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私を捨てた殿下が、雨の門前で「犬にしてください」と跪いています  作者: イレニス
終章 女王と犬

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第44話 小さな鏡の中に

鐘は、まだ鳴っている。


胸の奥で、何かが揺れていた。揺れている、と自分で認めるまでに、私は二十年かかった。


今日だけは、それを隠さないことに決めている。


大聖堂の身廊は長い。緋の絨毯の上を、私は一人で歩いた。ヴァルモンテ公爵家の娘として教えられた歩幅、教えられた背筋、教えられた顎の角度。それらはもう借り物ではなかった。代金は十年分、利息まで払い終えている。


祭壇の前で膝をつき、立ち上がったとき、頭の上に冠があった。


重い。純金と宝石でこの重さなら、目方だけで国庫の——いや、やめておこう。今日くらいは、この重さを費目に分けずに、まるごと受け取っておく。


「ヴェルダンテ再編国、女王ロゼリア」


大司教の声が石の天井に昇っていき、万歳の声が降ってきた。私は振り返り、居並ぶ者たちを見渡した。新しい国の、新しい臣下たち。値踏みするような目も、すがるような目も、等しく私のものになった。


列の先頭に、元王子が立っていた。


セドリック・ヴェルダンテ。礼服の襟は、今朝は誰にも直されないまま、それでも正しく立っていた。彼は他の誰よりも深く頭を垂れ、他の誰よりも長く、上げなかった。緋色がかった私の髪に冠が載る瞬間を、この男は床の石目を数えながら聞いたことになる。それでいい。見上げる許しは、まだ与えていない。


式の後、控えの間に彼一人を呼んだ。


窓から午後の光が入って、石の床に長い四角を作っている。私は侍女を全員下がらせた。机の上には、行き先の決まらないままだった王家の指輪と——黒い絹のリボンが一本、用意してある。


銀糸で、女王の紋章が縫い取られた品。首輪ではない。宮廷装束の、正式な飾緒だ。そうなるように、私が仕立てさせた。


「お呼びにより、参上いたしました」


「ええ。あなたに沙汰を下しますわ」


彼は背筋を伸ばした。弁明はしない。この男はもう、それをしない。


今朝、彼が差し出した二冊の帳面は、私の私室の抽斗にある。読まれなかった十年の予定帳と、なぞられた一年の手帳。あれを受け取った時から、この沙汰の文面は決まっていた。決まっていたのに、ここに立つまで、声に出す稽古は一度もできなかった。原稿のない沙汰を下すのは、女王の最初の仕事としては悪くない。


「あなたがわたくしにした十年を、わたくしは数えました。読まれなかった予定帳のページの数も、空席だった夜会の数も、全部ですわ」


息を一つ。鐘の余韻が、まだ窓の外に残っている。


「私はあなたを許していません」


わたくし、ではなく、私と言った。言ってから、それでいいのだと分かった。これは公爵令嬢の声でも女王の声でもなく、私の声で言うべき沙汰だった。


「これからも、許しません。——その上で、あなたを私の犬として使い続けることに、決めました」


息を、もう一つ。


ここから先は、わたくしの声で。十年、一度も言わなかった言葉から、今朝とうとう口にしてしまった言葉まで、全部つなげて。


「よくできました、殿下。そこまで反省なさったのであれば、特別に、私の犬にして差し上げます」


セドリックの金茶の目が、わずかに見開かれた。それから彼は、深く、騎士のように頭を垂れた。


「はい、女王陛下」


短い。それでいい。長い言葉の値打ちなら、十年前に査定が済んでいる。


私は黒いリボンを手に取り、彼の前に立った。


妃教育の頃、私は何度この襟を直しただろう。曲がってもいない襟を直すことでしか、隣に立つ理由を作れなかった小娘が、ここにいた。あの所作の行き着く先が、これだ。


リボンを襟の下にくぐらせ、喉元で結ぶ。紋章が、ちょうど鎖骨の間に来るように。指先が一度だけ震えて、私はその震えを、止めなかった。


「黒は女王の私物の色。この紋章を首元に置けるのは、国であなた一人ですわ」


「……身に余ります」


「余りませんわ。あなたの寸法は、私が一番よく知っています」


結び目をひとつ、指で整える。彼の喉が、リボンの下でかすかに動いた。


「下がりなさい。今夜の祝宴、あなたの席は私の斜め後ろです」


「はい、女王陛下」


扉が閉まり、足音が遠ざかってから、私は窓辺に寄った。


胸元から、鏡のペンダントを引き出す。母の形見。「公爵令嬢は鏡の前でだけ泣きなさい」——その言いつけを守るための、小さな銀の蓋を、爪で開けた。


この鏡は、長いあいだ検めるための道具だった。泣いていないか。揺れていないか。王太子妃に、公爵令嬢に、勝者に、相応しい顔をしているか。鏡の前に立つたび、私は私の検品係だった。


今日は違う。


泣いていないかを確かめるためではない。


誰かに相応しい顔かどうかを、検分するためでもない。


ただ、見るために開けた。今日の私を、私自身に見せるために。


鏡の中の女は、冠を載せて、目の縁を少しだけ赤くして、それでも笑っていた。揺れたままで、立っていた。母上、あなたの娘は今日、鏡の使い道を一つ増やしましたわ。


小さな鏡の中に、女王がいた。

最終話は本日21時50分に投下します。あと少しだけ、お待ちください。

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