決着
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ソルヴェリオンが切り裂いた特殊な防御壁は裂け目から瓦解していき呆気なく消えてなくなった。
ヴァステリアが「伸びている」と言っていたナイフを操っていた襲撃犯たちは、自分たちの使っていたナイフに塗られていた呪いのせいで、私が治癒魔術をかけても助かりそうにない。
「お嬢様。防御壁を発動していた男も、もう息はありませんでした」
「……そうですか」
周囲を確認して戻ってきたクロヴィスは、ナイフの呪いによって虫の息になってしまっている男たちを静かに見下ろす。
「ついた傷口から細胞が壊死していく呪い……」
「誕生パーティーでわたくしが襲撃された際に受けたものと同じもののようですね」
一度擦りさえすれば、遅かれ早かれゆっくりと死に向かっていく。
この男たちは破れない防御壁の中で、私のことを……クロヴィス共々本当に殺す気だったんだ。
「木の根を操っていた男はどうですか?」
私の問いかけにクロヴィスは首を横に振る。
「お嬢様の治癒魔術で体は回復していますが、まだ目を覚ましません。念の為手足を拘束し、魔術の使用ができないよう枷を嵌めておきました」
つまりこの場にいる襲撃犯の中に、会話ができそうな人はもう残っていない。
ヴァステリアとミレーユを追うか、2人が戻るのを待つか……
バリバリバリッ!!
私が今後の行動について考え始めた瞬間、空間を裂く一際大きな音がしてヴァロワール家の庭園の周囲を強烈な光が包んだ。
これは……生体転移魔術?
光が収まった時、庭園に立っていたのはレオンとその付き添いの騎士と魔術師が1人ずつ……そして見る影も無くなってしまったこの屋敷の当主である、ヴァロワール公爵だった。
「なっ……!? 屋敷が……!」
ヴァロワール公爵は荒れ果てた庭園と、庭園に面した屋敷の一部が派手に崩壊していることに顔を青くして腰を抜かし、その場に崩れ落ちるように膝をついた。
その場に私とクロヴィスがいることに気づいたレオンは、付き添いの騎士と魔術師に被害状況を確認するよう伝えてから私たちの元へやってくる。
「アゼリア。怪我はないか」
「わたくしは問題ありません。クロもこの通りです。……レオン様はなぜここへ?」
「お前が危険に瀕している可能性があると、ジェトリウスから報告を受けた」
ジェトリウスが……?
まさかヴァステリアが自らここへ赴いた理由も、襲撃を予見したジェトリウスに指示されたから……?
確か彼女はここに襲撃の首謀者が来てる……みたいなことを言ってた。
「貴様! と、止まれと言っているだろう!」
「やかましい人間だな。儂に敵意はないと言ってるだろう。ほら、ヴァロワール家のご令嬢もそれを証明してくれている。な?」
「!」
屋敷に向かっていった騎士たちの警戒を含んだ声に振り返ると、ヴァステリアがミレーユを連れてちょうど屋敷から庭園へ出てきたところだった。
背後にいるグリフォンのアーノルドに男を運ばせている。
こ、こうやってみるとアーノルドって本当に温厚で従順なんだな……戦闘訓練ではいつもあんなに凶暴なのに……。
「……っておいこら! 貴様今アーノルドの足を刺したな!? 食い殺されても知らんぞ!」
「ミレーユ!!」
「……お父様?」
騎士を叱ったヴァステリアの隣に娘の姿を視認したヴァロワール公爵は彼女に駆け寄った。
「ミレーユ……! 無事でよかった……」
「わたくしも使用人たちも皆無事です。それよりどうしてお父様がここに……」
「シリルの件について殿下から知らせを受けたのだ。だが屋敷の転移門が壊れているようで発動できなくてな……殿下が自らここまでお送りくださったんだよ」
「そうでしたか……」
シリルの件……?
よく見ればヴァステリアがアーノルドに運ばせているのはシリルだった。
ついさっき屋敷のエントランスで会ったときのような知的な凛々しさはなく、なんだか目は虚ろで体もぐったりしている。
何かあったのかな……。
ヴァステリアは真っ直ぐに私たちの元へやってくると、そこでようやくアーノルドが背に乗せて運んできたシリルをレオンの付き添いの騎士へと引き渡した。
「あなたが時計塔の諦観の魔術師、ヴァステリア殿だな」
「ん? いかにも」
「お初お目にかかる。俺はエルグランド王国第一王子、レオンハルト・エルグランドだ」
私は思わず目を見開いてレオンを見た。
王族であるレオンが自ら声をかけて名乗った上に、ヴァステリアに対して呼び捨てにしなかった……だと……!?
それはつまり、ヴァステリアの立場は未来の国王が一目を置く存在だということになる。
時計塔はこの世界の完全中立地帯だからとか、そういうこと……?
「ああ……小娘の婚約者の小僧か。…………ふむ……なるほどな」
「……」
ヴァステリアはレオンの姿を頭から足先まで品定めでもするかのようにじっくり眺めて、自分の中の何かに対する答えを得たような様子だった。
王家の人間のことをそんな不躾な目で見るなんて、あまりにも命知らずな行動だ。
そんなヴァステリアの失礼な態度を咎めることはしないで、レオンはいつもと変わらず冷静に、淡々と言葉を発する。
「アゼリア襲撃の一連の首謀者として、王宮はシリル・ヴァロワールの身柄確保と尋問を決定した」
え?
「そこで、ヴァステリア殿には尋問にご協力いただきたい」
「くくく……その様子、儂の"魔術"と"この眼"について詳しいやつが近くにいるな? いいだろう。どの道儂も欲しい情報は自分で探るしかないと思っていたところだ」
ちょっ……と、待って……
アゼリアを襲撃した事件の首謀者って、シリルなの……?
さっき笑顔で話しかけてくれたのに……あの笑顔は嘘だったってこと?
いつ会っても紳士的で知的で穏やかで、アゼリアの記憶をどんなに探してみても、シリルとの個人的な確執や恨みを買うような出来事は見つからない。
同じ公爵家とはいえ年上で、知識も魔術も常に自分より先をいっていたシリルのことは、さすがのアゼリアでさえ一目を置いていたようだった。
そんなことをぐるぐると考え込んでしまった私を見て、ヴァステリアは補足してくれた。
「詳細は頭の中を調べてみないとわからないが……本人が漏らしたところによると、彼奴は貴様を殺すことで、自分の妹を王子の婚約者に押し上げたかったようだ」
「ミレーユを? ……そのために、わたくしのことを……」
アゼリア自身が誰かの恨みを買っているわけじゃなくても、レオンが婚約破棄をするつもりがなかったとしても……やっぱり私が"レオンの婚約者"っていう立場である限りは、身に覚えのないところでも死亡フラグが付きまとうんだ……。
レオンは王宮の魔術師にヴァロワール家の大きく壊れた庭や屋敷の最低限を修復するように命じてから私に目を向ける。
「シリルの行動はアゼリアへの殺人未遂だけではなく、王家の決定に意を唱えるものでもある。同様の事件を防ぐためにもこのことは公にし、然るべき罰を与える」
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
★毎日22時に続話追加




