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永満亭の早瀬さん  作者: 塩コンブ
第一章 永満亭
35/44

35. 雨と飴と鞭

 外からは大量の雨粒が地面を打ち付ける音が響く。

 冷房の効いた居間からは感じられないが、おそらく外はじめじめとまとわりつくような暑さなのだろう。


「とうとう本格的に梅雨入りしましたねー」


 昨日まではまだ晴れている時間帯もちょくちょくあったのだが、今日は晴れる気配が一切見られない。休日であることに、俺達はホッと胸を撫で下ろす。


「ったく、ほんとこの時期はうぜーよな」


「それね! 俺なんか高校時代は自転車通学だったからキツかったなぁ。カッパ着ないといけないんだけど、その分さらに暑くなるから、着たら今度は汗で濡れちゃうんだよね」


「あー、たしかにそれは辛いですねー。俺達はまだ学校近いんで傘さして行けばなんとか……。まぁ、替えの靴下くらいは必要ですけど」


「しかも梅雨明けたら本格的な夏入りだもんな。やっぱ夏より冬の方がいいよな」


「ですねー」


「あぁーッ!!」


 などと俺達が雑談していると、キッチンからフミさんの叫び声。俺達は急いで向かう。


「どうしたんですか!?」


「困ったわぁ。お醤油が切れてる……」


 フミさんは頭を抱えながらそういう。全員に悪感が走った。



◇◇◇



「てことで、ついでだから他にも色々必要な物。誰か買ってきてくれないかしら?」


「「「…………………」」」


 全員が沈黙する。つい先程まで、みんなでこんな雨の日には出かけたくないという話をしていたのだ。当然、フミさんの頼みになる者はいない。


「世良、お前暇そうだな。行けよ」


 最初に口を開いたのは菊井さん。人になすりつけるのという最低の戦術。


「いやいや、そういう菊井さんこそ暇そうですね? せっかくだし気分転換に行ったらどうですか?」


「私が? そんなわけねぇだろ。ただまぁ、暇っつうなら他にもいるよな。シュン、菜々、ハゲ、マっさん、彩ちゃん?」


 菊井さんがそう振ると、彼らは口々に反論を述べ出す。


「すまんな、あたしはこういう湿っぽい空気は苦手でな。顔が濡れると力が出ないんだ」


「アンパンマンかあんたは」


「……………私も本が濡れちゃう」


「持っていかなければいいのでは?」


「……………それはダメ」


「横暴だな!」


「世良くん、給料上げるからさ! ダメ?」


「大人げな! とんだクズハゲ野郎ですね」


「世良くーん? 留年になんてなりたくないよねー?」


「おっとー、もっと最低なやつがいたぞー」


「いや〜、俺ってイケメンだからー」


「えっ、それ今関係ある?」


「ギャグセンも高いし?」


「関係ないけどそれは全力で否定します」


「一俳優としては、体の健康には気を使わないといけないからさぁ。俺の体は俺だけの物じゃないっていうか?」


「なんだろう、そうなんだけど全く納得できない」


「しかも一番まともな理由かよ……」


 シュンさんはしてやったりといった、誇らしげ顔で笑っている。学年に一人はいた、意識〝だけ〟はご立派なうざいやつ。すごいデジャブだ。


 すると、今度は攻撃の刃が菊井さんに向けられる。


「菊井さんは何か行けない理由あるのぉー?」


「テメェらも理由にはなってなかっただろうが!」


「特にないなら菊井さんよろしく〜」


 先生の猛攻。菊井さんはたじろぎながら答える。


「わ、私はほら、可愛いし!」


「は? じゃあ菊井さんで決まりに……」


「いやいやいや! ほら! あれだあれ! あのー、あ、雨に濡れて、服が透けるだろ? そしたらほら、私可愛いから、襲われるかもしれねぇじゃん」


「透けない服着れば?」


「生憎今持ってねぇんだ」


「すごい嘘! 平然とつきましたね……」


 菊井さんはなんとか回避すると、こちらを見ながらため息を吐いて口を開く。


「はぁ……あのな? 私のお母さんがさ……」


「へ? なんの話?」


「とある男の人の名前忘れちゃったらしいんだよ」


「え、今更!? 今更そのネタやるの!? まぁ、いいですけど……。で? なんて言ってたんです?」


「なんでも、雨の日に買い物に行ってくれるやつのことらしいんだ。……ん? 男で、雨の日に率先して買い物? そら世良やないかい。あいつは雨の日に買い物するためだけに生まれた悲しき存在なのよー。すぐわかったよそんなもん」


