32. 店長
今回は酷いです。なんかもう、つまらん。これはキャラのせいですね。ごめんなさい。
バイトが始まる。
俺と早瀬さんは一旦悠面荘へ帰ると、シュンさんと共に永満亭と書かれているお店の前に立っていた。
多少のリフォームを施したということで、壁はいくらか新しいが、雰囲気が古風な感じの店だ。
「ここが……」
「よし! 入ろっか!」
扉をを横に引くと、ガラガラと音を立てて開く。
「こんにちわー」
和風な木造に、電球型のLEDから放たれる光は黄色く暖かみを感じる。チョロチョロと水の流れる音に、木の匂い。
なんかこう、見るからに豪華って感じの店だ。
「おっ、来たねー」
すると、奥の方から男の声が聞こえ、その人物はひょっこりと出てくる。
「やあやあ、シュンくん久しぶりだねー」
「そうだねー」
「それから……世良くんと、彩ちゃん。でしょ? 話は聞いてるよー。特に世良くんとは仲良くできそう。ちなみに僕はこの店の店長さ。フミさんとは古くからの付き合いでね」
店長さんは優しい笑顔を浮かべ、そう言う。
「あ、自己紹介がまだだね。僕は戸室 笹秋。よろしくね?」
「よろしくお願いします」
「……………お願いします」
店長さんが差し出した手を握る。
「2人は高校一年生だっけ?」
「はい」
「高校生かー、いいよねー。まさに青春のど真ん中だもん。青春してるかい?」
「まぁ、それなりには……」
「彩ちゃんは?」
「……………私は特に……」
「そうなの? 本が好きって聞いたけど?」
「……………好きですけど」
「青春って何も恋やら友情やらじゃないんだ。自分の好きなことをするっていうのはそれだけで無条件に青春だよ。大人になったら好きなことを好きなだけ、っていうのはできないからね。多少後悔するぐらい遊ぶのが一番さ」
大人になると好きなことを好きなだけはできなくなる。
俺と早瀬さんの脳裏に悠面荘の住人の面々が思い浮かぶ。
「「……………?」」
「あはは、あそこはちょっと特殊だからね……」
なるほどそれもそうか。
「ちなみに僕は歳は48歳だよ。麻都香の2つ上でフミさんを除けば一番高齢かな?」
「へー、そうなんですか……」
「しっかし〜、結構綺麗になったねー」
「おっ、そうでしょ?」
店長とシュンさんが話をし始めたので、俺と早瀬さんは緊急会議を開く。
「たしか店長も悠面荘で一緒に暮らすんですよね?」
「……………そうだったはず」
「なんか……いつになくまともじゃありません?」
「……………油断大敵。いつ化けの皮が剥がれるか」
「そ、それもそうですね。警戒だけはしとかないと」
「んっ? 2人ともどうしたんだい?」
「いえ! なんでもありません!」
急いで店長の方に向き直る。
「あっ、そうだ。俺のことは戸室のトムで、トムクルーズって呼んでよ」
「トーマスキャットで十分だと思います」
んー、ボケはいかにも親父で寒い。が、まぁこれぐらいなら個性的の範囲に入らない。
「とりあえず、本格的に仕事を覚えてもらうのは明日からでいいかなぁ。2人はどう? あそこの生活に慣れた?」
「まぁ、大体」
「……………同じく」
「あはは、世良くんは順応するし、彩ちゃんは我が道を行くって感じであそこにはもってこいだもんねー」
む、という声と共に一瞬早瀬さんが口を歪ませる。
(すみません早瀬さん。そればっかりはほんとだと思います……)
「世良くんはあそこのツッコミ役なんだろう?」
「ツッコミ……」
一瞬、こないだの生徒会室での苦い思い出が蘇るが、そんなのもの気のせいだ。
「まぁ、そういうつもりではないんですけど……」
「あはは、そうだよねぇ。いやー! 僕はさ! すっごい嬉しいんだよ世良くん!」
「は?」
店長が俺の肩をガッチリと掴む。
「僕も一応、あそこではツッコミをやってたんだ!」
