作戦会議
数時間前。
「珍しいな。お前が護衛を連れずに出歩くなんて」
「……クロには今、大切なお遣いを頼んでおりまして」
アルセリア王立学院別棟にある王族のプライベートルーム。
レオンへの面会を申し出た私の頼みは驚くほど簡単に通り、相変わらず冷めた目をした彼に招き入れられるなり言われた言葉がそれだった。
「予定外の急な謁見の申し出をお許しください」
「構わない」
……割といつもそうだけど、レオンって冷たいのか温かいのかよくわからないんだよなぁ……。
魔術部門の青い試合用礼装を着たレオンに勧められるまま、私は彼の正面のソファーに腰を下ろした。
「実は……他ならぬレオン様にお願いがあって参りました」
「内容は」
「…………」
じわりと汗の滲む手のひらを膝の上で握り締め、意を決して彼をまっすぐに見据える。
「『公開試験会』の準決勝……このあとあるダリアス・グレイヴナーとの試合で、おそらくわたくしは"聖女の加護"を使うことになります」
「……それで?」
「試合後に、国民へ向けて聖女の件を公表していただけないでしょうか」
レオンはその整った顔の表情をひとつも変えずに私を見ている。
「お前の聖女の件の公表タイミングについては父上とジェトリウスとの間で取り決めがある」
「存じております」
やっぱり……できない、とは言わないんだ。
だってレオンにできないわけがないもんね?
「ですが父へお伝えしたところ、陛下への謁見と証明書の取得に複数の手順を踏む必要があり、公表は今すぐには難しいと」
「……」
けれども、そんなアゼリアを王国公認の聖女として発表する古めかしい申請や許可の手順を、レオンであれば一気に短縮できる……それだけのために王族であるレオン直々に動いてくれ、という私の言葉の意図を、彼は理解してくれたようだった。
ほんの数秒目を伏せて何かを考えていたレオンは再び視線を私へ向ける。
「いいだろう」
「……えっ……う、受けてくださるのですか?」
予想外すぎて、そう言った私の声は恥ずかしいほど裏返ってしまっていた。
断られると思って、私の有用性をいくつも提示する準備をしてきたのに……!
「ああ。お前が俺を頼るということは、自分ではどうにもならなかったからだろう。だったら理由を問い詰めたところで時間の無駄だ。どの道お前は俺を納得させるだけの材料を揃えてきているだろうからな」
「……!」
要するに、私がレオンを頼った……たったそれだけの理由で、王族であるレオンは動いてくれるっていうの……?
……これは前からなんとなく感じていたことだけど、改めて確信が持てた。
レオンのアゼリアへの信頼と信用は結構……いや、かなり厚い。
これまでアゼリアが積み上げてきた努力が、今の私を助けてくれてるんだ……!
「……っ、ありがとう、ございます……!」
私は深く頭を下げてから、私がグレイヴナー家へ抱いている確信に近い嫌な疑惑と、その証拠を掴むためにこのあとのダリアスとの戦いで予想されることをひとつずつレオンに伝えた。
レオンは普段と変わらない様子で私の言葉に黙って耳を傾けたあと、「そうか」と小さく呟いて立ち上がった。
「聖女の件の公表は俺が手配する。お前は……」
レオンはそこで言葉を切った。
…………えっ、な、何……?
森の奥の静かな泉のような瞳はいつもと変わらず冷たく私を映しているだけで、その心の内に秘めた想いを覗かせてはくれない。
「……」
レオンは言いかけた言葉を音にすることをやめたらしい。
一度視線を逸らし口を閉ざしてから、改めて私を見下ろした。
「……自分を蔑ろにするような無茶だけはするな」
「! …………それは……レオン様はわたくしのことを心配……されてる、のですか?」
「言葉通りの意味だ」
否定も肯定もしなかったレオンに、ありがとうございますと改めて頭を下げた。
冷酷無慈悲な王族かと思ってたら、結構可愛いところもあるじゃん、なんて不敬なことを思って綻んだ顔を見られなくてよかった。
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