「…………………」


「…………………」


「え、終わり!? たった一回でもう終わり!?」


「てことでよろしくなー、世良」


「はーい。てなるかぁ! なんですか雨の日に買い物するためだけに生まれた悲しき存在って! それ以外にも色々生まれた理由あるわぁ!!」


 全員が全員を睨み合い、場は修羅場と化す。


「菜々ぁ? 暇そうだなー?」


「えぇ〜、そんなことないよ〜。それならハゲの方が暇そうじゃない?」


「えっ!?」


「んー? たしかにそうだな。よし! ハゲ行け!」


「いやいやいや! なんで僕なんだよ! 絶対嫌だよ!」


「るせぇな、黙って行け!」


「ひ、ヒィィィイ! 髪がぁぁ! た、助けて! 髪がないよ! 助けて! イヤァァァア! 髪髪髪! 髪がないよ! グッ、ゲッ、ガッ! ヒィィ、ヒィィ!」


 修羅場は混沌へ。


 俺はズラを拾って、店長の頭に乱暴に被せると、叫ぶ。


「あーもう! このままじゃラチがあかない! ここは文句なしに何か公平なもので決めますよ!」


「公平?」


「仕方ないでしょ! まずは確認! 全員暇! 拒否権はなし! いいですね!!?」


「いや俺は体調管理が……」


「濡れない工夫をして行ってください! いいですね!?」


「いやでも」


「い゛い゛て゛す゛ね゛!?」


「は、はい……」


「しっかし、公平っつっても一体何で……」


 全員が頭を抱え、考えるが、あまり良いのが浮かばない。そのとき、


「やった上がり! やっぱりまだまだ弱いわねリョータは!」


「ず、ずるいぞ! 反則だ!」


「そんなことしてないわよ!」


 横で遊んでいたツボミちゃんとリョータが声を上げる。全員が注目する。

 どうやら2人はUNOで遊んでいたらしい…………


(((UNOッ!!)))


 菊井さんがすぐさま口を開く。


「ルールはそのまま。最下位が買い物だ」


「ええ……」


「そんじゃ、UNOで勝負だぁ!!」


「「「乗った!!」」」


 買い物を懸けて、俺達のUNO大会が決まった。


「皆、なんだかんだで仲いいわね〜」



◇◇◇



「ほい、あーがり!」


 これにてゲーム終了。最後の2人のうちの1人であった菊井さんが手元に残った最後のカードを置き、幕を閉じた。


「んじゃ、最下位、買い物よろしくな! 彩ちゃん?」


 勝負は早瀬さんの大敗で終わった。


「しっかし弱かったなぁ。定番のウノ言い忘れはもちろん、訳わかんねーところで記号カード使いまくって、結局終盤は数字だけしか残ってなかったし」


 菊井さんが馬鹿にしたように笑いながら言う。


「それあんたが言いますか……」


「あぁん?」


「仁美さんも〜、次が世良くんだからってプラス系のカードすぐ出すけど、半分くらいは流されるしぃ? 最終的に勝ったからいいけど、彩ちゃん以外にはボロボロだったでしょ?」


「うぐっ」


「……………て、ていうか……私ウノやるの初めてだし……」


「えっ、でもルール知ってたじゃないですか」


「……………ルールはなんか、覚えてたけど……一緒にやる相手がいなかったから」


 一瞬、ものすごく静かになる。


「うわぁ、その自虐笑えねーよ」


「今度からは言ってくれれば俺がいつでも相手になります!!」


「……………いや、そんなに同情してくれなくても……」


「でもまぁ、彩ちゃんの両隣にも問題あるよね」


「た、たしかに……」


 早瀬さんの両隣。先生とマっさんを見る。


 ドSと勝負ごとには絶対手を抜かない人。

 初心者にいきなりこの2人は中々キツいだろう。


 ちなみに、抜けた順番は


 一、俺

 二、先生

 三、シュンさん

 四、マっさん

 五、店長

 六、菊井さん

 七、早瀬さん


 と、なんか色々あって俺は大健闘。


「……………はぁ……じゃあフミさん、私何買ってくればいいの?」


「あぁ、そうね。えっと……メモメモ……………あっ、ん〜……」


 フミさんは買い物のリストを書いていたメモを見ると、そのまま唸り出す。


「困ったわぁ。これ、彩ちゃん1人じゃ大変……」


「「「えっ」」」


 全員の声が重なる。再び悪感が。


 フミさんはしばらく考え込むと、何か閃いたのか、声を上げる。


「そうだ。最下位だけ罰ってのも不公平よね? せっかく頑張ったんだし、一位の人に何かしらご褒美があってもいいと思うんだけど」


「突然どうしたんですか? もちろんそれは大歓迎ですけど」


「あら、ご褒美受けるの?」


「えぇ、もちろん」


「それじゃ世良くん、彩ちゃんと買い物よろしく〜」


「えっ、なんで? あれ? 俺の耳がおかしいんでしょうか? えっ? それ絶対ご褒美じゃないですよね? ただの買い物の手伝いじゃないですか」


「うん、だからご褒美」


「は? すみません、僕はMじゃないんですけど」


「うん、だから、彩ちゃんと()()で買い物、行ってくれない?」


 なるほど、これは…………


「…………喜んでお受けいたします」


「ありがと〜」


「は、おま、チョッロ童貞」


 そういえば、何気早瀬さんと2人きりでのお出かけなんて初めてかもしれない。なかなかどうして、いいご褒美かもしれない。



◇◆◇



「仁美さん、よく簡単に許したね〜」


「いや……止めれるなら止めたかったけどな……。あの場合、世良が行かないってなると、順番的に私が行く羽目になるからな」


 他人の幸せより自分の不幸。


「うわぁ、賢明な判断」


「まぁ、仮にこれで何かあっても、彩ちゃんから世良の評価下げるなんて割と簡単だしな」


「そして抜かりないアフターケア」


「今の二台詞で自分の評価がだだ下がりしてるの気付いてないのかな?」





更新遅れてごめんなさい。次はもう少し頑張ります……。


次回は2人きりのお出かけデート!



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