王国の矛
ミレーユの控え室から再び食堂へと戻る道すがら、私は黙って後をついてきてくれるクロヴィスの存在に改めて心の中で感謝した。
私の護衛騎士がジルみたいに厳しい騎士だったら心が折れてたかもしれない……。
「クロはジルとは知り合いだったのですか?」
ふと疑問に思ったことを背後の護衛騎士に聞いてみた。
クロヴィスは「はい」と頷く。
「ジルコンティア・デュランダル……彼女の名前を知らない騎士は国内にいません。"王国の矛"、デュランダル家の末妹です」
「"王国の矛"? ……もしかして彼女はヴァロワール家の騎士ではなく、王家の……?」
「ご想像の通りです。デュランダル家は代々王家に仕える名門の騎士一族ですが、その中でもジルコンティアはご兄弟を押しのけて歴代最年少で王宮騎士試験に合格した猛者だそうですよ」
「そ、それってつまり、すごく強いのでは?」
「そう、ですね……」
「……?」
クロヴィスにしては珍しく歯切れが悪い。
「……デュランダル家は『負けて帰ることは騎士の恥、敗北よりも死を選ぶ』という方針なので、基本的に彼女も実戦で負けたことはないと思います」
……ああ、なるほど。
『生きて帰る』ことを強さとするジェトリウス……フェリオール家の騎士たちとは強さの価値基準が違うのか。
そりゃあクロヴィスでも「強い」って言い切れないよなぁ。
「でも確か……過去の『公開試験会』には、デュランダル家の騎士たちの出場記録はなかった気がするのですが」
「はい。そもそも王家の騎士には『公開試験会』に出場するメリットがないので、おそらくジルコンティアも……無駄な戦いはしない主義なんでしょう」
そっか……貴族たちと違って"王国の矛"、デュランダル家、王家の騎士……すでに名前は十分有名になってるし、存在自体が強さや勇気の証明になってるんだ。
わざわざ見せびらかすまでもない、って感じなのかな。
じゃあクロヴィスは?
「クロの強さも学院内では充分有名だと思うのですが、あなたは毎回『公開試験会』に参加していますよね」
「俺はジェトリウス様を見て育ちましたから。あの方は"剣聖"の称号をかけた決闘を拒んだことも、挑戦者に負けたこともありません。だから俺も挑んでくる相手は選ばないし、どんな相手にも勝つことが強さの証明だと思ってます」
「なるほど……」
どちらの考え方が正しいだとか崇高だとか、騎士の考え方についてはアゼリアの記憶を探しても私にはわからない。
でもなんていうか……ジェトリウスやクロヴィスの考え方のほうが潔い感じがするのは、私やアゼリアが彼らの近くに身を置いてるからなのかな。
「それに……」
「?」
私は言いかけたクロヴィスを振り返る。
私と目が合うと、若い護衛騎士は小さく笑った。
「お嬢様の護衛騎士であるなら、強ければ強いほどいいはずです。もし俺の強さが王国中に知れ渡れば、あなたに何かしようとするやつを牽制することもできるだろうし」
「!」
負けないことが私を守ることにも繋がるから……だからクロヴィスは毎回『公開試験会』で勝ち続けるの?
忠誠心がすごすぎるよ……!
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