↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永満亭の早瀬さん  作者: 塩コンブ
第一章 永満亭
38/44

38. 傘

更新遅くなってすみません。



 とある小学校に赴任した若手男性教師。

 しかし、担任したクラスの生徒達は個性的な子供ばかりであった。そんな折、その小学校で事件が起きる。最初は、トイレットペーパーがなくなったり、変な放送が流されたりなど、小さな悪戯程度のトラブルだったのだが、次第にエスカレートしていき、やがてみんなの嫌われ者である別クラスの教師が行方不明になってしまう。謎は次第に解明していき、一連の犯行は自分のクラスの生徒によるものだと判明。犯人探しを始める男性教師。やがて、犯人の頭文字がOであることが判明。が、名字と名前のどちらも含めれば、Oはクラスに十人以上もいる。生徒達の日記を見ながら、少しずつ、その謎に触れていく─────


 『容疑者Oの鬼謀』

 あらすじにはそう書いてあった。たしかに、興味をそそる内容ではある。が、


「これ、本当にコメディーなんすか?」


「……………うん」


「えー、絶対違うでしょ。だってほら、あらすじがもう、内容もなんだかブラックそうですし、明らかにそんなギャグギャグしてないんですけど……」


「……………最初はみんな騙される。けど、生徒達がとにかく個性的で、小学生ながらの行動みたいなのもあって、面白い」


「まぁ、普通に面白そうではあるんで、読みはするんですけど……」


「……………うん。読んでみて」


 本当にコメディーなのだろうか? 早瀬さんが人とずれているだけで、そんなことはないのでは? 少々疑問が残る。


「……………なんか今、失礼なこと考えてなかった?」


 ジト目でこちらを見る早瀬さん。慌てて目を逸らす。


「はは、まさかまさか」


「……………そう」


 危なかった。菊井さんなら一発アウトだったし、問答無用で殴られてた。

 俺はとりあえず、話題を変える。


「それじゃあ、俺はこれ買ってきますけど、早瀬さんはこの辺で立ち読みでも?」


「……………いや、本当はそうして、面白いのがあったら買おうと思ってたけど、お金ほとんど持ってきてなかった」


「え、じゃあ、どうします?」


「……………その本買ったら、別の何処かに寄ろう」


「あー、なるほど。それじゃあとりあえず買ってきます」


 本を買い、俺達は店を出る。何もすることがないので、適当にその辺をぶらぶら歩きながら、早瀬さんに声をかける。


「それで、結局何します?」


「……………ショッピング……は、お金使うか……」


「んー」


「……………あっ」


 頭を悩ませていると、早瀬さんが声を上げる。


「……………ゲーセン、行ってみたい」


「あぁ、なるほど」


「……………クラス会で行ったときは、ほとんど遊べなかったし」


「そういえばそうでしたね……」


 あの趣味の悪い大人達の手によって。

 俺達はゲーセンへ向かった。


◇◇◇


「……………やっぱり、色々ある……」


「そうですねぇ。何かしてみたいものとかあります?」


「……………わかんない。おすすめは?」


「プリクラですね! 一緒に撮りましょう!」


「……………それは嫌」


「うっ」


 せっかくのデートだし、ツーショット写真でもと思ったが、丁重にお断りされてしまう。


「んー、ゲーセンって、別にそんな遊べるところでもないような気がしますけど」


「……………そうなの?」


「いや、男同士で行ったら結構楽しいんですけどね。シューティングゲームとか、音ゲー、対戦格闘ゲームとか。もちろんUFOキャッチャーなんかも。でも、ぶっちゃけ、女の人ってあんまりそういうの好きでもないでしょ? プリクラ撮ったり、せいぜいUFOキャッチャーぐらいかなぁと」


「……………ふーん。世良くんは結構ゲームするの?」


「割とバリバリしますよ。本格的な格闘ゲームみたいな、ちょっと敷居が高いのはあんまりしませんけど、友達と来たときはカーレースとかを」


「……………そっか。じゃあ、それやってみたい」


「え、まじすか?」


「……………? 難しいの?」


「いや、難易度はそんなに……」


「……………じゃあ、それしよう?」


「は、はい! 喜んで!」


 顔が崩れるのを、手で必死に抑える。


「……………じゃ、早く行こ」


「はい!」


◇◇◇


「…………………」


「…………………」


「あの、そろそろやめません?」


「……………むぅ、納得いかない」


「いや、早瀬さんが遅すぎるんですって。ていうか、お金ないんじゃなかったんすか?」


「……………一冊買うと、他にも好きな本がたくさん出てくるから。歯止め効かなくなるし」


「つまりお金を大量に消費してしまうと」


「……………うん」


「でも、今のままだと、どっちみち大量消費してしまいますよ!」


「うっ……………か、構わない……次こそは……!」


「べ、別のゲームっていう選択肢は?」


「……………あるわけない」


「ですよねー。………………はぁ」


 始めてから、もう10回はプレイしている。にもかかわらず、早瀬さんは先ほどから全く伸びていない。いや、たしかにタイムは縮まっているし、最下位だったのが、今では下から二番目になっているので、全く成長していないわけではないのだが、普通の人よりも遥かに成長スピードが遅い。遅すぎる。

