聖女の証明
レオンはきちんと約束を果たしてくれた。
おかげで未知への不信感と畏怖でざわついていた闘技場の観客席が、一瞬にして好奇心へと塗り替えられていく。
もしかして自分たちが目の当たりにしているのは伝説の一部なのではないか、と。
『陛下より賜りました書状を代読いたします。【アゼリア・フェリオールは王宮監修のもと、時計塔の諦観の魔術師の適切な指導により、エルグランド王国の聖女として一定の基準を満たす技術を身につけたことをここに証明する】』
……なるほど。
若干事実と異なるこれは、ジェトリウスの筋書きなのかもしれない。
デミスに付き従っていた騎士が掲げた一枚の書状には、確かに国王陛下の直筆のサインがあった。
陛下とジェトリウスに話を通し、面倒な書類手続きを済ませ、王国一忙しいと言われている王政執行官長の直近のスケジュールを押さえさせる……。
間違いなくレオンにしかできない上に、完璧な手配、そして演出だった。
それから私を振り返ったデミスは、胸に手を当てて恭しい態度で地面に片膝をつく。
『証明書の作成にお時間をいただきましたことを、心より感謝いたします、アゼリア様。これより我が国における救国の聖女として、どうぞそのお力を存分にお使いくださいませ』
わあああっ!
文字通り、ビリビリと闘技場が震えるほどの歓声が上がる。
それはアゼリアが伝説の聖女であることを受け入れてくれた人の数を如実に示していた。
きっとその数は100%ではないんだろう……それでもこれだけの人に受け入れられて、認められたことにじんわり目頭が熱くなる。
私は……アゼリアはここにいていいのだと、初めて言われているような気がしたのだ。
歓声の収まらない闘技場の中で、主審の男性はそれでも与えられた役割を果たそうと声を張り上げながら私に言う。
「怪我や痛みの報告をお願いします」
「……っ、はい」
私はソルヴェリオンを腰の鞘に戻し、目元を拭ってから彼に向き直った。
「脇腹の傷は自分で治しました。肩は……症状の悪化を止めているだけなので、まだ傷も痛みもあります」
私は主審の男性に短剣を握ったままのダリアスの義手を差し出す。
「ご覧になっていたとおり、彼の腕と使っていた武器……そのままの状態です。この刃に付着している呪いと今わたくしの肩を蝕んでいる呪いは、誕生日パーティーでわたくしが襲撃された際に受けた、魔術書に登録のない呪いと一致するはずです。すぐに調べていただけますか」
「呪い……? ま、まさか、そのためだけに肩の傷をそのままに?」
「はい。だから急いで調べていただきたいのです」
今になって痛みと失血で冷や汗が出てきた。
肩に受けた呪いを解除してしまうと"私がダリアスから受けた呪いだ"っていう証拠が残らない。
まだ試してないものの、幸いこの体は一度はこの呪いを乗り越えたことがあるわけだから、アゼリアの特別な治癒力にしろ、聖女の加護にしろ、きっともう一度耐えることができるだろう、というのが私の予想だった。
主審の男性はすぐに王宮の治癒魔術師に声をかけ、私からダリアスの義手を受け取り傷口から呪いを採取してくれた。
これでアゼリアを殺したグレイヴナー家の闇を暴ける、はず……
「! アゼリア様!」
目を見開いたデミスがそう叫んだ瞬間、視界がぐにゃりと歪んで暗転した。
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