33. 初仕事はちょい重め
ちょっとシリアス要素あります。もちろんギャグは全開でいくので心配なさらず……
「ここは懐古料理……和風な料理と雰囲気をお酒を飲みながら楽しむお店だよ。平たく言えばちょっと豪華な居酒屋かな?」
「なるほど……」
今日からいよいよバイトが本格的にスタートする。
俺と早瀬さんは店長の説明を一通り聞く。
「2人には基本的には接客をやってもらうよ。ただ、2人ともバイト経験ないでしょ? 世良くんはともかく、彩ちゃんは慣れが必要だと思うから、まずは2人ともシュンくんと一緒に行動してくれる?」
「わかりました」
「……………わかった」
「よーし! もう店は開店してる。お客も来てるし、早速行こうか。ついてきてー」
シュンさんの指示により、俺と早瀬さんは後を追う。
まずは個室。シュンさんは襖を開ける。
「どーもー」
「おっ、来たか!」
中には四人のおじさんが。
「いやー、しっかしようやく営業再開だねー。待ちくたびれたよー」
どうやらその客は前にも来たことがあるらしい。
「俺はもう少し休みたかったですけどねー」
「はははっ、これ以上休まれたらみんなが困るよ! もうここ以外の飲み屋じゃ満足出来なくてねー!」
「それは嬉しいですねー、店長も喜びますよ」
「おう! …………あれ? 後ろの2人は新人さんかい?」
「あ、はい。新しく入った世良と言います」
「……………早瀬です」
「そうかいそうかい! ここのバイト連中はとにかく癖の強い輩が多いが、2人はそうでもなさそうだな。おれゃてっきり、店長の趣味かと……」
「んー、それもあるんじゃないですか?」
「そうかねー。おっと、待たせてすまねーな。とりあえず生を四本貰おうかな」
「わかりましたー」
シュンさんは襖を閉める。
「わかったろ? ここの客は気さくのいい人が多いから多少の会話はあるけどそれで怒られたりはしないよ。いつも通りの自分でいいよ」
「へー……」
俺達はとりあえず厨房に戻り、お酒を持っていく。
まだ夕方だからか、お客はそんなにいない。初日から暇になる。
「こういう空いた時間って何するんですか?」
「さぁ? なんでもいいと思うよ? ゲームでも宿題でも。基本ホワイトだからねー、ここ」
「そうですか……」
じゃあ遠慮なく……とスマホを触ろうとしたが、せっかく今は菊井さんがいないんだ。早瀬さんと話そうと、早瀬さんの方を見る。
……が、早瀬さんは当然のように読書に夢中。邪魔するのも悪いため、結局話しかけることはできずじまい。こうなると俺も暇なので、適当にスマホでも触る。
───ピンポーン
しばらくすると、呼び出しベルがなる。
「おっ、仕事だね〜。んー……次は2人だけで行ってみる?」
シュンさんは俺と早瀬さんに向かってそう言う。
「えっ、いいんですか? 店長が今日は3人って」
「あー、いいのいいの。店長の言うことなんて半分くらい聞いとけば」
「店長不遇ですね。まぁ同情はこれぽっちもしないんですが」
昨日思いっきり裏切られたからな。むしろざまぁみろくらいだ。
「2人も早く仕事には慣れた方がいいし、それに俺の仕事が減るでしょ?」
「それ絶対後者が本音ですよね?」
「嫌だなー、そんなわけないだろう? 重要度が2対8なだけだよ」
「そのレベルを本音って言うんですよ知ってましたか?」
「まぁとりあえず、行ってらっしゃい!」
「まぁ、わかりました……行きましょっか?」
「……………えー」
「態度でかいな初日から! 行きますよ!」
「……………わかった」
「あっ、ちょっと待って!」
俺達が出ようとすると、後ろからシュンさんが声をかけ、呼び止める。俺は首だけ振り返る。
「ここ、さっきも言ったけど気さくな人が多いんだ。俺達もまだ客いなくて暇だし、多少長くても話し相手になってあげてよ」
「はぁ……わかりました……?」
俺達は呼び出しのあった個室へ行く。
襖を開けると、中には若いスーツの男が1人で飲んでいる。
「はい……ご注文ですか?」
「あー、そうだなぁ……それなら生を追加してくれないかな?」
「わかりました。他には?」
「いやぁ……無いかなぁ……」
「……? わかりました……」
男は泣き上戸なのだろうか、あからさまにテンションが低い。泣いてないが。
お酒を飲んでこんなにもテンションが低いのも珍しい気がする……と、普段、お酒を飲むあの人達の姿を思い出す。
