決勝トーナメントの朝
◆
翌朝。
普段のルーティン通り、使用人たちに自己肯定感の上がる言葉をかけてもらいながら身支度を終えた私が食事の席へ向かうと、そこにはアゼリアの母・クラリエと、妹・ミモナの姿が揃っていて、私は思わず目をぱちぱちと瞬かせた。
2人はほわほわとした温かい笑顔を浮かべながら朝の挨拶を口にする。
「おはよう、アゼリア」
「お姉様、おはようございます!」
「お母様、ミモナ……おはようございます。今日はどうされたのですか?」
フェリオール家では各自の生活ルーティンを優先してるため、家族で揃って食事、ということはあまり多くない。
特にかなり余裕をもって通学するアゼリアの朝は早く、ゆったりしたブランチの時間を好むクラリエや、朝に強くないミモナとは長いこと朝食を共にした記憶が残ってなかった。
「今日はアゼリアの大事な『公開試験会』の決勝トーナメントでしょう? きちんと応援の言葉を伝えておきたかったのです」
「お母様……」
「複合部門で決勝トーナメントへ進むこと自体、困難に打ち勝つ強さと勇気を兼ね備えている十分な証明になり得ますし、とても誇らしいことです。今日はどうかあなたの今までの努力を、存分に発揮することができますように」
「……!」
クラリエが胸に手を当てて目を閉じながらそう言い終えると、彼女からふわりと淡い光の玉が現れて、私の体の中へと入っていった。
「本日はわたくしも、お母様と一緒にお姉様の応援へまいります! セイリスも一緒ですよ」
ミモナの言葉に彼女の傍に控える穏やかで胡散臭い笑顔の護衛騎士を見ると、彼はにこりと笑みを深めた。
いや、お前は来なくていい。
「年度末の『公開試験会』のアルセリア王立学院はお祭りのように活気があると聞いています。もし、お姉様にお時間があったら……」
もじもじと恥ずかしそうに俯いて言う愛らしい妹に、私は笑顔で頷く。
「あなたのためならいくらでも時間を作りますよ、ミモナ。学院を案内しますから、一緒に催し物を見てまわりましょう」
「は、はい! ありがとうございます!」
9月にはミモナもアルセリア王立学院に入学する予定だ。
在校生である私の案内は、きっと彼女のためになるだろう。
「『公開試験会』でのお姉様のご活躍と安全を、ミモナも心よりお祈りしております」
手を組み合わせて祈ったミモナからも、クラリエと同じように光の玉がふわふわと飛んできて、私の体へと吸い込まれていった。
……なんだろう。
魔力の循環が良くなったように感じる。
2人の祈りによってバフでもかかったのかな?
2人のおかげで朝から明るい気持ちでガッツリと栄養補給ができた私は、いつも以上に堂々とした足取りで通学することができた。
学院に着いた私とクロヴィスは『公開試験会』の試合用礼装への着替えを案内された。
着付けを手伝ってくれたのは王宮から派遣された一流の使用人たちだったけど、フェリオール家の使用人のように「お嬢様が世界一お美しいです!」とか「今日は目元のメイクが上手くいったわ……」とか言わないで黙々と手伝ってくれたこともあり、なんとも言えない妙な緊張感があった。
私が着せられた複合部門の礼装は『魂の情熱と苛烈な戦いへの勇気』を表しているらしく、赤を基調としている。
対して、着替えを終えて合流したクロヴィスが着ているのは『大地の偉大さと研ぎ澄まされた最上級の剣技』を表す黒を基調とした礼装だ。
図らずともお互い普段から着ている服に色が似ている。
「……? どうかしたのですか?」
クロヴィスが何か少しそわそわしていたので声をかけると、彼は「いえ……」と歯切れ悪く答える。
「……誰かに着替えを手伝ってもらうっていうのが、俺にはどうも慣れなくて」
「ふふ。手伝ってもらわなくても、あなたの着こなしはいつだってわずかな隙もなく完璧ですからね」
「俺はお嬢様の護衛騎士ですから。あなたに恥じない姿でいることは俺の義務で、誇りです」
「ありがとう」
『公開試験会』の決勝トーナメントの開会式までまだ少しだけ時間がある。
私はクロヴィスと一緒に闘技場を目指しつつも、昨日回れなかった賑やかな校内を目的もなく見て回った。
学院内にはすでに『公開試験会』の観戦にやってきた貴族を含む一般客や、学院見学会にやってきた未来の新入生の姿がかなり多くなってきている。
その中でも私たちの礼装は言わば今回の一大行事の主役を意味しているわけで、かなり目を引く。
特によくない意味で有名になりすぎてしまったアゼリアも、編入以来剣術部門で5大会連続優勝をしているクロヴィスも、『公開試験会』の観戦に来た観客にとっては絶好の話題のネタだった。
「おい、あれ……アゼリア様だ」
「本当に複合部門の礼装をお召しなのね」
「どうせ賄賂でも渡して出来レースに乗ってただけだろ」
「決勝じゃ王宮の審判団がいるから不正はできないけどな」
いや、めっちゃ聞こえてるんですけど……。
悲しいことに『公開試験会』の複合部門決勝トーナメント進出、という事実をアゼリアの実力だと思ってくれてる人は少ないらしい。
私以上に私への影口が聞こえてしまってるはずのクロヴィスが、顔に出さないようにしながらも怒りで空気をピリッとさせていることがせめてもの救いだった。
大丈夫、私には私の実力を信じてくれる味方がちゃんといるんだ。
セイリスに地面に転がされ続けた日々も、グリフォンのアーノルドにガジガジ齧られた日々も、無駄なんかじゃない。
その成果を全て、見せつけてやろう。
誰も私を暗殺しようだなんて思わなくなるくらいに。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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