30. バイバイ!
ついにお別れ?
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか?」
「そうですねー。最後に観覧車だけ乗って」
あれから色々と遊んで、今は夕方前。俺達にとっては観覧車が最後の遊具だ。
「私は怖いからパース………………な訳ねぇよな」
ツボミちゃんとリョータのお別れ会。菊井さんは空気を察して乗ってくれるそうだ。
「さすがに人数が多いし、半分に分けましょうか」
「そうですね」
「じゃあ世良とシュン、菜々、リョータ。これでいいだろ」
「「異議あり!」」
「仁美さ〜ん? 何かこの仕分け納得いかないんだけどー?」
「そーですよ! 大体なんで菊井さんが1人で決めてるんですか!」
「あぁ? 簡単だよ。邪魔者と、そうじゃない奴で分けただけだけど?」
「うわ清々し!」
「ここは公平に行こーか? クジで決めようねー」
「ちっ! しゃーねーな。だったらここはツボミとリョータに決めてもらおう! その方がいい!」
「まぁ、それなら……」
◇
「で、こうなったわけだけど…………」
一組目
ツボミ、世良、早瀬、先生、シュンさん
二組目
リョータ、菊井、フミ、マっさん
「チックショォォ!」
「俺はむしろツボミちゃんに選ばれると思ってた方が不思議なんですが」
「ぷぷぷ、仁美さん自分から提案しといて〜」
「まぁでもいいんじゃないですか? 早瀬さんとツボミちゃんが減ってリョータが足されただけでしょ?」
「それが問題なんだろぉが! 大体、お前と彩ちゃんだけは一緒にしたくなかった!」
「はははっ、どんまいでーす」
「ムッッッカ! このクソ!」
◇
「あ、来ましたね」
俺達5人が乗り込み、その次のやつに菊井さんチームが乗り込む。
観覧車は少しずつ上がっていく。向かいに座る早瀬さんを見ると、目をキラキラさせて外を眺めている。
「……………おぉ、ゆっくり……怖くない……」
「あはは……まぁ観覧車ですからねー。もしかして、観覧車も初めて何ですか?」
「……………うん。てっぺんからの景色はすごい綺麗って聞く……楽しみ……」
「んー……今はまだちょっと明るいですけど。本当は夜になるとライトアップされて、それが綺麗なんですよ。もちろん今も景色はいいんですけどね」
「……………そうなんだ……」
(今度は2人で一緒に行って景色を見ませんか?)
言いたいことは決まってるのに、言葉が詰まる。これ断られたどうしよう……早瀬さんのことだ。「……………え、2人で? それはいいかな」
とか言うんだろうなー!
(いや! ここで言わなきゃ男が廃る。ヘタれるな!頑張れ! 言え! 世良!)
俺は頭を上げ、早瀬さんを見る。
「……はい。ですから、今度2人で一緒に…………」
「……………? どうかした?」
早瀬さんに言いかけたところで、恥ずかしさから、少し目線を外し、後ろのゴンドラを見てしまう。そこには菊井さんチームが乗っているのだが、俺は見てしまった。俺達……というより、早瀬さんに顔を赤くしながら何かを言いかけた俺を悪魔の形相で睨み続ける菊井さんを。
身の危険を感じる。これが終わったら本格的に殺されるかもしれない。
「……………どうしたの?」
「いえ……なんでもないです……」
圧倒的恐怖の前に、俺の搾り出した勇気はあっけなく散る。
(いやそもそも? 断られたらどうするんだって感じだし? むしろこれでいいというか? うん。一周回ってラッキー! ………………死にたくなってきた)
「なーんか、世良くんが2人で彩ちゃんと遊園地に行きたいらしいよー」
「2人がいいなんて言ってないでしょ!?(※大嘘)」
いきなり、早瀬さんの横に座る先生が大暴露。
俺は瞬時に訂正を入れる。
「俺はただ、次は夜までいられるといいですねーって言っただけで! 別に2人きりとかそういうのは全然!」
「えー? そうだっけー? 2人って聞こえた気がしたんだけど」
「気のせいですよ! 絶対気のせい! いやー、気のせいだねこれは! うん。もう絶対気のせいだ! 気のせい以外考えられない! こんな気のせいほかにあるかってくらい気のせいだ! 近年稀に見る気のせいだ!」
「必死だね〜。でもまぁ、それならそれでいいけどー」
「……………? 世良くん、別にそこまで嫌がる必要ある?」
「へ?」
「……………世良くんには恩もあるし、私も見たいから、連れてってくれるなら見たいけど……」
「2人……ですよ?」
「……………? 何か問題ある? 別に今もこうして乗ってるわけだし、そんなに関係ないんじゃ……」
「いや……2人だけで行くってことは、その…………デート…………ですけど……」
「…………………………ッ!! や、やっぱ無理!」
(ぬおぉぉぉおおお! 俺のバカァァァァァア!!)
