41. 祭りの予定
「だはぁ〜! 終わったぁー!」
怒涛のテスト責め最終日を無事に終え、居間で思いっきり寝そべり、体を伸ばす。
「……………おつかれ」
「いやいや早瀬さんこそ。なんかすみません。今回は色々と教えて貰っちゃって」
「……………別に、私も勉強になったからいい。それより、どうだった?」
「あはは〜、どうでしょう? そりゃ流石に、前回よりも手応えは感じましたけど、自信があるかって言われたら、そうでもないんですよねー」
「……………大丈夫だよ。あんなに頑張ってたんだし」
「えっへへ、早瀬さんがそういうならそうですかねー。早瀬さんはどうだったんですか?」
「……………ん、ベストは尽くしたつもり。前回と同じぐらいじゃないかな? 自信はある」
「おぉー! やっぱりさすがですねー! 俺も早瀬さんの説明すっごいわかりやすかったですし!」
「……………そんなこと……」
「いやいや! 下手な教師にわかりやすかったですよ!」
「……………お、大げさ」
早瀬さんは顔を赤くして、俯いてしまう。
照れているのだ。そんなところもすごく可愛い。俺は追い討ちをかける。
「そんなことないですって! ほんっと、全部早瀬さんのおかげですよ! やっぱ流石ですねー! 本読んでると頭良くなるんですかね? でも、早瀬さんは理系も得意だし、やっぱり、日頃の行いですかね?」
「……………そ、そんなことない……。今回だって、世良くんが自分であれだけ頑張ったからで……。私はただ手伝っただけ。別に私なんて」
「そのとーり! 全部彩ちゃんのおかげ! 世良は何もしてなーい! よく分かってんじゃねぇか世良ぁ」
早瀬さんの言葉を遮り、横から菊井さんが無理やり会話に乱入してくる。
「げぇっ、いたんですか……」
「あぁ? 世良お前最近調子乗ってねーか?」
「え、いや、乗ってないですよ!」
「うし! これは粛清だな!」
「えっ、いや、やめてください!」
殴られる? 蹴られる? それとも両方? 俺はとっさに身構える。
……が、しばらく経っても何もしてこない。俺は慎重に目を開ける。
すると、菊井さんは手帳くらいのサイズの何かを手に持ち、上に掲げていた。
「トゥルルルットゥル〜! 世良のスマホ〜!」
「えっ? あっ、ちょ、返してくださいよ!」
菊井さんは某ネコ型ロボット系アニメの道具を出すときの効果音と声を物真似していた。どうやら持っているのは俺のスマホだったらしい。
「ほい、いいぞ! 返してやる」
「えっ、あっ、ありがとうございます」
菊井さんがヒョイっと投げるのを受け止める。
スマホを見てみるが、特に傷などは付いていない。流石に精密機械はまずいと思ったのだろうか。菊井さんにしては面白い。
と、そんなことを考えていると、突然スマホがピコンッとなる。
スマホを見てみると、桐生からのラインが来ているらしい。ラインを起動する。
「あれ? グループライン……。なんのようだ?」
普段は課題や授業の報告のときしか使われていないクラスラインで、桐生が何か送っている。珍しいことだ。もしかしたら、夏休みにもう一度クラス会でもやるつもりなのだろうか。グループを開く。
『@セラァ 誤爆か?……とりあえず、ドンマイ……』
俺をメンションして、何かわけのわからないラインを送ってきている。意味がわからない。俺がこのグループにラインをしたのなんて、二週間は前だ。むしろ気流の方こそ誤爆ではないか?
なんてことを考えて、グループを見てみると、今日の約一分前、自分から送った記憶のないメッセージが送られている。
『おっぱいがいっぱい。柔ったい物体。色っぽい女体。けったいな形態? いや、ちっぱいもモーマンタイ』
「………………」
グッ!
