レオンからの呼び出し
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初日に小さな揉め事があった『公開試験会』の予選は、それ以外特段変わったこともなく順調に進んでいった。
ヴァステリアとセイリスによるスパルタ指導の甲斐もあり、私は予選リーグを無事1位の成績で突破し、決勝トーナメントは前回優勝のギルベルトの反対側に名前が掲げられた。
食堂でミレーユに対して不謹慎なことを言っていた伯爵令嬢は、何も知らない本人に正面から戦って惨敗していたし、予選3日目にようやく登校してきたルチアナは、家のゴタゴタなどどこ吹く風といったいつも通りの様子で、2つの不戦敗をつけられながらも「残り全部勝てばギリいける」と言って本当に勝ちをもぎ取り、2人とも晴れて魔術部門の決勝トーナメントへ進むこととなった。
明日からはいよいよアルセリア王立学院年度末の一大イベント、学院見学会を兼ねた『公開試験会』の決勝トーナメントが始まる。
体力・魔力の消耗を考え、今回も初日は複合部門、2日目が魔術部門、3日目が剣術部門……そして4日目が各部門の決勝戦というスケジュールだ。
学院外からの出張店舗や各サークルの出し物の準備があるため、今日は授業が半日で終わった。
学院食堂で決勝のトーナメント表を確認してから、私はクロヴィスを振り返る。
「クロ、せっかくなので学院内を少し見て回りませんか?」
「はい。こちらが『公開試験会』決勝日程中のイベント一覧と地図です」
準備が完璧な護衛騎士から一般向けのパンフレットを受け取って目を通す。
「出張店舗はプレオープンしているはずなので、今日ならお嬢様のお好きな王都のスイーツ店のマカロンも手に入りやすいかもしれません」
「ほ、本当? ではまずはそこに。ミモナと師匠へ、お土産も買いましょう」
「きっとお二人ともお喜びになりますね」
そう言って笑顔で頷いたクロヴィスはすぐにハッとした様子で表情を強張らせ、顔を上げて食堂の入り口を振り返る。
多くの生徒が出入りする学院食堂なんておそらく初めてであろうレオンが、護衛の騎士を引き連れながらやってきたところだった。
相変わらず無表情で冷酷そうな整った顔の彼は、食堂内を見回して私と目が合うと、外に出るよう視線で示してすぐに食堂から出て行ってしまう。
こ、声も出さずに呼び出された……。
突然の王族の登場にざわついている食堂内を抜けて、私はクロヴィスと一緒のレオンの後を追う。
浮き足だった学院内の様子から隔離された、別棟にある王族のプライベートルーム。
初めて足を踏み入れたそこで、レオンに勧められるまま彼の正面のソファーに腰を下ろした。
……びっくりするほど柔らかくて、正直腰が抜けるかと思った。
「……急に呼び出して悪かったな」
「いえ……」
……ん?
足を組んで背もたれに体を預けたレオンが少し疲れたような顔をしているように見えたのだ。
王家の人間が人前でそんな顔を見せるなんて。
「アゼリア、お前にひとつ頼みがある」
正面から私を見据えた静かな瞳は、前置きもなしにそう告げた。
命令じゃなくて、頼み……?
個人的な用ってことなのかな。
「え、ええ、わたくしにできることでしたら何なりとお申し付けください」
「急ぎお前との会話の場を設けてほしい。そしてその場にはヴァステリア殿の同席を頼みたい。場所は彼女のテリトリー内が望ましい」
「つまりフェリオール家で、3人で話がしたい……ということですか?」
「王城の外であるなら場所も時間も問わない。指定があるなら従おう」
レオンが私とヴァステリアの3人で話したい?
ヴァステリアはシリルの件の調査に協力をしてたから、それ関係の話とか?
うーん、まあ、あの悪魔結構ノリがいいしうまく頼めばなんとかなるか……。
私がヴァステリアへの交渉の段取りを頭の中でおこなっている様子を迷っていると感じたのか、レオンは言葉を付け加える。
「時計塔の"大賢者"……諦観の魔術師相手に会話の場を取り付けることは、本来一筋縄ではいかないと聞く。金か、宝石か、貴重な素材か……なんであろうと全ての要求に従うと伝えてほしい。取次を頼むからにはお前にも相応の報酬を支払う」
そ、そこまでして話したいの!?
っていうかヴァステリアと話すのってそんなに大変なことだったんだ……!?
説得してフェリオール家にまで連れてきたジェトリウスは、本当にどれだけの代償を支払ったの……!
顔にこそ出てないものの、レオンがここまで下手に出るなんて相当切羽詰まってるようだ。
急いだ方がいいんだろう。
「……わかりました。それでしたら今夜、フェリオール家の本邸へ直接お越しください」
レオンは真意を探るようにじっと私を見てから、ふかふかのソファーから背を離す。
「可能なのか?」
今まで幾度も修羅場を潜り抜けてきた私の表情筋よ!
今こそ奮い立て!
私はレオンになんとか笑顔を向けた。
「はい、お任せください。他ならぬレオン様からの頼みですから、わたくしも全力でお力になりたいのです」
「……」
レオンは再びじっと私を見てから、淡々と「わかった」とだけ答えた。
『優しくていい子なアゼリア』をアピールしようという私の作戦はレオンには通用しなかったらしい。
私たちは他に世間話をすることもなく、王族のプライベートルームを後にした。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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