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準決勝の試合予想

挿絵(By みてみん)

幸い王政執行官長からの"直接取材の禁止"にはすごい効力があったようで、視線やヒソヒソ話は鬱陶しかったものの、私が闘技場の公爵家のために用意された観覧席に着くまで、直接声をかけてくる人がいなかったのは本当にありがたかった。



「アゼリアー、こっちこっち!」



いくつもの椅子とテーブル、ティーセットや様々なお菓子まで用意されている四大公爵家用の観覧席はゆったりとした造りで、闘技場の熱気を間近に感じつつも、それなりに優雅な時間が過ごせるようになっている。


私にいち早く気づいたルチアナはミレーユと同じテーブルでお茶を飲んでいて、同じ空間には試合観戦が趣味であるクラリエはもちろん、その実家であるフローレット家……アゼリアの祖父母や従兄弟たちから、ルチアナの兄弟姉妹の姿までちらほら見えた。

ミモナは……教室棟での体験授業に参加しに行っちゃったかな。



「決勝進出おめ! もー怪我大丈夫そ?」


「はい。ご心配をおかけしました」


「ま、『公開試験会』だし怪我はしゃーなし。そのための王宮の治癒魔術師だし! とりま何ともないならよかった」



当然ながら観客側には私とダリアスの試合中の会話は伝わってないだけじゃなく、試合中に私が呪いを受けたことも気づかれていない。

不要な心配はかけたくないし、わざわざ言うほどのことでも……っていうか言ったら破天荒ギャル令嬢のルチアナがグレイヴナー家に何をしだすかわからないし……。


魔術部門の青い試合用礼装姿の2人に促されるまま同じテーブルにつかせてもらうと、すぐに近くにいた他家の使用人に飲み物の希望を聞かれ、これまた豊富な選択肢の中から、私はルチアナがお見舞いでもくれたローゼンベルグ領で取れる紅茶をお願いした。



「アゼリアそれめっちゃ好きだよね」


「さっきも飲んでいたじゃない」


「本当に美味しくて、お気に入りのひとつなんです」



眼下に広がる闘技場に目を向けると、さっきの私の試合の整備と浄化がちょうど終わったところだった。

予定通りであれば今日の最後を飾る準決勝第2試合……ギルベルトが出る試合はあと20分くらいで始まる。



「ねー、次どっち勝つと思う?」



ルチアナは闘技場の魔術道具のモニターに表示されている2人の生徒の顔をフォークの先で指す。

すなわちギルベルトと、対戦相手の伯爵令息だ。

……ちなみに彼女の壊滅的なテーブルマナーについて咎める人(言い換えれば彼女への態度の改善をまだ期待してるような人)は、残念ながらこの場にはいない。



「順当にいけばギルベルトでしょう。隣国に面した北部一帯を長年守護してきた"王国の盾"でもあるノルディエン家の次期跡取り……前回大会で複合部門優勝の名も伊達ではないもの」


「大番狂わせとかない?」


「予選なら少なからずあり得るでしょうけど、決勝トーナメントではないでしょうね。ここまでくると偶然は起こらない。勝敗の99%は実力で決まるわ」


「残りの1%はなんなの?」



ミレーユはティーソーサーへ静かにカップを置くと、その飴色の水面を見つめて言う。



「……不確定要素、かしら」


「は」



語尾に『(笑)(かっこわらい)』、とついた声で言ったルチアナのことをミレーユは冷ややかに睨む。

ルチアナの言いたいこともわかるといえばわかるものの、私もミレーユの意見に大方同意だった。

実力が如実に問われるのが『公開試験会』だけど、大番狂せが絶対にない、とは言い切れない。

次の瞬間にギルベルトの頭に隕石がぶつかっちゃって、棄権するかもしれないし!



珍しく年相応のどうでもいい会話に花を咲かせていると、闘技場に主審の男性が入ってきたのを合図に楽団が賑やかな演奏を始めた。

私たちは話すのをやめてまっさらな闘技場へと視線を落とす。



『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 複合部門準決勝第2試合、本日最後の試合が間もなく始まります!』



白コーナーから入場してきた伯爵令息は少し緊張した様子だったけど、それでも堂々とした足取りだ。

彼はアゼリアと同じ高度戦闘魔術の授業にも参加していて、無詠唱で魔術を行使できる数少ない生徒の一人でもある。

それでも……



『対するは赤コーナーッ! その剣と魔術はたった一度の敗走も許されない! 国境を護り続ける北部の盾! ギルベルト・ノルディエン選手ーッ!』


「……うわ、何アレ? やば」



ルチアナが思わず声に出してしまうほど、闘技場の中央へ向かって歩くギルベルトからは闘争心と勝利への渇望が燃え上がって見えていた。

無詠唱で魔術を行使できるのはギルベルトも同じだ。

ただ、彼はクロヴィスと戦うために剣術部門にエントリーしたことがあるほど、その剣術の腕にも自信がある。



「大番狂わせはないかー」



主審の男性が2人の選手から距離を取る。



「……!」



気のせいなんかじゃない。

試合開始を告げる鐘の音を待つそのわずかな時間、ギルベルトは確かに私のことを見た。

それはまるで名指しで宣戦布告でもするかのように、"聖女の加護"という奇跡に挑む挑戦者の瞳をしていた。

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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