菊井さんが笑顔でウインクしながら親指を立てる。
「な、なぁにしてくれとんじゃぁぁぁああ!!!」
ピコンピコンッ
既読は増え続け、メッセージが追加される。
『@セラァ キモい死ね』
『@セラァ 変態の失態wしょーもない実態wwww』
「あ……ぁ…………」
「ハハハッ! 残念だったな世良ぁ! テストも終わったが、お前も終わったぁ! 童貞の醜態!」
「やかましいわ! くっそ、なんでこんなこと……」
「はっ! テメェが私の出番がないことをいいことに最近好き勝手やってたからなぁ! 今一度お前の立場をわからせてやる!」
「悪魔かあんたは! …………って、なんで俺のパスワード知ってんだよ!」
「あ? 単純すぎるし、キモいんだよ。自分の誕生日と彩ちゃんのたん」
「あぁー! あぁー!! 聞こえなーい!! 全っ然聞こえなーい!!」
「……………?」
「大体、ラインの名前なんだよ。セラァって、ちょっとイキってんじゃねーか!」
「イキってねーよ!」
「嘘つけよ! 個性出そうとしてんじゃねーか!」
「いや、それは……ゆ、ユーモアですよ!」
「中途半端なんだよ! やりきれてない感満載だな! これがユーモア? 笑わさんな! まぁ、お前のユーモア(笑)じゃ笑わねーけど!」
「うぅ、くっそ反論できねぇ……」
「残念でしたぁー! バーカバーカ!」
「ぬあぁぁぁ! 腹立つぅぅー!!」
「……………もう、菊井さん。そんなことはどうでもいい。今は話の途中。割り込まないで」
「うっ、彩ちゃん……ちぇっ」
「あぁ! 早瀬さん……俺との話を優先してくれるなんて……嬉しいっす、感激っす。……嬉しいっすけど…………どうでもよくはないですぅ……! 俺のクラスでの未来がかかってるんすよ!?」
「……………別にいいんじゃない? そんなに変わんないじゃん、世良くんのイメージと」
「ええぇ……俺そんなふうに思われてたんですか……」
「……………それより、私に渡したいものって何?」
「あっ、そうでした。ちょっと待っててください」
これはもともと俺が早瀬さんを呼んだのだ。
俺は、とりあえずラインに『ごめんなさい。知り合いが勝手に送っていました』と打ち、バッグに近づく。
そうして、バッグからあるものを取り出し、早瀬さんの前に出す。
「これ、勉強教えてもらったお礼です! ありがとうございました!」
「……………イチゴ大福……!」
そう、早瀬さんは駅前のイチゴ大福が大好物なのだ。
「……………いいの?」
「当たり前じゃないですか! そのために買ってきたんだから!」
「……………ありがとう……」
「はい!」
「けっ! なーにが『お礼です!』だ」
いいところで、またも邪魔が入る。
「彩ちゃん気ぃーつけろー。それ多分五十回ぐらい舐めてるぜ」
「舐めてねぇよ」
「嘘つけや」
「舐めてねぇつってんだろうがよ」
「舐めてねぇわけねぇだろうがよ」
「……………や、やっぱりいらない……」
「早瀬さん!?」
「ハハハッ! バーカ!」
ヤッパリカエスヨ
ボクナメテナイヨ?
ホントニカエスヨ
ア、ホラ! コナ! コナマダツイテル タベテナイショウコダヨ
アッ、ホントダ。ヤッパリモラウヨ
ゼヒ!
イタダキマス
ドーゾドーゾ
オイシイ……
ソレハヨカッタヨ
口の周りを真っ白に染めながら、早瀬さんは美味しそうに頬張る。とても可愛い。
「つか、そうまでして気に入られたいか。キモいなー」
「うるっさいな! 必死なんだよこっちだって! 中々心開いてくれないんだぞ!」
「うわー、出たー! 話しかければ好きになってくれるとでも思ってんのかねー?」
「い、いいじゃないですか思ったって! もう夏でしょ!? い、一緒に夏祭り行きたいんですよ。だから、それまでになんとかして仲良く……」
「いや無理だろ。ただでさえ外出嫌いなのに。人混みの中、男女2人きりで? 絶対無理だろ」
「う、うるさいな! まだわかんないでしょう!? 絶対やってやりますよ!」
「ほーう、言うたな?」
「あぁ、言いましたよ!」
「ほんじゃ今やってみろよ! どーせこれから先も、彩ちゃんに合わせてると、大した進展もねーだろ。」
「いやそれは……」
「ほーらな! やっぱむーりー!」
「なっ、上等だ! だったらやってやりますよ!」
頭きた! やってやる!