「それじゃあ……」
「あー、いや、ちょっと待って……」
俺達が立ち去ろうとしたところ、男に呼び止められる。
「あのー、ちょっと相談聞いてくれないかなぁ……ここってほら、悩み相談みたいなことやってくれるだろ……?」
「あー……なるほど…………まぁ、高校生のガキでいいなら……暇ですし話聞くぐらいは」
「ありがと〜。じゃあ、2人は何か飲みたいドリンクある? 相談料として奢るよ。飲みながら話そう?」
「いや、それは……」
「……………オレンジで」
「迷いなしか! ちょっとは躊躇してくださいよ! …………じゃあ俺はコーラで……」
「わかった! じゃあ持ってきてくれ!」
「あ、はい」
注文を聞かれたのに、話した側が取りに行く……少し変な話だが、店員は俺達の方だ。
俺達はビールとジュースを運び、個室の中に入る。適当に乾杯を済ませると、男はゆっくり話を始める。
「あー、まず……俺の名前はさ、まぁ、俊哉っていうんだけど……まぁ、これでも一応既婚者でね……」
「はぁ……」
(これ絶対俺達にする話じゃねぇだろ……! 既婚者て……絶対結婚関連の話じゃねぇか。結婚どころか恋人もいねーよ。年齢=非リア歴だよ。現在進行形でバチバチの童貞だよ!)
「新婚生活三年目でさ〜。そろそろ子供が欲しいねーなんていう話もしたもんですよ」
「へ、へぇ……」
「いや〜、まずさぁ、俺達の出会いから話そっか?」
(結構です)
「高校二年生で隣の席になったこと。これが俺と美咲の出会いだった」
(出会い!!? つか奥さんの名前美咲なんですね……)
「きっかけは簡単なことだったんだ。俺が教科書を忘れたことが始まり」
(あぁ……奥さんに見せてもらったとかそういう……)
「それでまぁ、困った俺は見せてもらったんだよ教科書を。隣の席だった──」
(来た!)
「──田中に……」
「田中誰だぁぁ! なんで田中に見せてもらってんだよ!」
「え? そりゃ男か女かで言われたら男に普通見せてもらうでしょ?」
「……それもそうですね。じゃあ美咲さんはどうしたんですか?」
「あぁ、教科書を田中に見せてもらったはいいんだけどあいつ教科書に落書きばっかで超見にくくてさー。仕方ないから──」
(おっ? 見にくいからやっぱり美咲さんに見せてもらう展開か……よくやったぞ田中!)
「──その落書き、2人で必死に消したよ」
「なんでだよ! 落書きは残してこそ落書きだろ! 気安く消してんじゃねぇよ!」
「で、そのときさ……俺達が消していると、密着したせいか消しゴムを落としちゃってね……拾ってもらったんだ──」
(ついに美咲さん登場か……)
「──前の席の山本に」
「山本ぉぉ! 何してくれてんだ山本ぉ! もう! いつになったら美咲さんは出てくるんですか?」
「あぁ、美咲は授業が終わった後話しかけてきたんだよ。『君も消しゴムAin派なの?』って。俺が落としたときに見たらしくてさー」
「ねぇそれ田中のくだりいる? てか消しゴムのメーカーは心底どうでもいい!」
「顔はすこぶる残念だったけど、俺は彼女の優しい声に一目惚れした」
「残念なんかい! それは一目惚れじゃなくて一耳惚れでしょ!」
「それから俺は、彼女に出来るだけ話しかけるようにした……恥ずかしさからか、あまり顔は直視できなかったけど」
「とりあえず恥ずかしさからではないことだけはわかりますね」
「それからは色々あった……体育祭や文化祭。席替えによる別れ、そして再会。美咲の顔面偏差値や美咲のなすつけ、俺のホモ疑惑、田中の授業中夢○。いろんな困難を乗り越えて俺達はついに恋人になったんだ」
「ごめん最後なんて言った?」
「だから恋人に……」
「その前! 困難の最後!」
「田中の授業中○精?」
「……ちなみに、その後田中のあだ名は?」
「えーと、ムッシュなんとかだったかな?」
「夢見心地の白き狙撃者お前のことだったんかい! 何しとんねん田中ぁ!!」
「でもそれからすぐに転校したけどね」
「ヒットアンドアウェイ!」
まさか、ここで点と点が繋がり、そして特に何もなく終わるとは思わなかった。
「まぁ……それからはとにかく楽しい日々だったよ。こんなに幸せでどうしよう! なんてこともあったかなぁ。顔は相変わらず直視できなかったけど」
「さっきからちょくちょく失礼じゃない? 一発美咲に殴られてこい!」
(というか、これもう相談風惚気では……?)