 特別難しいわけでもない子供向けゲーム。初心者だって、この回数こなせばとっくにトップを走っていてもなんらおかしくない。

 どうやら早瀬さんは絶望的にゲームのセンスがないようだ。本ばかり読んでいるからだろうか?


 当然、消費したお金もかなりの高額になっている。


 下手くそなのに、負けず嫌いなのが余計たちが悪い。早瀬さんはまたお金を入れ、リロードする。


 俺はといえば、一緒にプレイしていても拉致があかないので、今は早瀬さんの横に立ち、プレイ中にアドバイスを送っている。


「いいですか? カーブのときはそんなに長い時間曲げすぎる必要も、わずかにブレーキをかける必要もありません。曲がったら、すぐに手を離して、真っ直ぐに戻してください」


「……………わかった」


───プ、プ、プーーン!


 ゲームが始まる。が、


「あぁぁぁ! 違いますよ! 真っ直ぐなときはブレーキ入りませんって!」


「最下位なんだからアイテムは後ろに投げても意味ありませんって!」


「体まで曲げる必要はありません! ハンドルだけでいいんです!」


「さっきも同じ落とし穴に落ちましたよね!? なんでそっち行っちゃうんですか!!」


 と、俺のツッコミ指導は止むことなく、早瀬さんは下から二番目という、最早見慣れた数字を再び叩き出していた。


「……………むぅぅ! お、か、し、い! これ、壊れてるんじゃないかな?」


「なわけないでしょう! おかしいのは早瀬さんの方ですよ!」


「……………ふっ、奴は四天王の中でも最弱……」


「四天王が誰かは知りませんが、その通りだと思います。ていうか、そのセリフどこで知ったんすか!?」


「……………よし、もう一回……」


「よしくない、よしくない! 全然よしくない!! もういい加減お金がもったいないですって! ね? もう終わりましょう?」


「……………わかった。ラスト一回、優勝してくる」


「もう無理ですって!」


「……………そんなことない。何か掴んだ気がした」


「さっきからそればっかりじゃないっすか! 掴んでばっかで一向に進展しない!」


「……………し、進展してる! ほ、ほら! タイムも三秒くらい縮んでる」


「でも下から二番目じゃないですか! 世間一般的にはそれは進展とは言わないですよ!」


 これ以上は、早瀬さんが本当に破産しかねない。というかしなくてももったいない。


(何か良い案は…………ハッ!)


「……………ラ、ラスト一回……」


「早瀬さん!」


 お金を入れようとしている早瀬さんを呼ぶと、ビクッと震えて、こちらを見る。


「……………なに?」


「いいんですか? 今そんなに使っちゃうと後になって好きな本を買えなくなりますよ? 金欠で」


「……………あ、たしかに。で、でも……」


「わ、わかりました! また今度! 一緒に来ましょう! だから今回は! ね?」


 と、なだめると同時に、ちゃっかり次回の約束を取り付けてみる。


「……………む、むぅ……それなら、まぁ……」


「えっ、マジすか?」


「……………何、違うの? 教えてくれるんじゃないの?」


「い、いえ! 喜んで教えさせていただきます!」


「……………うん。よろしく」


 気づいて無いのだろうか? 案外すんなり了承してくれた。早瀬さんは、機械から降りる。


「って、時間もそろそろいい頃ですね。帰りましょっか?」


「……………うん。…………あっ」


 数歩歩いたところで、早瀬さんが突然止まる。その目線は、目の前のUFOキャッチャーを向いている。


 中には、何やら見たことないキャラクターのぬいぐるみが。


「これ、欲しいんですか?」


「……………うん。これ、私が読んでた本のマスコットキャラで、可愛くて……」


 なんだか、ウサギみたいなクマみたいな犬みたいな、男にはいまいちヒットしないが、やはり女の子はこういうのが可愛いと思うのだろうか? いや、これも目の部分が片方だけ取れていたりしていて、色は明るいが、なんだか不気味な顔をしている。これ好きなのは女子でも珍しいのでは?


