36. 初デート的な?
初めての2人きりでのお買い物!
デート。同級生である男女が2人きりで休日に共に買い物。これはもうデートと呼んで過言ではないのでは? うん。絶対過言じゃない。普通にデートだ。
横で傘をさして歩いている早瀬さんを見る。大雨のせいで傘をさす分間隔は広いし、風情はない。が、こうして2人でお出かけ、デートをするのは何気に初めてだ。
長かった。二ヶ月半。一緒に暮らしてきてやっとここまで来た。
せっかく邪魔者がいないんだ。時間は無駄にできない。少しでも多く話そう。
俺はそう思い、とりあえず名前を呼ぶ。
「早瀬さん」
「…………………」
返事がない。
「早瀬さん?」
「…………………」
ちらりと横を見るが、特に何かしているわけでもなく、ただ前を見て歩いている。どうやら聞こえてないらしい。声を気持ち大きくする。
「早瀬さん!」
「…………………」
「早瀬さん!!」
「えっ! ……………びっくりした。何?」
「あーいや、すみません。えっ……と、みんな酷いですねよね。車あるんだから乗れる人が行けばいいのに。そう思いません?」
「……………? なんて?」
「えっと、だから……俺達に押し付けて、みんな酷くないですか?」
「……………ごめん。全然聞こえない」
「ですから!」
───ザァーザァーザァァァー!
「…………………」
雨がうるさくて声がかき消される。
「ですから! みんな酷いですよね!?」
「……………え、まぁ、うん。酷いね」
「そういえば、最近どんな感じですか!? 学校」
「……………私の最近の格好?」
「いえそうじゃなくて、『学校』!!『スクール』の方です!」
「……………スク水? 格好ってそういう……」
「違うから!! ニアピン! なんでそこでそっちに行っちゃうんですか!? いきなり女子に最近のスク水の格好なんて聞かないですよ! 『スクール』です!!」
「……………スクープ?」
「それは『記事』でしょ! 『スクール』!!」
「……………スク水の生地? …………最低」
「一言も言ってないですよ!! なんでそこで地味に繋がっちゃうんですか!?」
「……………? なんて?」
「いやだから……! …………いや、なんかもういいです」
(外で話すのは無理だな……)
「なんでもありません……」
「……………あ、そう」
「今のは聞こえるのか……」
俺達はついに、一言も喋ることなく目的地に向かった。
◇◇◇
「いやぁ、やっぱり傘さしてても濡れますね。タオル持ってきてて正解でした」
大型のショッピングセンターの中、俺はタオルで頭を拭きながら、同じく横で頭を拭いている早瀬さんにそう言う。とりあえず目的地に着いたはいいが、体は濡れてしまっている。
「……………うん。大変……」
「いやほんと。俺なんてほら、少し薄着だったかもしれません。涼しいのは涼しいですけど、体が若干透けちゃって」
本来、普通のラブコメならここで、ヒロインの服が透けて、ブラジャーがあらわになる展開だが、現実はそう甘くない。これを見越してか、早瀬さんはしっかり着込んでおり、腕すら見えない。とはいえ、この店の中も冷房が効いているとはいえ、ジメジメしていて暑い。俺はつい、そのまま思ったことを言ってしまった。
「早瀬さん暑そうですね。それ脱がないんですか?」
「……………えっ……!」
「? …………あっ」
ついさっき、俺が薄着だと服が透ける話をしたばかり。これだとまるで
「……………最低……」
(俺が早瀬さんを透けさせたいみてぇじゃねぇーか!!)
「違うんです! そう意味じゃないですって!! 俺はそんなこと望んでません! いや、どっちかって言うと望んではいるんですが、そうじゃなくて!」
「……………言っとくけど絶対脱がないから。さっさと買い物終わらせて帰ろう」
(あぁぁぁぁぁぁ!! 失敗したぁぁ……!!)
