アゼリア vs. ダリアス(1)
◆
『複合部門、第2試合! 勝ったのはダリアス・グレイヴナー選手ーッ! 双剣による華麗な戦闘の成長は今大会でもとどまるところを知らないようです! 早くも準決勝のカードの片方が決まりましたが、注目はどのあたりでしょう?』
『アゼリア選手もダリアス選手も素早い身のこなしが特徴です。瞬きの瞬間に決着がついていた、なんてこともあり得ますからね……1秒も目が離せない激しい攻防に期待ができそうです』
…………なるほど。
セイリスとギルベルトの忠告を受けて直接観戦した決勝トーナメントのダリアスの試合。
彼の使う短剣の刃先に注目して見ていると、確かに目を凝らさなければわからないほど巧妙に痕跡を誤魔化された呪いが縫い付けられていた。
戦いながらだと見極められないかもしれない。
爽やかで紳士的、少なくとも表向きは慈善事業に積極的な善人……ダリアス・グレイヴナー。
学院内でも社交界でも人気は高いし信頼も厚い。
セイリスもギルベルトも当然グレイヴナー家の非人道的な『実験』については調査を依頼したんだろうけど、悪意をもっておこなわれたと証明するに至る証拠は出なかったんだろう。
それだけ巧妙に隠して、誤魔化して……躱し続けてきた一族の研究の成果に関わることを、真正面から質問して正直に答えてくれるとは考えにくい……。
「……ふぅ」
席を立つ観客に紛れ、息をついて大きく伸びをした。
考えつく限りの準備と手回し……それと、私自身覚悟を決めておかないと。
「少し休憩されますか?」
隣に座って観戦していたクロヴィスが穏やかな声で聞いてくれた。
……言われてみれば、結構肩に力が入ってたな。
「そう、ですね…………」
とはいえあんまり時間がない。
このあとはギルベルトの試合も見ておきたいし……。
……仕方ない、クロヴィスは渋るかもしれないけど。
私は意を決してクロヴィスを見上げる。
「クロ。あなたにひとつ頼みたいことがあるのですが……」
◆
数時間後。
私がダリアスとの試合の準備に奔走しながら観戦したギルベルトの試合。
彼にとっては今大会の初戦のはずなのに、それは実況の講師にまで「王者の貫禄」と言わしめた圧巻の戦いぶりで堂々の白星となった。
まあ、そうなるとは思ってた……けど、本人も言ってた通り去年のどの試合よりも動きに磨きがかかっていた。
クロヴィスに勝つことを目標にずっと牙を研いでたんだろう。
とはいえ、今その切先は私の首をまっすぐに狙ってるわけで。
『白コーナーッ! 知と美に力を引っ提げ、ここまで毎回圧倒的な剣技を披露してきた"剣聖"の愛娘、アゼリア・フェリオール選手ーッ!』
ふぅ。
深呼吸をして歓声の上がる第1闘技場の中央へと歩いていく。
覚悟ならちゃんと決めてきた……大丈夫、嫌な緊張感はない。
『赤コーナーッ! 複合部門決勝トーナメント常連、華麗なる双剣使い! ダリアス・グレイヴナー選手ーッ! 今大会では無冠の王者がついに王冠を手にするのか!?』
私とは反対側の入り口から会場に入場してきたダリアスは、観客席の声援ににこやかに手を振って応える余裕を見せていた。
相変わらずひとつの不正も見落とさないような顔の主審の男性の前に、私たちは向かい合って立つ。
「今までの試合を拝見いたしましたが、あなたがそれほどまでの剣の達人だとは知りませんでした、アゼリア様。僕たちがこうして剣を交えるのは今日が初めてですが、どうかお手柔らかにお願いいたします」
「……」
嫌味でもなく爽やかにそう言って自然に握手を求めてきたダリアスのその手をじっと見てから、私は首を横に振った。
「握手をする前に、あなたにひとつ聞きたいことがあります」
「はい、なんでしょう」
対峙する私たちの映像は拾われているものの、会話の内容は歓声にかき消されて拾われていない。
私は自分よりも上にあるダリアスの夜のような瞳をまっすぐに見据えた。
「……グレイヴナー家は『アゼリア』の殺害に一枚噛んでいましたね?」
「……!」
その場で私たちの会話を耳にしていた唯一の第三者……主審の男性が珍しくその表情を驚きに染めた。
