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多田優斗を探すのは、思ったよりも骨が折れた。あの日に見たオーラの記憶が強すぎて、相貌や声の記憶が朧げだったし、そもそも実在の人物なのかも確証がなかったし。とりあえず主催だった篠崎に聞けば分かるか、と思って尋ねてみれば、どうも彼は篠崎の直接の知り合いではなく、篠崎が「仲間を誘ってくれ」と声をかけたメンバー数人の内の誰かの知り合いであったらしい。架空の人物で、何かしらの目的があって潜り込んだ非実在の人物である可能性が高まった、と思いながら、篠崎が先に声をかけたメンバーを教えてもらった。
男女合わせて3人。男子は理工学部の田島、女子は薬学部の南と食品学部の油井。あまりにも手広い交遊関係なので、どういう伝手なのかと聞けば、去年、大学1年の時の共通必修科目で一緒だった時に知り合ったメンバーなのだとか。人付き合いが上手い篠崎らしい伝手だなぁ、と思いながら、その3人を訪ね歩く事にした。篠崎と俺が在籍している経済学部と油井さんが在籍している食品学部は大抵、同じキャンパスにいるので、まずは油井さんを探した。顔を覚えたつもりではいたが、女子は服装や髪型で印象がガラリと変わるので、見覚えのある気がする女子生徒に片っ端から声をかけた。幸い3人目で油井さんを知っている食品学部の子に当たったので、彼女に仲介をしてもらって油井さんと話をした、が、多田については何も知らなかった。
次は、同じ敷地内ではあるが、別棟での講義が多い薬学部の南さん。足を運べば、たまたま運良く佐伯さんと会えたので、南さんを探してもらった、が、こちらも多田に関しては空振りだった。
残るは理工学部の田島なのだが、こちらは設備の都合上、2年以降はキャンパスからして違うし、講義の状況も知らないので、再び篠崎を頼って連絡を取ってもらった。そうしてようやく、多田が実際に在籍している学生である事が確認でき、多田本人に会う事もできたのだが。
「で、俺に何の用?」
理工学部の入るキャンパスの食堂で実際に会った多田は、オーラだけで言えば別人だった。
「あー……。えっと、お前さ、この前の飲み会にいたじゃん?」
「飲み会……? あ、あれね。いたいた」
「俺もあの飲みの時、いたんだけど」
「あ、そうだっけ」
その言い方で察する。多田本人は、あの飲み会に来ていない、と。あの日の多田は、どうやったのかは知らないが、多田に良く似た別人だったのだ、と。
「……お前、本当は飲み会に行ってないよな」
「は? いただろ。俺の事、マイナーな俳優に似てるって絡んできたの、お前だろ?」
その言いぶりから、事後の情報共有はされているらしいと知る。
「別に行かなかったから狡い、とか、そういう話じゃないんだ。俺は、あの日、多田の代わりに飲み会に来ていた奴が誰だったのかが知りたいだけで、お前が本当は飲み会に来ていなかった事を吹聴するつもりもない。ただ、あの日の多田が誰だったのか、どうすれば会えるのかだけ知りたいんだ」
わざわざ多田を探した理由と用件を伝えれば、多田は悩むようなそぶりをした。1人だけで履行が空のキャンパスを訪ねてきたので、急かす奴も茶々を入れる奴もいない。だから黙って多田の言葉を待った。
「――……本当は、拡散禁止なんだけど」
これって拡散になるのかなぁ、と多田が困り顔で呟く。
「……サイトがあって。何でも代行してくれる人材派遣のサイト」
「人材派遣?」
そう。と多田は短く言い、スマートフォンを弄り始めた。画面を表示して、こちらに差し出してくる。
「このサイト、なんだけど」
やたらと白くて、シンプルなホームページがそこにあった。タイトルは『代行屋エージェンシー』。エージェンシーという単語自体が代行業者、という意味なので、「代行屋代行業者」というような意味合いになってしまうな、とは思ったが、それよりもタイトルの下に記載されている、「あなたや誰かの代わりをします」という文言が気になった。
代行と言えば、運転代行、家事代行、退職代行、などなど、本人でなくてもできる、本人ができない事を代わりに遂行するのが仕事だ。運転代行ならば車の運転を、家事代行ならば家事を、退職代行ならば退職の手続きをしてくれるものだ。けれど、この代行業者のホームページのトップページの文面をそのまま受け取るならば、この代行業者は、そういう一般的な代行ではなく、「その人自身の代わりをしてくれる」と言うのだ。多田に断ってホームページを見させてもらえば、そのトップページの文句が誇張ではない事が分かる。利用の流れを案内するページに、利用するにあたってのフローチャートが掲載されていて、申し込み後に面談、その内容を元に、所属している多彩なエージェントが本人の代わりを演じ、その間に起きた事を即日でレポートにして返してくれる、と言うのだ。
「俺、男子校出身で……。女の子と話すっつっても何を話して良いか分かんねぇし、レポートの提出期限、近くて、飲み会どころじゃなかったし、でも結構、田島、押しが強いから断れなくって困ってたらここ見つけてさ。飲み会の間くらいなら、少しいつもと違ってても、みんな酔っぱらっててバレないかなって思って」
どうだった? と聞かれて言葉に困る。俺が本物の多田と話すのはこれが初めてなのだ。飲み会の時も気になって時折、様子を見ていたが、外見だけならば今、目の前にいる彼と、そう変わりはないように思えた。その旨を言えば、多田は安堵の顔をした。
「良かったー。でも、だとしたらすげえよな、本人代行だなんてさ」
「そうだな」
あの日、少なくとも本物のただを知っていたはずの田島ですら、会音多田が偽物の多田だとは気付いていなかったし、疑うような気配すらなかった。俺はオーラが見えたから、そのオーラが何故か河合玲人と同じだったから気付いただけで、そうでなければ、あの多田と、今、目の前にいる多田が違う人物だとは気付かないままだっただろう。
「でも、お前は何で偽物だって気付いたんだ?」
「あー……。えっと、その、俺、多田の事、俳優と間違えただろ。怒らせたみたいだったから謝ろうと思ってきたんだけど、お前、あんまり怒ってなかったから、変だな、って」
代行屋と多田の間で、どの程度の情報が共有されているかは分からない。分からないが、違和感を覚えたのは確かにそこだったので、そう答えて誤魔化した。
「そっくりな双子でもいるのかと思ったけど、まさかこんな代行屋がいるだなんて思ってなかったよ」
その後は、少しだけ飲み会の時の様子を話して、件のホームページのアドレスを控えさせてもらって別れた。
そして俺は、その日の内に代行屋へ「河合玲人」の注文をした。




