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決勝トーナメント・第1試合

挿絵(By みてみん)

◆


……試合直前にみんなから応援をたくさんもらっておいてよかった。

朝、クラリエとミモナから加護を受けたことも。

じゃなきゃ私はここまで勝利に執着できてなかったかもしれない。



「…………っ!」



相手の剣はちゃんと受けたはずなのに、なぜか脇腹に強烈な衝撃が走って、気づいたときには勢いよく体が吹き飛んでいた。

どうやら剣を握ってないほうの手で私の魔術防御壁を突き破り、殴り飛ばしたらしい。


『公開試験会』複合部門、第1試合。

対戦相手の伯爵令息の実力を低く見積もってたつもりはないけど、事前に確認しておいた予選のどの試合よりもいい動きをしているのは確かだった。


予想外のダークホースの登場に、実況と解説の講師たちも自分たちの仕事を忘れてるほどだ。



「グゥゥ……!」


「(……むしろ予選とは別人……っていうか獣じゃん? 動きもヴァステリアのアーノルドを相手にしてるみたい……)」



簡単な魔術程度には怯まないし、ソルヴェリオンで斬りつけて血が出ても痛がる様子もない。

目は血走っていて、固く噛み合わせた歯の隙間から怒りに似た唸り声が聞こえてくる。

その姿は伯爵家の令息にしてはちょっと品がないというか。



「(降参する気配はないし、確実に戦闘不能にしないと……)」



幸いなことに今のところ小賢しく魔術を使ってくる様子はなくて、動きも早いけど直線的で見切れないほどじゃない。


吹き飛ばされながら体勢を整えて地面へ足をつけると、ブーツとの摩擦で派手な土煙が長々と上がる。

私は自分の体が完全に停止する前にソルヴェリオンを握り直して相手の攻撃に備えた。


ドォォン!!


間髪入れず思いっきり剣を振り下ろしてきた相手の剣圧を私が周囲に散らしたことで、闘技場の地面に大きな蜘蛛の巣状のヒビが入る。

大振りの攻撃に動きが止まった一瞬で、私は目の前の相手の顔面に手を伸ばした。



「ウッ!? グゥ……!」



私の手を避けようとして相手が咄嗟に顔を引いたときにはすでに、私が地面から魔術で伸ばした頑強な石の鎖が、その手足を拘束し、首や胴体にも巻き付いていた。



「グ、ァ……ッ!」



抵抗を許さず緩やかに地面へと戻っていく石の鎖は、そのまま彼の背面全体を半分埋めるような形で地面に縫い付ける。

手足が完全に地面の中へ引き摺り込まれた相手の鼻先へ、私はソルヴェリオンを突きつけた。

万が一魔術を使おうとしたら、すぐにでも体ごと地面へ埋められるよう魔力も込めたまま。



「グゥゥ……ッ!」



まだ戦う意志はあるのか、伯爵令息は石の鎖から力で抜け出ようと暴れているけどビクともしない。

やがて闘技場の四方にいる審判団が次々に右手に持った白い旗を上げていく。



「戦闘継続不可と判断、よってこの試合の勝者はアゼリア・フェリオール!」



主審の最終決定が拡声器で闘技場中に伝えられた。

試合のスピードと攻撃の威力に息を呑んで見守っていた観客席が、堰を切ったようにどっと騒ぎ出す。


ほっと息を吐きながらソルヴェリオンを下ろした私に主審が近づいてきた。



「怪我や痛みはありませんか」


「ありません」


「…………」



本当か?という疑いの目を向けられている。


……正確にはさっき脇腹を殴られたときに肋骨が折れたんだけど、服の下でこっそり治癒魔術を使って自分で治してしまった。

だって王宮の魔術師が使う治癒魔術は治るのに時間がかかりそうだし……!


主審が私に何かを言おうとした瞬間、それまで唸っていただけだった伯爵令息が突然吠え出した。

その様子は本当に獣みたいだ。



「グァウ! ヴ、ァア!」


「下がってください」



主審の指示を受けて私が数歩後ずさると、闘技場内に散らばっていた審判団たちが同時に短く詠唱をし、獣のように暴れている伯爵令息へ向けて合同で魔術を発動する。

次の瞬間、真上に現れた転移魔術の魔術印がバリバリッという空間を裂く音を立てながら彼だけを問答無用で飲み込み、その場は綺麗さっぱり元の闘技場の表情を取り戻した。



「お疲れ様でした。引き続き次の試合に備えてください」


「ま、待ってください」



何事もなかったかのように闘技場から私を見送ろうとする主審の男性を見上げる。



「彼に何があったのですか?」



私が戦っていて何も気づかなかったとでも思ってるんだろうか。



「本来の彼とはまるで別人で、言葉も通じない獣のようでした。何か知っていることがあるのなら教えてください」


「…………」


「主審であるあなたには、今の試合は本当に不正のない公正なものだったとわたくしに説明する責任があるのではないですか?」



主審の男性は礼儀正しい態度と厳しそうな表情を一切崩さず、淡々と私へ告げる。



「……プライドを賭けた決闘中に感情が昂り、別人のように豹変することは何も珍しいことではありません。それを差し引いた上で、本当に彼に呪いや薬物が使用された痕跡があるかどうかについては、今後王宮の魔術師たちが調査に入ります。結果が出次第アゼリア様にもご報告をいたしますが、おそらく今回の勝敗の結果が覆ることはありません」