「……………ちょ、ちょっと取ってくる……」


「あぁぁ! 待ってください!」


「……………ん?」


「経験は?」


「……………ゼロ」


「じゃあ絶対無理ですって!」


「……………そんなことは……」


「ちょっと待っててください!」


 俺は機械の前に立つと、財布から三百円取り出し、入れる。これで三プレイできる。


 まずは一回目、とりあえずキャラクターを掴んでみて、重心、アームの強さ、機械の使い勝手などを確認する。


 次に二回目、さすがに一発でゴールまではいけないので、このプレイで、ゴールに少しでも近づける。


 ラスト三回目、がっちり掴んで、離す。ぬいぐるみはゴールで落ち、そのまま取手口へ。


 落ちてきたぬいぐるみを掴む。


「どっかのアホどもじゃないですけど、なーんかUFOキャッチャーは得意なんですよねぇ。はい」


「……………あ、ありがとう」


 そのままぬいぐるみを早瀬さんに手渡す。


「……………あ、お、お金……」


 早瀬さんはあたふたしながら、財布を取り出す。俺はそれを静止する。


「いいですって、これくらい」


「……………で、でも……」


「あー、あれですよ。あれ。あの、おすすめの本を教えてくれたお礼的な? 俺からのプレゼントです! このままじゃ格好つかないんで、もらってください!」


「……………じゃ、じゃあ……ありがと……」


 わずかに微笑みながらそう言う早瀬さん。


 あぁ……


(ほんっと! 可愛いなぁ!)



 こうして、俺達はしっかりゲーセンを満喫し、そのままショッピングセンターを出る。


◇◇◇




 ビューと、風が激しくなる。雨も強い。そして、折れる早瀬さんの傘……


「…………………」


「…………………」


 幸い、店を出たときは雨が弱くなっていて、これはラッキーだと、気分良く帰り始めたのだが、歩くにつれ、雨と風は強くなっていく。そして、先ほどピークを迎え、早瀬さんの傘はラッパ型になり、折れてしまった。俺達はとりあえず近くに雨宿りする。


「雨、止みませんね」


「……………うん。どうしよう」


「あっ、そういえば、シュンさんの傘があります! 使いましょう!」


「……………そうだね」


 急いで、先ほど買った傘を取り出す。


「…………………」


「…………………」


 広げてみると、写っているのは裸の漢。


「そういえばそうでしたね」


「……………なんで忘れてたんだろう。こんなデザイン、二度と忘れられなさそうなのに」


「なんで裸なんですかね? もっと普通のデザインはなかったんですかね?」


「……………これさして歩くのか……」


 早瀬さんはあからさまに嫌な顔をする。というか、当然だろう。誰だって嫌だ。シュンさんを除いて。


「あー、じゃあ、俺の傘使っていいですよ。俺がこれさすんで」


「……………え、でも」


「いいっていいって」


 俺は傘を無理やり押し付け、シュンさんの傘をさす。こんなの、気にしなければ大して恥ずかしくないはずだ──







──すっごい恥ずかしいぃぃぃい!


 いや、これをさして歩くこと自体は慣れた。が、先ほどから通行人に見られてはクスクスと笑われている。例えばこれをシュンさんみたいな頭一つ抜けたイケメンがさしているのならば、『この人ユーモアもあって素敵!』になるのだろうが、いかんせん俺はフツメン。シンプルにダサいで終わる。世の中顔か。


「……………大丈夫?」


「え、ま、まぁ」


「……………なんか、ごめん……」


「い、いえいえそんなこと」


「……………あのっ……一緒に入る?」


「えっ?」


 早瀬さんは顔を赤らめながらそう言う。やばい。可愛い。ていうか、一緒に入るって、相合傘ってこと? またとないチャンス。ここで遠慮するなんてもったいない。男を見せろ、俺!


「あ、あの……じゃあ、よろしくお願いします」


「……………うん」


 傘を閉じ、早瀬さんの傘に入る。


「…………………」


「…………………」


 お互いに無言。


(やばいやばいやばい! 近い! 近すぎる! 幸せすぎてやばい! おかしい! 絶対おかしい! 俺今日幸せすぎる! 明日マジで死ぬかもしれない! と、とにかく! 何か話を!)


「…………………」


「…………………」


(やっぱ無理ぃぃぃぃぃぃい!!)


 結局、俺達はお互い何も話すことが出来ず、終始無言のまま帰った。


 微妙に締まらないところが、実に俺らしい。と、帰った後に先生やシュンさんに笑われた。菊井さんはというと、相合傘の話をしただけで、怒りで顔が黒くなっていた。


 とりあえず、買い物デートはなんだかんだで成功だった。





これでデート編は終わりです。珍しく続いたラブコメのラブでした。次はいつになることやら。



ブックマーク、高評価、ご感想、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。