お願い
フェリオール家の屋敷に戻った私は買ってきたお土産を使用人に託すと、着替えをしてからすぐにクロヴィスと一緒にヴァステリアの客室を訪れた。
眠そうな顔でドアを開けた角のある美女は、私たちの肩越しに太陽の光を浴びて「ウッ!」と呻きながら目をぎゅっと閉じる。
「貴様ら、今日は随分早いな……まだ日が高いじゃないか」
「今日は学院が半日で終わったんです。師匠に喜んで欲しくてお土産も買ってきたのですが、一緒にお茶を飲みませんか?」
「おっ? なんだなんだ~、気が利くじゃないか。貴様がどうしてもと言うなら? 飲んでやらなくもないが?」
「どうしても師匠とお茶が飲みたいです」
「ふふん! 弟子と茶を飲んでやるのも師匠の務めというものだしな。いいだろう」
「ありがとうございます」
やっぱり見た目に反してヴァステリアは優しい……というか、甘い。
日差しの下は嫌だと言ったヴァステリアの希望を受けて、テラスではなく応接間にアフタヌーンティーの用意をしてもらう。
華やかな装飾のケーキスタンドにのせられた買ったばかりのスイーツを、彼女も気に入ってくれたようだ。
手際よく準備をしてくれた使用人たちが立ち去ってから、私はヴァステリアと向き合った席に座って紅茶へ手を伸ばした。
他愛ない世間話から、学院での出来事、明日の私の『公開試験会』の決勝トーナメントの話……話題を転々としたのち、機嫌のよさそうなヴァステリアは、ティーソーサーに置いたカップの縁をするりとなぞりながら満月のような瞳を楽しそうに歪めて私を見た。
「で? 本題を聞こうか」
「! お気づきだったのですか」
「フハハハハ! 儂を誰だと思ってる」
「さすがです、やはり師匠には敵いませんね……」
「いいぞ、いくらでも褒め称えるがいい」
得意げな顔の悪魔を一通り褒めてから私は本題を切り出す。
「実は、王国の第一王子……レオン様が、師匠とわたくしを交えて3人での会話の場を希望されています」
頬杖をついて私の言葉にうんうんと耳を傾けていたヴァステリアはニヤリと口元を歪めた。
「……よりによってあの小僧だったか」
「?」
「いや、気にするな。それで日程は? 急ぎなのだろう」
「は、はい。レオン様には今夜……とお伝えしました」
「くく……儂から了承を取る前に約束を取り付けたのか?」
「はい。師匠はきっと頷いてくださると信じていましたので」
真っ直ぐに頷いた私に、ヴァステリアはやれやれ、と肩をすくめる。
「そういうものは本来本人の了承を得てから取り付けるものだぞ」
「申し訳ありませんでした」
「ふん。とはいえ、儂は貴様のことをそこまで分別の無い性格だとは思っていない。余程緊急性が高いと貴様が判断したのだろう」
「…………」
私は、レオンの様子やリノンから聞いた話を全てヴァステリアに話した。
全てを聞き終えたヴァステリアの顔にはもう笑みはなく、何かを考えながら伏し目がちに「……なるほど」と低く呟く。
「それと……レオン様は報酬はなんであろうと用意する、ともおっしゃっていました」
「ん? ああ……物品としての報酬なら不要だ。貴様になにか欲しいものがあるのなら、儂からの要求だと言ってなんでも貢がせてやるといい」
「えっ……見返りなしに話を聞くということですか?」
「心配せずとも見返りならちゃんともらうさ。なに、諦観の魔術師の価値基準は、この世のあらゆる生き物と異なる……というだけの話だ」
そう言ったヴァステリアの横顔は、今までに見たことがないくらいもの寂しげな色を帯びていた。
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