◇◇◇
俺はスタートダッシュに失敗し、なんとも気まずい雰囲気のまま、買い物を進める。しかし、それにしても買う量が多い。あの人達が、この際だからと必要なものを色々とメモに書き足していった結果、当初の倍のくらいになっている。
「……………次、シュンさんが傘とワックス、それからメモ帳と香水だって」
「これまた多いですね……。一々店移るのもめんどくさいですし……」
「……………メモ帳ってあの寒いギャグをいつもメモしてるあれだよね?」
「はい、多分」
「……………じゃあ、それはいいか」
「うわ、結構バッサリいきますね」
「……………あのギャグのためにわざわざ買い物するなんて時間の無駄」
「たしかに……。あっ、それなら、香水もなんの匂いが良いとかよくわかりませんし、無視していいんじゃないですか?」
「……………そうだね。ついでに早く終わらせたいからワックスもいいや」
「じゃ、傘見に行きましょうかー」
傘の売ってある場所へ移動する。
「壊れにくい、出来るだけ頑丈な傘……って、傘も物によっては結構高いですからねー」
「……………それに、ユーモアのあるデザインって、どんな……」
「カッコよさ三割、ユーモア七割で俺が全裸でさしても似合いそうな傘…………らしいですね」
「……………そもそも全裸でさしても似合う傘ってあるの? そこまで来ると似合うかどうかは当人の問題じゃない? 普通の人はどんな傘でも絶対に似合わないと思うけど。まぁシュンさんはたしかに全裸が似合うけど」
「全裸は似合う似合わないなんですか? 人ってもともと全裸なのでは?」
「……………でもそれはあくまで全裸の時代であって、服を着て歩くのが当たり前になった現代では全裸の方が違和感出ると思うけど」
「じゃあシュンさんは時代に取り残された人なんですかね?」
「……………えぇ……自分の先祖がさむい変態全裸男なんて嫌なんだけど。まるで昔の人はみんなシュンさんだったみたいな……」
「じゃああの人はなんで全裸が似合うんですかね? いや、全裸で傘をさしてるって、もしかしたら未来的?」
「……………私の子孫があれなのも絶対嫌だけど」
「む、さっきから早瀬さん、嫌々ばっかり言って。なんなら全裸を許せるんですか?」
「……………そもそも全裸を許しちゃダメだと思うけど」
「あ、それもそうか……。じゃあシュンさんは一体?」
「……………ただの不適合者じゃない?」
「なるほど……」
俺達は適当に雑談しながら傘を手当たり次第に探す。が、中々いいものが見つからない。
「というか、なんで傘一つでこんな世界に一つあるかないかみたいなデザインの細かい指示出してくるんですかね」
「……………ただの奇抜なデザイン……じゃダメだよね」
「はぁ、なんか真面目に探すのアホらしくなってきました」
そう言いながら、少し高いが、『漢の筋肉美傘コーナー』と書かれてあるところへ手を突っ込み、適当に一本引き抜く。
「ん? なんだこれ?」
どうやら何が傘に柄が描かれているようだが、閉じていてはわからない。俺は傘を開くと、柄を見る。
「うわっ、何これ……」
そこには、全裸の男の人が横になり、自分の股を手で隠しながら目線をこちらに向けている大変既視感のある絵が描かれていた。すると、ほどなくして早瀬さんがボソリと呟く。
「……………漢版ヴィーナス。そう書いてある」
「…………………」
「…………………」
「芸術って、なんかカッコいいですよね」
「……………そうだね」
「漢版ってとこに、なんかユーモアがありますよね」
「……………そうだね」
「この人全裸だし、全裸の絵の傘さしてる人が全裸でも、あんまり違和感ないですよね」
「……………そうだね」
「…………………」
「…………………」
「これに……しましょうか」
「……………そうだね」
『またお越しくださいませー!』
会計を済ませ、店を出る。自分の物じゃないのに、アホみたいな買い物をしたせいで、ものすごくテンションが下がり、後悔に似た感情が湧き上がる。
「次……は何ですか?」
「……………えっと……店長……はめんどくさいから飛ばして、リョータ君とツボミちゃんの夏用子供服かな」
「なるほど」
(すっげぇ。ナチュラルに店長飛ばしたよこの人! やっぱ天然Sだよ早瀬さん!)
