アゼリア vs. ダリアス(3)
横目で見た私の左肩は、猛烈な熱を帯びながら鼓動に呼応するかのように痛みを発している。
袖の中のブレスレットはさらに3つ砕けた……けど呪いは解除できないようだ。
……なるほど、レオンが「複雑な呪い」って言ってただけある。
「傷口から細胞が壊死していくその呪いは、宝具程度じゃ防ぎきれない上……僕たちにも解除ができないんですよ、アゼリア様……!」
「……そうですか」
「ええ、そうです! 侵食スピードには個人差がありますが、死んだ細胞を体から切り捨てる以外に生き残る方法は無……」
「有益な情報をありがとうございます。ではこの呪いは腕ごと証拠としていただきますね」
「っ!?」
そう言うよりも早く、私はソルヴェリオンをダリアスの腕目掛けて振り上げた。
斬れ味のいいその宝剣は彼の腕を容赦なく真っ二つにする。
闘技場に悲鳴とざわめきが響き渡った。
『ア、アゼリア選手が、ダ、ダリアス選手の……ッ、う、うう腕を! せ、せ、切断して……!』
『……いや、よく見てください』
『え……? こ、これは……! 義手です! ダ、ダリアス選手の右腕は義手だったようです!』
出血もなく本体から切り離された義手ごと、私は短剣を肩の傷口から引き剥がす。
「……っ、顔色ひとつ変えずに人の腕を切断するとは……本当にあなたはどうかしてますね」
いや、お前が言う?
「ですがもう遅いですよ! 持久戦になれば、不利なのはその呪いを抱えたあなたのほうですから!」
残された左手で短剣の1本を引き抜いたダリアスは、そう言いながら私との間合いをジリジリと計っているようだ。
「持久戦? あなたから"証言"と"証拠"を得られた以上、無駄な時間をかけるつもりはありませんよ」
「……なに…………?」
ドォン!!
闘技場全体を震わすほどの爆発音と共にダリアスのいた場所に派手な炎が上がった。
「っ!」
紙一重で爆発から逃れたダリアスへ、間髪入れずに次々と追撃を叩き込む。
「これだけの魔術を連発したところで、魔力がもつわけが……っ、は?」
土煙を振り切ったダリアスが私を見て充血した目を見開く。
その瞳は私の脇腹と肩の傷口を包む淡い光を映していた。
「その光は……治癒魔術? 無詠唱で? そもそもあなたには適性が……いや、それならこの爆発は一体」
ドォン!!
戦闘中にぐだぐだとした思考に頭を持っていかれたダリアスは反応が遅れ、私の炎魔術をまともに食らった。
黒く焦げた隻腕の人影がどさり、と闘技場に倒れ込む。
「両者戦闘を一時中断してください! 王宮治癒魔術師はすぐに会場へ!」
主審の男性がそう叫ぶと、すぐに周囲にいた審判団が私とダリアスを引き離し、王宮の治癒魔術師が駆け寄ってきた。
火加減は調節したからダリアスは死んではいないはずだし、なんなら火傷も大したことないはずだけど、本人は巨大な炎に包まれたショックで気を失ってるらしい。
ダリアスの意識がないことを確認した審判団の判断は早かった。
「戦闘継続不可と判断! よってこの試合の勝者はアゼリア・フェリオール!」
『か、勝ったのはアゼリア選手! ……ですが、私の見間違いでしょうか……アゼリア選手は今……ふたつの魔術を同時に使用していたような……』
主審の男性の声を受けて、実況の講師が改めて闘技場内に勝敗を告げたものの、観客席は歓声ではなくどよめきに包まれている。
『み、皆様もご存知の通り、我々がふたつの異なる魔術を同時に使用することは人体構造的に不可能とされています。今のアゼリア選手の魔術は一体……』
「それについては私からご説明いたします」
「あ、あれは……!」
「王政執行官長だ!」
そう言って拡声器となっている魔術道具の使用権限の一部を奪ったのは、数名の騎士を連れて貴賓席から闘技場に下りてきた王政執行官長……国王陛下の秘書兼代弁者であるデミスだった。
悠然と闘技場へ降り立った彼は、唖然とする審判団と治癒魔術師たちにダリアスの治療を続けるよう穏やかな声で諭してから、改めて観客席に向き直る。
『かねてよりアゼリア様には第二の魔術の傾向が顕現しておりましたが、この度王宮はその力を正式に"聖女の加護"……と、認定いたしましたことを、この場を借りてご報告いたします』
「せ、聖女の加護!?」
「それってつまり、アゼリア様は伝説の聖女だったってこと……!?」
どよめきが大きくなる。
……そう、これでいい。
私が王族席を見上げると、高みからこちらを見下ろしているレオンと目が合った。
全て計画通りだ。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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