「やるとかやらないとかではないと思うんですけど……」
「いやまぁ、そうなんだけどさ! ついついツッコまないわけにはいかないだろ!? あの人達の異常さには!」
「それはわかります。無視しようとは何回かしたんですけど」
「そーそー! 絶対失敗するんだよね!」
「たまに物凄いアウェーになったり」
「わかる! すごいわかる! ついていけなくて疲れるよねー!」
「はい! ほっとくとあらぬ誤解を山のように受けたりして!」
「そうそう、そうそう! いやー、僕よく普通って言われてさ……あの人達みたいに個性があればよかったんだけど」
「わかります! なんか逆に羨ましくなることありますよね!」
「そうそう! 僕は嬉しいよ! 君のような同じ人間が来てくれて!」
「俺も親近感湧きます!」
俺は早瀬さんに顔を寄せ、コソコソと話す。
「無茶苦茶まともじゃないですか?」
「……………うん。珍しく常識人」
「やっぱ店長ってだけあって、しっかりしてるんですね」
「……………ちょっと不安だったけど、これなら大丈夫そう」
もう一度、店長を見る。
「そうだ! 2人にはちょうど新作ができたから振舞ってあげようかな! 今の僕は仲間ができてうれ」
「ねーねー! 見て見て! すっごい面白いから!」
シュンさんが急に話を遮って前に出る。
「は?」
「店長ってさ、ズラでさー。こうやって、ズラを無理やり外すと!」
そう言うと、シュンさんは店長の頭を払う。
すると、髪の束が床に落ちる。ほんとにズラだった。サイドを残して、髪が後退しきっている。たしかに、あんだけハゲじゃないよ? みたいな顔しておきながら、これだからちょっと面白い。が、別にハゲなんて個性、山ほどあるわけで。これぐらいで変わってるなんて思わない。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!?」
「「!?」」
店長が急に叫ぶ。
「はッ、はぁッ! ははッ! あ、あぁ……や、やばい……ヤバイよ! か、髪! 髪髪ぃ!」
「「…………………」」
店長は情緒が不安定になりながら頭に手を当てる。
「無い! 無いよ! 髪が無いよ! ど、どこ行ったんだよ! 髪が……髪がぁぁ! ズ、ズラ……や、やばいよ! もうダメだ……終わりだ……髪がぁ! あぁ、死ぬ! 髪はどこに行ったんだ! 髪! 髪ぃぃ! あぁぁぁぁああ!!」
「「…………………」」
店長は発狂しながら崩れ落ちる。
「ねっ? 面白いでしょ?」
シュンさんは満足げに、ズラを拾い、店長の頭に被せる。
すると、店長は一瞬で真顔に戻り、サッと立ち上がる。
「はい、店長」
「ぁぁぁああ!…………ふぅ。もー、やめてよシュンくん。いやー、2人とも見ただろ? 遊びでこういうことするんだもん。ほんと変人というか、酷いよねー」
「ここぞとばかりに個性出してくるのやめてくれません?」
「えっ、何が?」
「お前喧嘩売ってんのか?」
「いやだなー、ハゲてるぐらい個性のうちに入らないでしょ」
「お前マジでぶっ殺す!」
「まぁまぁまぁまぁ!」
襲いかかる俺をシュンさんが抑える。
「クッソ! 騙された! しかも自覚なしか! おい!」
「なんのことだが全然……」
「マジで一回殴らせろお前ぇ! 何がアウェーだよ! 全然対応してんじゃねーか! 身体的特徴をこれでもかと美味しく使ってんじゃねぇよ!」
「……………完っ全に騙された。信じた瞬間にあの仕打ち。流石に下衆だと思う」
「ええぇ!? 2人ともなんでそんなに怒ってんの!?」
ほんの数秒前まで仲間だと思っていた自分をぶん殴って説教してやりたい。まともな奴なんかいるわけないだろって。
◇◇◇
「ただいまでーす」
「……………ただいま」