こうして、俺達は服屋へと向かう。
◇◇◇
「とりあえずリョータは汚れてもよくて、動きやすい服をいくつか買えばいいと思うんですけど」
「……………うん、そうだね。夏になると、より一層リョータ君は暴れるだろうし、汚れが落ちやすくて、あんまり目立たないジャージとかを沢山買えばなんとかなるかな? 育ち盛りだし、質より量って感じで。値段も安いのを」
そう言って、俺達はリョータに似合いそうな服を片っ端から取っていく。そして値段を見て吟味。やがて手元に残ったのは上下セットで四着ほど。値段は大してしない。
「ふぅ。リョータはとりあえずこんなもんでいいですかね」
「……………問題はツボミちゃん」
「女の子ですし、リョータみたいにはいきませんからね。出来るだけ可愛いのを選んであげないと」
「……………うん」
女の子用の子供服コーナーへ入る。
「やっぱり、女の子ですし服は早瀬さんが選んだ方がいいんじゃないですかね? 男の俺が選んでも仕方ないですし」
「……………でも私、そういうオシャレには昔から気を使ったことなんてないから、センスなんて……」
「えっ、でも今も無茶苦茶可愛いじゃないですか」
「へっ? ……………な、何が?」
「何って、早瀬さんの私服ですよ。超似合ってますって! 俺、前から思ってましたもん! 早瀬さんの私服すげー可愛いなぁって」
「……………い、いや……そんなことは……」
「ま、まぁ? そ、素材が良いってのも……あ、あるんでしょうけど……?」
顔が羞恥心で赤くなっているのがわかる。早瀬さんも真っ赤だ。邪魔者がいないし、さっきは失敗してしまったので、恥ずかしいのをグッと堪え、大胆に攻めてみる。
「いやほんと、早瀬さんはセンスありますって! そ、そんなに可愛いんですから!」
「……………でもこれ……先生が選んだ服だし」
「へっ?」
「……………今までは大抵お母さんが服買ってきてくれたけど、今年は無理で。仕方ないから先生が出かけるときについでに買ってきてもらってる。だからこれは先生のセンスで、私にあるかどうかはまた別だと思うけど」
「あぁ、そうですか……」
(あぁー、なんでここまで来て先生を褒めなきゃいけないんだろ……)
「い、いやでも! やっぱり素材がいいとさらに可愛くなるというか!」
「……………別に、お世辞いらない……」
(お世辞じゃないんだけどなぁ……)
とはいえ、これ以上攻めたら逆に殴られそうだ。大人しくすることに決めた。
「……………だから、世良くんが決めて」
「え、えぇー。でもやっぱり、女の子なんですし早瀬さんの方が」
「……………いいから決めて」
「は、はい……」
(ツボミちゃんに似合いそうなもの……)
「あ、これなんていいかも」
そばにあった、可愛らしいフリルの付いた洋服を取る。よく似合いそうだ。すると、さらにその近くにもツボミちゃんに似合いそうな服が。
「あ、このズボンも可愛い」
「これも」
「あれも」
「スカートも女の子っぽくていいよな……」
「それも!」
「ワンピース……!」
「これは少し露出が多いかな」
「絶対似合うよこの服!」
と、どんどん、どんどん似合いそうな服が出てくる。
「……………それで、三十分間考え込んだ結果がこれ?」
「ん、んんー……いやぁ、中々絞れなくて……」
手元にあるのは五着。リョータと比べ、値段も高いのでこれをあとはもう半分にしたいのが、どれも似合いそうで選べない。
「あ、じゃあこれの中から早瀬さんが選んでくださいよ。予め候補が決まってるなら簡単じゃないですか?」
「……………ん、わかった……」
早瀬さんはその後数分悩むと、三着取って、そのままレジへ持っていった。
◇◇◇
やはり……
薄々気づいてのだが、先ほどのレジの店員の反応で確信が持てた。もっとも、早瀬さんは鈍いので何も気づいてないみたいだが。
服を選んでいるとき、俺達を珍しいものでも見たかのような目でこちらを向いて、ヒソヒソと話す人達。レジで店員の一瞬だけ驚いた感じの表情。
そして、まだ五歳児くらいの子供服を真剣に悩んでいる若い男女2人。これから導き出される答えは一つ。
まるで俺達が若くして子供を産んでそのまま育てているカップル的な目で見られている。
(子供服無しで見ても、こうして2人で買い物なんて、デートしてる恋人に見えるんだろうなぁ……)
思わず顔がにやけてしまう。俺達が恋人。買い物を押し付けられたのは癪だが、こうしてデートの実感を得られることはすごく嬉しい。ここまできたら、もう多少の顔の緩みなんて気にしてられない。
「……………世良くん……」
「はい?」
呼ばれたので、急いで見ると、早瀬さんがこちらをジト目で見ている。
「……………何ニヤニヤしてるの?」
「へっ?」
早瀬さんの睨むような視線に顔を咄嗟に動かし、周りを見る。
考え事をしていて気づかなかったが、服屋から戻るときに、そのままこの『女用の下着コーナー』へ足を踏み入れていたらしい。
そしてそこでニヤニヤしている男、俺。
すぐに事態を飲み込む。
「あっ、いや」
「……………別にそういうふうに考えるのは男の子だしいいけど、こうして2人で買い物してるときにニヤニヤするのはやめて欲しいんだけど」
「いやこれは違うんですって!」
「……………こっちまで恥ずかしいというかさ、もうちょっと自重できない?」
「いや、そうじゃなくて……」
「……………TPOを弁えてさ、そんなところ構わず誰にでも」
「違います!!」
「え?」
「俺は! 好きな人の下着でしか興奮しません!! …………あっ……」
早瀬さんの視線が、一気に冷たくなっていく。
「……………へぇ、全く嬉しくない情報どうもありがとう」
(またやっちまったァァァァア!!)
「……………どうでもいいけど、今からは5mは離れて歩いてね」
(NOooooooooooooooooh!!)
世良くん、今回は失敗ばかりですね……次回に期待です。
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