格闘サークルの催し物
ミモナたちが向かったという学院の第2庭園では、主に在校生によるサークルや部活動ごとの趣向を凝らしたイベントや体感型のアトラクションがたくさんおこなわれている。
さすが貴族の令息、令嬢が通う王国一の学院ということもあり、ゲーム形式のアトラクションは景品にもとんでもなくお金がかかっていた。
「セイリス、お願い!」
「ミモナお嬢様、もう一度落ち着いてからよくご覧ください」
「わたくしは十分落ち着いています!」
「さすがです。では改めてどうぞ」
「……よく見ました!」
「彼の腕は、僕の腕の何倍の太さがありそうですか?」
「さ、3倍くらいありそうです」
「そうでしょう。では、勝敗ももうおわかりですね」
「セイリスが負けるはずがありません!」
「…………」
な、何をしてるんだろう……。
急いで第2庭園へやってきた私とクロヴィスの目に入ってきたのは、珍しく駄々を捏ねているミモナと、彼女を説得しようとしているセイリスの姿だった。
「あ、お姉様!」
私が近づいてきたことに気づいたミモナは、周囲に花が飛んで見えるほどの愛らしい笑顔になる。
「準決勝ご進出、おめでとうございます!」
「ありがとう、ミモナ」
「ふふ! 試合用の礼装もお姉様によくお似合いで素敵です!」
「わたくしもこの礼装は結構気に入っているのですよ。……ところで、あなたたちはここで何を?」
「格闘サークルの催し物に参加するところだったのです。セイリスが」
「いえ、しません」
「するのー!」
騎士団の正装にきちんと身を包み、胸元にミモナの護衛騎士を意味する黄色いバラのブローチを着けた爽やかな笑顔の騎士は、かわいい少女のおねだりにも動じないらしい。
「格闘サークルの催し物……?」
「はい!」
ミモナがビシッと手で示した先には腕を組んで立つ筋骨隆々の大柄な男子生徒と、ガラスケース内に展示されている1冊の立派な装丁の本が。
「あちらの格闘サークルの方にアームレスリングで勝つと、ライアン先生の数量限定版の直筆サイン入り新刊をいただけるそうなんです!」
ライアン先生……って、確かミモナが好きな推理小説家だったかな。
なるほど……オタク心をくすぐる絶妙な景品だ。
あえて腕力のなさそうな層が好む豪華景品を置いておきながら、まあまあお高い参加費を取って儲けようっていう腹づもりかぁ。
「……それでセイリス、あなたは何を渋っているのです?」
「怪我をするかもしれないじゃないですか。学生とはいえお相手はあんなに逞しくて強そうなんですよ」
いや、斬られても貫かれてもへらへらしてるサイコパス野郎が何言ってんの?
「それに、ミモナお嬢様はすでに同じ本をお持ちですし」
そ、それはそうなんだけど、そうじゃない!
読むための本と直筆サイン入りの限定版とじゃ価値が全然違う。
っていうかそもそも用途自体が違うんだ……私にはミモナの気持ちがよくわかる。
それにしてもセイリスから返ってきた答えはどうも空虚で中身がない、上部だけの答えのように感じてしまい、私はクロヴィスに耳打ちをした。
「……クロ、どう思いますか?」
「そうですね……セイリスの顔には『何が悲しくてプライベートで男の手を握らなきゃいけないんだ』って書いてあります」
本音はそっちか……。
「最低…………」
私がじとりとした目で見て割と本気で引きながら呟いた言葉もまるで全く気にしていない様子で、セイリスは「事実ですから」といつも通り穏やかに微笑みながら開き直っている。
「……っ、セイリスがどうしても嫌というのであれば仕方ありません。わたくしが自分でやります」
ミモナは自分より縦にも横にも大きな男子生徒へ一歩近づく。
「おお、勇気のある挑戦者だな、歓迎しよう。一応言っておくが、魔術の使用は禁止だ」
「わ、わかりました」
「ミ、ミモナ……待ちなさい」
「お姉様、ミモナをとめないでください。勝負はやってみなければわかりません!」
それはそうなんだけどさすがに分が悪すぎるというか、肘をついた状態で手を握ることすらできないくらい体格差があるんだけど!?
ミモナを止めようともしないセイリスを見て、私は慌ててクロヴィスを振り返る。
「クロ、ミモナの代わりに戦ってください」
「承知しました」
「おっと、待て待て」
セイリスと違ってあっさり承諾したクロヴィスが礼装の袖を捲りながら近づいたのを、男子生徒は降参を示すように軽く両手を上げて止めた。
「『公開試験会』剣術部門5連覇中、学院最強に名を連ねるクロヴィス騎士は参加できない」
「えっ……どうしてダメなのですか?」
「クロヴィス騎士の強さはすでに殿堂入りしているため、残念ながら選手としての権利がないのだ。なんせ体術の授業で俺たち格闘サークル全員をあっさり打ち負かした"漢"だからな」
突然そんな自分ルールを掲げられても困る。
かわいそうに、申し訳なさそうな顔をして謝ってきたクロヴィスに私は気にしないで、と声をかけた。
クロヴィスがダメだと言われたら仕方がない。
「か、かくなる上はわたくしが……」
私より小さなミモナを戦わせるよりはまだ可能性があるはずだ。
……そうはいっても相手の腕、ふっっと!
ひえぇ~……!
私が額に青筋を立てながら袖を捲ろうとしていると、それまでにこにこしながら話を聞いていたセイリスに止められた。
ま、まさか、やっとやる気に……!?
「すみません、ひとつだけ確認させていただいても?」
セイリスは筋骨隆々な格闘サークルの生徒の前へ歩み出て穏やかな声で問いかける。
「おう、なんだ」
「あなたたちの定めたルールでは、クロヴィスはあなたたち全員に勝ってしまうことがわかっているから参加権がない、ということで間違いないですか?」
「まあ、言ってしまえばそういうことになるな」
「ちなみに、僕は参加権をいただけるのでしょうか」
「無論、貴殿のような一般の騎士であれば参加していただいて問題はない」
「なるほど」
……この格闘サークルの生徒、セイリスのことを知らないのか。
クロヴィスのことは同じ学院内にいるから知ってるってだけで、そもそも他家の騎士団の騎士のことなんて知らないのが普通なのかな。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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