「ねぇねぇ、機嫌直してよ2人とも〜」
「……………別に怒ってない。ただしばらく話しかけないで欲しい」
「えぇ……それを怒ってるっていうんじゃ」
とりあえず、本格的に始まるのは明日かららしく、俺達は悠面荘へと帰る。どうやら店長も今日からここに戻ってくるらしい。
居間の扉を開けると、中には菊井さんが仕事はもう終わったらしく、テレビを見ていた。
「あっ、仁美ちゃん! 久しぶり〜」
店長はそれに気づくと、嬉々として話しかける。
「あぁ? ……げぇっ、ハゲじゃねーか。今日から戻ってくんのか……」
が、菊井さんは明らかに嫌そうな顔をする。
「ハゲって……相変わらず辛辣だなぁ、仁美ちゃんは。でもしかし、2ヶ月ほどいないだけでも随分と懐かしく感じるよ!」
店長は1人興奮している。
「やっぱ、ズラがあればわりと普通なんですかね?」
「……………流石にそうなんじゃない?」
「バーカ、そりゃあめーよ」
「うおっ!」
いつのまにか、菊井さんが俺達の会話に参加していた。
「お前らが内緒話してるからなんとしても邪魔しようと思ったらトーマスハゲのこと話してたからな」
「最初の理由が下衆なことは触れないでおきますね。ていうかトーマスハゲってもしかして……」
「あぁ? 戸室のトムとハゲでトーマスハゲだよ。実際あいつはトムみてーな役回りだしな」
「みんな考えることは同じだったんですね」
「お前ら、あいつがズラ取ったとこ見たのか?」
「まぁ、はい……」
「……………ショックが大きい」
「ほーん、そっか。とはいえ、あいつもツッコミポジションだからな。世良お前キャラ被ってんじゃねぇか?」
「俺はキャラもズラも被ってませんよ」
「まぁ、一回あいつのツッコミ見てみろ」
「? どうやって?」
「あぁ? んなもん簡単だよ」
そう言うと、菊井さんはシュンさんの方を見て声を上げる。
「おいシュン! ハゲに久しぶりにギャグ見せてやれよー」
「オッケーわかった!」
「ええぇ!? いやいいよー! シュンくんのギャグ見させられるこっちの気にも……」
「ショートコント、再会」
相変わらずやると決めたらトップギアのシュンさん。静止を聞かず、やり始める。
「『いやー、俺さ、こないだ久しぶりに友達にあったんだー』
『へー、仲良いの?』
『そりゃもう! でもさー、切ってないのか毛がまた伸びてたんだよねー』
『切ってないって……そんなに? 前に会ったのはいつなのさ』
『もう五年は前かなぁ』
『五年? 流石に切ってるでしょ』
『いや切れないよ』
『なんで?』
『だってあれ硬くてとても切れないし、まず道具を自分で使えないもん』
『髪が硬い?』
『髪というか、毛だね。体毛。デコに生えてる』
『いやそれ、人間じゃなくてサイかーい!』」
「…………………」
相変わらずクソつまんねぇ。
と、ギャグが終わると、店長は勢いよく立ち上がる。
「いやサイが友達って……なれるわけない! 無茶苦茶危険じゃないか! それ絶対嘘だよね!? それただ動物園に五年ぶりに行っただけじゃない!? ちなみにサイって無茶苦茶強いらしいじゃん!」
「「…………………」」
「なんか、思ってたのと違いますね」
「……………面白くない上にくどい」
「シュンのはまだ一周して笑える面白さはあったんだが、あいつがツッコむことでどっちも壊滅的につまらなくなるんだ」
「「はぁ…………」」
はい。どうやらまた1人、個性的な仲間が増えたらしいです。
なんというかキレがないよね。やっぱり世良くんの苦労は増える一方だね。
なんか最近ギャグばっかでそろそろラブコメしたい……
あともうちょい進めばできると思うんで、それまで我慢お願いします。
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