早瀬さんは顔を真っ赤にして、すぐに目線を外へ戻す。
チャンスを一つ、無駄にしてしまった。
「見て見てソーにぃ! もうすぐ頂上だよ!」
「ん? ほんとだー」
ゴンドラはどんどん上がっていき、ついに頂上まで来る。
「高ーい!」
「……………ほんとだ。綺麗……」
「楽しいね! ソーにぃ!」
「うん!」
ツボミちゃんと2人で外を眺める。ツボミちゃんはとても嬉しそうにしている。
(来てよかった……)
こうしていると、やっぱりツボミちゃんは最初の頃からだいぶ変わった。
「よし! 場も盛り上がって来たし! 俺の特性ギャグを見せてあげるよ!」
「え、お断りします。今外見るので忙しいので」
「ショートコント、観覧車」
「聞いちゃいねー……てかダジャレはショートコンとではないですよー!」
「『はぁ、この遊園地もワシの代で閉園かのぉ〜』
『そんな! まだ行けますって!』
『バカもんよく見ろ。全然客がおらんじゃろ。この
観覧車も。すっからかん(ら)んじゃ』
『んん〜、コメディア〜ン!』
どう!?」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………ぶふぅーっ!」
「さっきまでの感動を返してくれません?」
「……………景色が一気に歪んで見える」
「その『んん〜、コメディア〜ン!』ってやつハマってんの? だったら今すぐやめた方がいいよ〜?」
「すっごい腹立つんで」
「……………面白くもないし」
「まぁまぁまぁまぁまぁ、ツボミちゃんが笑ってるんだからいいじゃない」
そう言われ、みんなツボミちゃんを見る。
「あははっ、あははっ! お腹痛〜い! はっはっはっはっはっ」
「っ…………それならまぁ……いいですけど」
こうして、観覧車は下に下がっていった。
◇
「いいご身分だなぁ? 世良ぁ」
「いやいやいや! 落ち着いてください!」
「私が高いところへの恐怖とリョータ地獄で苦しんでるときにお前は青春よろしくやってるんだもんなぁ」
「誤解ですって! 2人きりで誘ってもちゃんと断られましたし! …………ハッ!」
「マジか!?」
(一番知られたくない人に知られたー…………)
「しゃオラ! ざまぁみろボケ!」
「性格悪っ!」
「それじゃあ、帰りましょっか」
「「「…………………」」」
「そう、ですね……」
フミさんの一言で、みんなの頭の中に『お別れ』という言葉が浮かんだが、誰1人としてそれを口にするものはいなかった。
車の中では、疲れたのかリョータはすぐに寝てしまい、他のみんなも色々話しているが、どこか空気が重く、とてもわいわい騒げるような状況ではなかった。頼みの綱の菊井さんは寝るし、シュンさんギャグが思いつかないらしい。
◇
夕食。マっさんが本気で作ってくれるらしい。
「ほら! 腕によりをかけて作ったぞ! ツボミの好きなオムライスと、リョータの好きなハンバーグだ! 沢山あるからな! 一杯食べろよ!」
「うわぁぁ、美味しそう!」
「やった! これぜーんぶオレのだもんね!」
「けっ! 食い意地はってんじゃねぇよ」
「ぐぅー、なんだヒトミ!」
「呼び捨てしてんじゃねぇ!」
いつも通り。菊井さんとリョータは火花を散らせる。本当にいつもと同じなら、これからどっちの方がたくさん食べるかというしょうもない争いを始めるのだが……
「はぁ……私あんま腹減ってねーわ。だから……今日は好きなだけ食えよ。ツボミも……」
「菊井さん……」
「……うん! ありがとう、仁美さん!」
「……おう」
「なんだ〜? ヒトミ太ったのかなぁ? ギャハハ! おデーブマン!」
「なっ! よっしゃ上等だ! ぜってぇ私の方が食ってやる! 勝負だコラァ!」
「まーけないもーん!」
「言ったなクソがぁ!」