「で、まぁ、色々あって大学に進学」
「へー」
「それから色々あって意識不明の重体」
「へ、へぇ……ん?」
「色々あって退院」
「ちょっと色々ありすぎじゃないかな?」
「色々あって就職」
「人生暇しなさそうですね、そんなに色々あると」
「そして! 色々あって結婚したのさ!」
「へー、ついに」
「山本と!」
「いやマジで何があった、色々」
「ん?」
「ん? じゃねぇよ! 結婚したの美咲ちゃうんかい! ここにきてなんで急に山本! てか山本て誰だ!? …………前の席の山本かぁぁ!!」
「え? 俺一度も美咲と結婚したなんて……」
「そうですね、これからは一度は言いましょう。誰と結婚したのか。美咲さんはどうしたんですか?」
「普通に数ヶ月で別れたけど? 高校生だしそんなもんじゃない?」
「ッ……! そうなんだけど……そうなんだけど! なっんか腹立つなぁ……!」
俊哉さんは不思議な物を見るかのような目でこちらを見る。
(ぬおぉぉぉぁおおおおお)
言い表しようのない怒りが湧き上がるが、それを必死に堪える。
「どうして2人は別れたんですか?」
「あぁ、あるとき美咲と鈴香……山本と2人で撮った写真を見てね」
どうやら山本の下は鈴香というらしい。
「それで……こう、2人を見てると……気付いたんだ。『あれっ!? 美咲ブスじゃね!!?』ってね」
「お前マジで一発殴られてこい。ってね、じゃねぇよ!」
「それからはもう止まらない! 美咲が隣にいたせいか、鈴香がどうしようもなく可愛く見えてね! 美咲を振って、鈴香にアピールをしまくったというわけさ!」
「もう清々しいなお前」
「それでまぁ……結婚したわけだけど……最近、どうやらその鈴香が浮気してるみたいでね……」
(急に重ぇよ……!)
「でも、そんな確証があるんですか?」
「帰りが明らかに遅くなった……いや、外泊もするようになったし、それを聞いても仕事とはぐらかされるし、一緒に寝てくれない、スマホでしょっちゅう誰かと笑いながら連絡取ってるし……もう確定だよ」
(うわぁ、思ったよりガチだぁ……)
「俺的はまだ別れたくないんだけど……最近その自信も無くなってきてね…………もうすぐ結婚記念日だっていうのにそんなに遊んで……昨晩どこかの馬の骨が抱いたって考えるとどうしても……怒りが湧き起こっちゃって……別れたくはないんだけど……もうさ、いつ離婚届け出されるか。気が気じゃないよ……」
「うえぇ……」
(やっぱ絶対俺達にする話じゃない)
「はぁ……どうしたらいいかなぁ?」
「えぇ……」
「問い詰める……それも考えたけど、開き直って離婚しようと言われたら俺……」
「でも、見て見ぬ振りも辛いだけじゃないですか? それにこのままだと、どうせ離婚されるかもしれないじゃないですか」
「いやぁ、わかってるんだけどね? なんかさー、ねぇ? どうしても逃げちゃうっていうか……度胸ないだろう? 男らしくないっていうか……」
「俺は別れるべきだと思いますけどね。でもまぁ、それは俊哉さんが決めることなんで……」
「いやわかってるんだよ。自分がいかに女々しいかってことぐらい……」
「……………私は……それでも言うべきだと思うけど……自分が別れたくないってことも添えて。誠心誠意、きちんと伝えればわかってくれるから可能性もあるかもしれない……」
「んー……そうなのかなぁ……はぁ、どうすればいいんだろうか……」
結局、俺達はそれ以来、何も言うことは出来なかった。
なんか変なとこで終わりましたが、次回に続きます。ハッピーエンドかバッドエンドか?
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