禁書室へ
『勝ったのはギルベルト選手ーッ! これにより決勝戦はアゼリア選手とギルベルト選手の直接対決に決まりました! 決勝戦は明々後日の16時からです! 観戦チケットは売り切れ寸前とのことなので、ご覧になりたい方はご購入をお急ぎください! なお、チケットの譲渡、転売は固く禁止させていただいております!』
「やー、めっちゃオモロ」
「賢さも品性も感じられない感想ね」
「は? なら賢さと品性を感じさせる感想の手本ってやつ見せろや」
正直なところ、私も目の前で繰り広げられたど迫力の試合に対する率直な感想はルチアナとほぼ同じだ。
剣術においても魔術においても、防戦一方になった相手の伯爵令息へ攻撃の手を緩めなかったギルベルトが何枚も上手だった。
むしろ相手もよくあの怒涛の攻撃に反応できてたな……。
「(それにしても、ギルベルトが剣を振りながらあそこまで正確で繊細に魔術を使いこなせるなんて……)」
その戦いぶりはジェトリウスやクロヴィスを彷彿とさせるもので、見てても相当戦い慣れてると言っていい。
師匠だっていう先代の"剣聖"も、剣術だけじゃなくて魔術の才能もある人だったのかな。
その上、優勝した前回大会や先の試合よりもさらにギアを上げてきているようにも見えた。
横暴そうに見えて、ちゃんと自分のピークを決勝に合わせてくる計算高さも調整力も持ってる。
当たり前だけど、間違いなく……今までのどの試合の相手よりも強敵だ。
決勝までは時間があるし、ちゃんとギルベルトを倒すための戦略を練らないとな。
深く息を吐いた私のことを、目の前で賑やかに言い争っていた2人が同時に振り返った。
「もしかして……今の試合を見て決勝に怖気付いたりしていないわよね?」
「えっ!? し、していませんよ」
「そーだよ、アゼリアは度胸あんだから。あんたと違って」
「そこでわたくしを引き合いに出す理由を聞いてもいいかしら?」
明日は自分たちの試合があるっていうのに、2人はいつも通り変わらない。
謎の気遣いを見せてくれたミレーユにも、明日初戦からレオンと戦うことになっているルチアナにも、感謝と激励を送っておこう。
「ふたりとも、気を遣ってくれてありがとう。明日は全力が出せるよう、わたくしもふたりを応援しています」
2人は私の応援に一瞬きょとんとした後、ルチアナは胸を張り、ミレーユは静かにティーカップを手に取って同時に言った。
「アゼリア! 明日は私だけを見ててよ!」
「どうしてもと言うなら応援させてあげなくもないわ」
せっかく息ぴったりだったのに、2人はまた次の瞬間には睨み合いをしていた。
…………逆にものすごく仲良い説ない?
◇
ギルベルトの試合観戦を終えた私は、まだ賑わいを見せる学院をひと足先に抜け出して帰宅した。
そして一息つく間も無く身支度を終えると、レオンに頼まれた役目を果たすためクロヴィスと一緒に王城へ向けて再び転移門を潜った。
「レオンハルト王子殿下のご招待に応じ、禁書を拝読するために参りました」
この国の政治の要であり、国を治める王族の住居でもある王城への入場は簡単ではなく、たとえレオンの署名入りの招待状を持つ公爵令嬢だろうと顔パスで「はいどうぞ」というわけにはいかない。
うんざりするほどの手続きと安全確認を何度も受けさせられたあと、ようやく城の中へ足を踏み入れることができるのだ。
「お待ちしておりました、アゼリア様、クロヴィス殿」
王城のエントランスホールで私たちのことを待っていてくれたのは、王家の執事長を任されている男性だった。
何があっても動じず、どんな仕事を言いつけても完璧にこなすという噂だけど、昨日の夜レオンがひとりでうちにきた時に護衛の騎士たちの相手を任されてたんだな、と思うとちょっと面白い。
そんな彼はにこりともしないものの、穏やかな雰囲気のままきちんとした所作で私たちに頭を下げる。
「殿下より禁書室へご案内するよう仰せつかっております。どうぞこちらへ」
私はクロヴィスと顔を見合わせる。
表立った動きはできない、と言いつつ、不便がないようにちゃんと手を回しておいてくれるなんて。
禁書室へ移動しながら、執事長はいくつかの禁止事項を教えてくれた。
書物に触れる際の注意、禁書室内での過ごし方、一部のロックがかかっている書物について……。
「また室内は古い書物も多く、飲食物の持ち込みを禁止させていただいております。禁書室の隣室にお茶や軽食を用意させておりますので、お好きなタイミングで部屋の前の使用人へお声掛けください。おもてなしが不十分であることを重ねてお詫び申し上げます」
広いエルグランド王城の中でもアゼリアでさえ足を踏み入れたことがないエリアに、禁書室はひっそりと存在していた。
「こちらが禁書室内に保管されている書物の一覧でございます」
執事長に渡された本をめくってみると、気が遠くなりそうなくらいぎっしりと本のタイトルや作者の一覧が並んでいる。
「……禁書室の蔵書数はどれほどなのでしょうか」
「全部で8,745冊ございます」
き、9,000冊近いじゃん……!
