ、あぁっ! なんて恥ずかして惨めなの!? でも、それがいい! 興奮するわ! 彼にもう一度会って、バカにされたいの。罵って欲しいの」
「え、えぇ……」
なんとこの女、生粋のドMだった。流石に洒落にならないレベルのドMである。
「あのね、はっきり言いますけど……流石にバカじゃないですか? 住む家も無くなるかもしれないんですよ!? そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ! 人の性癖にとやかくいうつもりはないですけど、もうちょっと時と場合を!」
「あっ、結構いい……」
「は?」
「あ、あなた、私をバカな女だと思ってるんでしょ? そ、そして私を無理やり襲うんだわ。こんな年下の童貞に襲われるなんて……い、いいわ! どんときなさい!」
「うっわぁ……気色わる」
「はうっ!」
やばい。この女やばい。個性的な人は何人も見てきたが、今までとは全くタイプの違う人。どうすればいいのか何もわからない。
「あっ、そろそろバイト時間。じゃ、私は帰るわ」
そう言って、雛川さんはお会計を済ませ颯爽と出て行ってしまった。
◇◆◇
「ということがあってですね……」
「……………それは大変だったね」
その夜、勉強会の休憩時間に早瀬さんに雛川さんのことを話してみる。
「まじで度を超えたドMですよ。ここって、基本的にはドSが多いじゃないですか? なんか珍しくて」
「……………たしかに、そのタイプの変人は初めてだね」
「でしょ? ていうか、俺達は探偵じゃないんですから、あんなこと相談されてもねぇ?」
「……………んー、話を聞いて欲しかったんじゃない?」
「? 話を聞いただけじゃ……きちんと話し合って、それで解決した方が良くないですか?」
「……………そりゃ、世良くんみたいなバリバリのザ・コミュ力って人にはわからないと思うけど……」
「ふふっ、なんですかザ・コミュ力って」
早瀬さんの迷言につい笑ってしまう。
「……………真面目に聞いて」
「あ、はい、すみません」
ジト目……って言うとなんだか可愛い印象を受けるが、眉間に皺を寄せ、冷たい視線を送られ、一気に笑いが冷める。
「……………人って、話したくても話せないことって沢山あると思う。特に、例えば、その雛川さんみたいに、人とはちょっと違う考え方してる人とかってさ、相談に乗って、あれこれ言って欲しいんじゃなくて、ただ、自分の話を聞いて欲しいんだと思う。自分の心の中の、言いたくても言えないことを、ただ誰かに聞いてほしいんだと思う」
「あぁ、なんか、女の人とかに多いって聞きますね。なるほど……でも、あんなに楽観的なあの人が?」
俺の罵倒で喘いでいた雛川さんを思い出す。とてもそんな繊細には見えない。
「……………そりゃ、いつもそうってわけじゃないと思うよ。世良くんの話からも、すごいポジティブってのはわかったから」
「あれはポジティブの次元を超えてません? ピンチはチャンス! って人はいてもピンチはナイス! って人は中々……」
「……………だから、その人って今、一文無しで家を追い出されそうなんでしょ? その人の性癖は理解できないけど、今の状態に、少なからず焦ってるんじゃない?」
「興奮の方が強いだけで?」
「……………うん。興奮するからって、全く焦らないってわけじゃないんだし。むしろ、ピンチはピンチってきちんと認識してるからこそ、興奮するわけだから、人並みには焦ってるんじゃないかな?」
「なるほど……たしかに、言われてみればそうですね」
「……………人と違えば、それだけ話せないこともあるよ」
「そっかー……」
俺はチラリと早瀬さんを見る。話したくても話せない、か……
「それじゃあ、早瀬さんも何かあったりしますか?」
「……………ん、それってどういう意味?」
しまった、早瀬さんが変人みたいな言い方になってしまった。まぁ実際否定はできないのだが。
「あぁ、いや、そういうことじゃなくてですね……早瀬さんは、何かあるのかなー? って思っただけで、別にその、人と違う、変人、みたいな意味ではなくてですね。あー、それで、ないんですか?」
「……………ある」
「えっ、何ですか? 俺で良ければ聞きますよ?」
「……………ていうか、世良くんにある」
「まじすか!? 話してください! いつでもウェルカムなんで!」
「……………世良くん、友達とよく遊びに行ってるし、忙しいのは知ってる。ただ……途中まででいいから、あの、こないだ買った本の感想を聞きたいなって……」
そう言われて思い出す。前に早瀬さんにおすすめされて買った本、容疑者Oの鬼謀。
「あぁ! あれですか。全部読みましたよ! すっごい面白かったです! 早瀬さんの言った通りコメディ強めで! 俺、ハマっちゃって、読み終わって早速二巻買っちゃいましたよ! 今は三巻の途中です!」
「……………そ、そうなんだ……」
「ほんとは、面白かったって言おうと思ったんですけど、中々タイミングが掴めなくて……。それに、なんか俺みたいな初心者が自信満々に本の感想言ったりするのって、早瀬さん嫌かなーって思ったりして」
「ふふっ、本の初心者って……変なの」
早瀬さんはおかしそうに笑う。
「……………私は、感想言ってもらった方が嬉しい。そのつもりで貸したし……。今まで、本を読んで面白いって思うことはあっても、それを共有したことはなかったから」
「なるほど……」
「……………中盤の、岡崎くんの絵日記……」
「あははっ、あれは大爆笑しましたよ! 小学生なのに妙に大人びてて、それなのにやってることはアホらしくて!」
「……………そう、そこのギャップがすごいおもしろかった」
「シリアスな導入も絶妙で、ギャグの中の伏線がすごかったですよね! 俺、何回も見返して!」
「……………うん。あの本は伏線にすごく凝ってて」
俺達は笑い合う。勉強も忘れ、面白かったところを言い合う。
「それで──」
「世良くぅん?」
「「あっ」」
横から不気味な声とオーラ。俺達はゆっくりと振り返る。
───パキッ
「げぇっ」
そこには、先生が立っており、不気味な笑顔で、手に持っていたシャーペンを指で無言でへし折る。
「何してるのかなぁ? 勉強、終わったのかなぁ?」
「い、今からやらせていただきます……」
「彩ちゃんも、いいね?」
「……………は、はい」
勉強会は、まだまだ続く─────
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