新月の夜の儀式
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アルセリア王立学院の『公開試験会』予選リーグ期間中のある日の夜、エルグランド王国王都内、某所にて。
王国の第一王子であるレオンは2人の弟を連れて地下への螺旋階段を下りていた。
王家の人間には代々伝わる不思議な習慣がある。
【新月の夜は王城の地下にある祭壇に祈りを捧げよ】
この祈りによって、王家の人間には圧倒的な魔力が与えられると言われている。
「兄上。ご気分が優れないのですか」
5歳年下の弟が前を歩くレオンを気遣って声をかけた。
兄の足取りがいつもより重いと感じているらしい。
「……いや、問題はない」
「それならばよいのですが……」
……リノンの歌を聴いたあとの新月の夜はいつもこうだ。
彼女の歌はいつだってレオンの心に温かさをもたらすと同時に、祈りの場での不快感を増大させる。
階段を下りた先にある地下室には、すでに兄弟たちの父であるエルグランド国王の姿があった。
国王は息子たちの姿を確認すると、使用人たちの手によって美しい花で飾り付けられ、新鮮な果物を備えられた祭壇の前に膝をつく。
兄弟たちは父の背後で彼に倣い、目を閉じて胸に手を当てた。
「大いなる大地の精霊よ。その力の一部を我々へ与えたまえ。一族の未来を守りたまえ」
国王がそう唱えると、薄暗い地下室に眩い光が満ちる。
その光によってレオンの胸の不快感は薄れ、同時に体の末端にまで魔力が行き渡っていく。
地下室を包んでいた光が消えてからレオンが自らの手を握り締めると、きちんと指先まで力が入った。
《相変わらず敬虔なことだ》
「……」
幼い頃からレオンには代々王家の人間が祈りを捧げ、力を与えてもらっているという"大地の精霊"の声が聞こえていた。
どうやら先王も、父も、弟たちにも、その独り言は聞こえていないらしい。
それ故自分たちの一族が崇めている対象が"大地の精霊"という神聖な存在などではないと彼が気づくのに、そう時間はかからなかった。
……だが、これでいい。
これは正しいことだ。
崇めているものが神聖な存在であろうと邪悪な存在であろうと関係ない。
それによって国を守れるほどの強大な力が与えられていることは事実だ。
誰から力を得ているのか、その対象に対する自分の快・不快など取るに足りないことだ。
だが、その日の"大地の精霊"は様子が少し違った。
《くく……何も知らぬ呑気な人間どもめ。国を守るために得た力の代償で自らの世界を滅ぼすとは、なんとも皮肉なものだなぁ》
…………何?
父も弟たちもその声が聞こえた様子はなく、"それ"もまた自分たちには己の声が聞こえていないと思っている。
《間もなく我の力も満ちる……600年にも及ぶ我が悲願、今こそ叶えるとき》
……何を言っている……?
《くくく……フハハハハ! 長かった、ここまで実に長かったぞ! 憎き聖女とヤツを崇める全ての人間どもを虐殺し、この世界を魔と闇が支配するのだ!》
祈りの姿勢を崩さないまま、レオンの背中を冷や汗が伝う。
俺たちは……王家の先祖は、一体何に手を出した……?
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