レオンはこれをひとりで全部確認したの!?
……いや、弱音なんて吐いてる場合じゃない。
とりあえず片っ端から手をつけて、少しでも前へ進まないと……!
「それとこちらを」
執事長に追加で手渡された一枚の紙を見ると、そこにはジェトリウスの字で簡単な伝言が書かれている。
内容は確認済みの禁書の共有だった。
忙しい中、ジェトリウスも悪魔に関する本を探してくれてたんだ……。
「……ここまでご案内してくださりありがとうございます」
「お困りの際はいつでもお呼びくださいませ」
恭しく頭を下げた執事長を見送り、私はふう、と息を吐いてから学校の図書室のような禁書室を見回した。
「ひとまず全ての本の内容を確認しましょう。最初から最後まで読む必要はありませんが、悪魔や王家の歴史関連の記述の見落としがないようにはしたいです。わたくしはこちらの端から順に全ての書物を確認していきますので、クロはリストの1番から、お父様が確認した本以外の怪しいタイトルのものを確認してくれますか?」
「承知しました」
クロヴィスは読書が得意じゃなかったはずだけど、嫌な顔ひとつせずに手伝ってくれるんだから……本当にできた護衛騎士だ。
私は一番端の本棚から、魔術で本を取り出してページをめくった。
どれだけの時間が経っただろう。
外の光が入ってこない禁書室では時間の経過がわかりづらい。
本棚から本を取り出し、ページをめくり、元の場所に戻してから次の一冊をまた取り出しめくる。
速読が得意なこの体を持ってしても全ての本を確認するにはそれなりの時間がかかってしまうし、何しろ世間に出回ってないアゼリアでも未知の情報がほとんどなわけで、情報量がすごい。
本の多くは王国の秘められた歴史に関することや、使用を禁止された魔術とその理由、民俗学、災害、経済……。
2つの本棚の本を全て読み終えたところで、悪魔に関する情報も王家に関する情報もいまだゼロ、という状態だった。
クロヴィスはどうだろう?
少し休憩を挟んだほうがいいかな。
「クロ、そちらはどうですか?」
「申し訳ありません、手がかりになるようは情報はまだ……」
「謝らないで。わたくしもまだ収穫なしですから」
「ですが、面白いものは見つけました」
「え?」
クロヴィスはにこにこしながら、机に積んで確認していた本の中からかなり古そうな1冊を取り出して私に差し出してきた。
「『生まれ変わったらグランドワイバーンになって世界征服したい』……これは小説、ですか? 作者は……『ウーリャ・ヴァステリア』……!?」
「その著者の姓、どこかで聞いたことがある名前ですよね」
「も、もしかして師匠の祖先……もしくは子孫とか?」
とても稚拙な文章で書かれたそれはこの世界におけるファンタジー小説のようで、英雄を夢見る少年が死と転生、挑戦と挫折を繰り返し、最終的に英雄とは真逆の道に堕ちていき、下っ端からワイバーンの王を目指すという下剋上物語だった。
設定も世界観も文章も、全てが子どもが書いたようにめちゃくちゃだったけど、作品への熱意が感じられてなんだか親近感が持てる作品だ。
いつかちゃんと読んでみたいな。
「すみません、探してる情報と全然関係なくて」
「いえ、これはこれで面白いです。機会があったらこの作者の他の本も読んでみたいくらいに」
「残念ながらここに置かれているのはこの一冊のみのようです」
リストを見ていたクロヴィスも少し残念そうに首を横に振った。
結局この日は他に大した収穫もなく、私たちは執事長の手配してくれたお茶と軽食をいただいてから王城を後にしたのだった。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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