俺はイチゴ大福を食べ終わり、顔の周りを拭いている早瀬さんの目の前に立つ。早瀬さんは一瞬ビクッとして、すぐに、『……………なに?』と、聞く。
俺は、その場で二、三度深呼吸をして、呼吸を落ち着かせ、気合を入れていう。
「夏休み! 近くの湖の公園である夏祭り、一緒に行きませんか!?」
「……………むり。人混み嫌だし、めんどくさい」
「ですよねー…………」
ガーン!
あっさりと断られてしまった。
「ぷはっはっはっはっ!」
後ろでそれを聞いていた菊井さんが吹き出す。俺は恥ずかしくて、すぐにその場を離れ、菊井さんの方へ帰る。
「やーいやーい! 断られてやーんの!」
「う、うるせぇ……!」
「あれ? お前まさか結構ガチで傷ついてる感じ?」
「あぁそうだよ! 一世一代だぞ! すっげぇ緊張したんだぞ! 傷つくわ!」
予想はしてたが、やはり面と向かって言われるとかなりキツイ。今はまだこの程度の仲ということか……
すると、菊井さんが哀れむような目でこちらを見る。
「慰めならいらないっすよ……」
「は? バカかな? 私がお前を慰めるわけねーだろ。振られた振られた! 世良が振られた!」
「小学生の煽り方か! それはもっといらないっすよ!」
「だったらしゃーねーな、慰めてやる。ありがたく思えよ、ド(笑)ン(笑)マ(笑)イ(笑)!」
「慰めてねーだろそれぇ!」
「当たり前だろーがよ!」
「クッソォ! …………はーあ、自分だっていないくせに……」
「なぬっ!?」
反撃開始。
「お前今なんつった」
「いい歳こいて未だに彼氏なし。候補すらなし。夏祭り、友達はみーんな彼氏や夫と。一方自分は自室でビール。あぁ、窓から一人寂しく眺める花火は綺麗なんだろーな〜」
「てめ、言ってはいけないことを言ったな!」
「俺より状況酷い人がよく俺のこと煽れますね!」
「くそがぁ! もういい! 酒飲んで忘れる!!」
そう言って自室へ去っていく。なんという単純な人間。
すると、早瀬さんがこちらに近づき、俺の肩をトントンと叩いてくる。
「はい? どうしました?」
「……………夏祭りって、花火上がるの?」
「え? そりゃまぁ、祭りですから上がるんじゃないんですか?」
「……………そっか……花火、見たい……」
「花火、好きなんですか?」
早瀬さんがコクリと頷く。これはチャンスだ。
「じゃあ、やっぱり!」
「……………でも、祭りには行きたくない」
「えぇー」
「……………今までは家の窓から見てたけど……ここから見えるの?」
「さぁ? 俺もここのは初めてなんで」
「……………それもそうだよね……。どうしよう……」
2人で頭を悩ませる。ぶっちゃけ言えば、わがまま言わずに行くぞ! と言いたいところだが、多分この人、よほどの物じゃなければ、好きよりめんどくさいを取る。見れないならしょうがないで終わる可能性がある。それはなんとしても阻止したい。何かいい方法はないのだろうか……
「あっ、じゃあ」
「……………?」
名案が思い浮かぶ。打ち上げ花火に比べると力不足だが。
「一緒に庭で手持ち花火なんかどうですか? 規模はないですけど、結構楽しくて、綺麗だと思うんですけど」
「……………うん。それやりたい」
「そうですか、じゃあ夏祭りの日に、俺達だけのプチ祭りやりますか! 夕食は焼きそばとかタコ焼きなんかにして!」
「……………うん、すっごい楽しそう……!」
早瀬さんは目をキラキラさせながらそう言う。
俺はこの瞳を、そう簡単に忘れることはできないだろう。
最近なんだか普通にラブコメしてる気がする……
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