「わたくしの勝ちは変わらないのだから、消化不良だろうとつべこべ言わずに飲み込め……と言っているのですか?」


「これ以上は現状私からお伝えできることはありませんので、どう受け取っていただいても構いません」


「…………」



対戦相手の伯爵令息に"何かあった"ことは感じていても実際は調べてみないとわからない、現時点で主審として個人の意見は言えない……ってことなのかな。

本当にこれ以上は何を聞いても話してくれなさそうだ。



「……わかりました。調査が進んだら教えてください」


「承知しました」



私は歓声と実況の響く興奮に満ちた闘技場で、主審に背を向けて歩き出した。



『複合部門第1試合、勝者はアゼリア・フェリオール選手ーッ! 冷静な立ち回りと相手の攻撃へ立ち向かう勇敢な姿は決勝トーナメントでも健在でした! 今から彼女の次の試合が楽しみですね!』



◇


「お疲れ様でした」



闘技場から裏の控え室に戻ってくると、扉を開けてくれた学院の事務員が穏やかに迎えてくれた。

私はその事務員の顔をじっと見る。



「な、何か……?」


「いえ……ごめんなさい」



困ったような顔で笑ってくれた事務員から目を逸らして、不躾に見てしまったことを謝罪をした。


試合開始直前、私は予選のときと同じように事務員相手に使用武器の申請手続きをした……相手も同じ手続きをしているのであれば、少なくともその時点では言語でのコミュニケーションが取れてたってことになる。

じゃあ彼が獣化したのは私との試合中ってこと……?


ヴァステリアが来てくれてれば意見を聞けたかもしれないけど、今は肝心の対戦相手も王宮に連行されちゃったし、私じゃ調べようがない。

主審が言ってた通り、調査結果を待つしかないか……。


ため息を溢した控え室にノックが3回響いた。

……この礼儀正しいノック音は。



「は~い」



間延びした声で事務員が闘技場とは逆側の扉を開けると、立っていたのは案の定クロヴィスだった。

ふふん、ノック音だけでクロヴィスのことがわかるようになったなんて、私もなかなかのものでしょ。


事務員にきちんと挨拶をしてからクロヴィスは控え室に入ってきた。



「……お嬢様」



私の姿を確認してホッとした様子の彼を見て、ずっと心配しながら試合を見守ってくれてたんだろうと察する。



「大丈夫、あなたの言いたいことならわかりますよ、クロ。わたくしなら元気いっぱいで、どこにも怪我はありません。それに誰が見ても完全な勝利だったでしょう」



私が胸を張ってそう言ったところで、クロヴィスは全部わかってるんだろう。

対戦相手の様子がおかしかったことも、私が試合中に怪我をしたことも、それをこっそり自分で治したことも。


きっと口にしたい小言はたくさんあるはずなのに、それでもクロヴィスは私に笑顔を向けた。



「準決勝進出、おめでとうございます。俺はお嬢様が強くなるご様子を誰よりも近くで見てきましたから、あなたの勝利を一瞬たりとも疑っていませんでした」



きっとそれも偽りのない心からの言葉なんだろうけど、クロヴィスはどんなときでも絶対にアゼリアを否定しないし、ネガティブな言葉をかけない。

否定されないという安心感は、どれだけアゼリアの……私の、心の支えになってることだろう。



「……ありがとう、クロ」



愛想のいい学院の事務員に見送られて、私はクロヴィスと一緒に選手控え室を後にする。


通路に出て少ししてから、おそらく周りに誰もいなくなるタイミングを見計らったクロヴィスが私に声をかける。



「お嬢様。ミモナお嬢様がとても心配されていて、お時間ができたらお会いになりたいと。……それと、セイリスも」


「!」


「先ほどの試合について、お嬢様にお伝えしたいことがあるそうです」



立ち止まって振り返ったクロヴィスは、控え室で見せていた穏やかな笑顔ではなく真剣な顔をしていた。



「……セイリスはわたくしの対戦相手の様子について、何か心当たりがあるのですね?」


「はい、おそらく」


「2人は今どこに?」


「お嬢様の試合が終わり、学院の催し物を見に第2庭園へ向かわれました」



私の次の対戦相手が決まる試合の時間まで、まだ少しある。

第2庭園ならそんなに遠くないし、行って戻ってくることもできそうだ。



「追いかけましょう」

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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