ポカン、としていたダリアスは握手を求めていた手を下げると堪えきれなくなったという様子で笑いをこぼす。
「…………ふっ、ふはははは! 面白いなあ。アゼリア様、一体どこでそんな荒唐無稽な冗談をお聞きになったんですか? そもそもあなたは生きているじゃないですか」
素直に答えるわけはないっていうのは予想してた通りだ。
私はアゼリアに転生してからというもの、今まで何度も作ってきた笑みをダリアスにも向ける。
できる限り、軽蔑と嘲笑を込めて。
「ふふ、そうですね。二度の襲撃のどちらからも、あなたたちに繋がるような決定的な証拠は見つかっていません。ですがわたくしはこうして生き残っていますから……大失敗でしたねぇ? ご愁傷様」
「…………」
哀れんだように言った私に、ダリアスがピクリと反応する。
けれども彼はすぐにまた笑顔になった。
「……大失敗、というのが何を差したお言葉なのかはわかりかねますが……。僕個人としても、あなたが襲撃されたという事件には心を痛めておりましたので、こうして無事にお話ができること自体とても喜ばしいことだと思っていますよ」
「ありがとうございます。まあ、あの程度の陳腐な呪いではわたくしを殺すことなどできませんから、どうぞお気遣いなく」
「……………………」
「試合前です。2人とも話は後にしてください」
主審の男性に割って入られたもののだいぶ煽られてくれたようで、ダリアスはゾッとするほどの怖い顔を隠せていない。
アゼリアの襲撃事件に本当に無関係で何も知らなかったらこんな顔にはならないだろう。
こいつらは間違いなく……黒。
追い討ちとして、私は初めて、アゼリアが15年かけて培ってきた煽りスキルを真正面から相手にぶちまける。
「わたくしのことを殺せるものなら殺してみせなさい? 所詮日の目を見ない小さな世界でいい気になっているだけの凡人に、本当にできるのなら……ですが」
『準決勝第1試合はどうやら開始前からバチバチの様子ーッ! 2人が何を話していたのかわからないことがとても惜しいッ! そして会場もそんな2人に負けないほどの熱気に包まれています! 果たして栄えある決勝戦に駒を進めるのはどちらなのかーッ!?』
主審の男性は毎試合と変わらず安全に関する留意事項と勝敗の判断基準についてを事務的な口調で説明すると私たちから距離をとる。
試合開始の鐘の音を待つ会場は、全員が息を潜めているかのように一時的に静かになった。
そして。
ゴォォン!
鐘の音が響いた瞬間、私とダリアスは同時に武器を抜く。
『両者同時に武器を抜き、一直線にぶつかったーッ!』
今までの試合では多くて4本だった短剣を、今回の試合にダリアスは6本持ち込んでいた。
当然短剣2本分体は重くなってるはずなのに、その動きは一切鈍る様子がない。
ギンッ!
ギンッ……
体のすぐ近くで何度も激しい金属音がする。
……なるほど。
第三者目線で見た試合以上に、双剣使いを相手取るのはややこしい。
多少体勢を崩したところで反対の手に持った短剣で攻撃を繰り出してくる体幹の強さがあるし、単純に1本の短剣への注意力が半分に削がれる。
「(加えて、掠っただけで体を侵食する呪いガチャのおまけ付き……)」
幸いなのは、見切れないほどの動きじゃないってことと、ダリアスは魔術の使用に詠唱を必要とするってことくらいだ。
その魔術も、さっき煽ったおかげで冷静に使う余裕はなさそうだけど。
私の顔の脇スレスレを薙いでいった短剣を避けた反動を使って、ダリアスの脇腹に蹴りを叩き込む。
「ッ!」
短く空気を吐き出したその体は闘技場の端まで一瞬で吹き飛んでいくと、音を立てて壁にぶつかった。
その蹴りの威力に会場が騒然としたことでハッとする。
か、加減間違えた~~~!
相手は強靭な肉体のサイコパス護衛騎士でも、すぐ再生するグリフォンでもないんだった……!
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
★毎日22時に続話追加