「あ、ちょ、菊井さん!」
結局いつも通り、菊井さんとリョータは大食い対決を始める。
呆れていると、横腹をツボミちゃんにちょんちょんされる。
「ねぇねぇ、ソーにぃ!」
「ん? どうしたの?」
「楽しいね! ここ!」
「っ…………! うん……そうだね!」
「えへへ、えへへへへ」
「ふふふっ、あははははっ」
「なーに笑ってんだ世良ぁ!!」
「理不尽!」
こうして、夕食の時間も過ぎていき……
◇
とうとう、2人のお迎えが来た。
玄関で、ツボミちゃんとリョータが最後の挨拶を済ませる。
「彩さん、それから皆さん。最初は……生意気な口聞いてごめんなさい! そして、ありがとうございました! すっごく楽しかったです! お友達、たくさん作って……またこうして楽しく過ごしたいと思います……きっと……いつか自慢しにきます。だから、それまで私達のこと忘れないで待ってくれますか?」
ツボミちゃんは早瀬さんに頭を下げ、それからみんなに向かってそう言う。
早瀬さんが一歩前に出て、しゃがむ。
「……………もちろん。絶対に忘れない。私も……ツボミちゃんと仲良くなれてよかったから。色々あったけど、ありがとう……」
「はい! …………それからソーにぃ! 本当にありがとう……ございました」
俺はしゃがみ込み、頭に手を置く。
「やめてよ。今更敬語なんて。きっと会いにおいで。楽しみに待っとくから。それに、俺も必ず会いに行くよ。だから……楽しみに待っといてね?」
「……ゔん……!」
ツボミちゃんは泣き出す。
「ツボミちゃん……」
それにつられたのか、別れることが予想以上に悲しかったのか、俺も少し涙をこぼす。
それを誤魔化すように、少し乱暴に頭を撫でる。片方の手をリョータの頭に置き、リョータも撫でた後、2人を思いっきり抱きしめる。
「じゃあね……2人とも……大っ好きだよ!」
「ゔん!」
「むぐぐ、苦しいゾ……!」
「それじゃあね、2人とも」
「子供達がお世話になりました」
こうして、2人とはお別れとなった。
「けっ、相変わらずロリコンかよ!」
「…………ふっ、いいですよ。別にロリコンでも。だって、大好きなんですもん。ツボミちゃんも、リョータも」
「ほんとは仁美さんも悲しいくせに〜」
「うるせ」
◇◇◇
翌朝。
今日から再び学校が始まる。目を擦りながらドアを開ける。
「ふぁぁぁ……おはようございます……」
「はーい、おはよう」
「ソーにぃ! おはよう!」
先生は仕事。シュンさんと早瀬さんとマっさんはまだ部屋。菊井さんとリョータはシカト。フミさんとツボミちゃんしか返してくれない。
全く、フミさんはともかく、ツボミちゃんはまだ6歳。こんなに小さい子が返事をするというのに菊井さんときたら……………………ん?
「って、えぇぇぇ!?」
「ん? ソーにぃどうかしたの?」
「な、なんでツボミちゃんがいるの……リョータも」
「あぁ、世良くん昨日はあの後すぐ寝ちゃったから知らないのね」
「へ?」
「2人のご両親の転勤は一時的なものでねー。たしか三年くらい。どうせ三年後には帰ってこっちの学校通うわけでしょ? 小さい頃からそんな転向してたらかえって可哀想だし、ツボミちゃんがあまりにも別れたくないって泣くもんだから、やっぱりもう数年引き取ってくれませんか?って帰ってきたのよ。私も寂しかったし、みんなも不満はないでしょうしね。快く引き受けたわ」
「だからね! お母さんが帰ってくるまでしばらく一緒にいられるよ!」
「っ…………お、俺の涙を返せー!!」
「ソーにぃ!?」
まだまだこのメンバーが減ることはなさそうです。
こりゃとんだタイトル詐欺だ。
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