特別な魔術防御壁
「それより貴様、魔力が暴走した割には元気そうじゃないか」
「あれは私の魔力暴走、だったんですね……」
「まー、あまり気にするな。魔力量が多い者なら人生で一度は経験するモンだ」
師匠こそどうしてここに、という疑問をなんとか飲み込んで素早く現状を伝える。
「ひとまずわたくしもクロも無事ではあるのですが、今襲撃を受けていて……」
「ああ。襲撃犯の2人ならあちらで剣山のようになって伸びているぞ。まだ息があるようだから貴様の好きにしろ」
「え!? し、師匠が手伝ってくれるのではないのですか?」
襲撃犯はこの妙な魔術防御壁のそっち側にいるから、私たちは手が出せないのに……!
「手伝うとも。だが思ったより現状は悪くない。ここは貴様らに任せて、儂はあとの2人を捕らえに行く」
「あとの2人……?」
「ああ。すなわちこのくだらん茶番の首謀者と、そいつに手を貸している大馬鹿者だよ」
くだらない茶番の首謀者……って、まさかアゼリアの暗殺を企てた人間のこと……?
近くに来てるの!?
来い、と言ってミレーユの腕を掴んだヴァステリアの背に慌てて問う。
「ま、待ってください、師匠! この魔術防御壁の解除方法がまだ……!」
「解除は必要ない。貴様ならよくよく考えればわかるはずだ」
それだけ言い残すとヴァステリアは何か文句を言っている様子のミレーユを引きずって、本当に屋敷の中へと姿を消してしまった。
わからないから聞いたんですけど~!?
頼りになるようでなんの参考にもならないじゃん……!
「当たり前ですが、魔術も通りません」
「わたくしの聖女の加護でもダメそうです……」
特殊な魔術防御壁を破ろうと2人で色々試してみたけど、どれもあっさり弾かれてしまった。
こうしている間にも、外にいる襲撃犯が動けるようになったらまた無数の透明なナイフによる見えない攻撃が始まるかもしれない。
どうすれば……。
黙って辺りを見回していたクロヴィスが、腕を組んで「うーん……」と小さく首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いえ…………これはなんの根拠もない俺の感覚的なものなので、あまり信用しないでいただきたいんですが」
「大丈夫ですよ。なんでも話してください」
「はい……その、俺たちを囲んでいる魔術防御壁からはどうも……魔力の臭いがしないというか……」
魔力の臭いが……しない……?
言っておいてクロヴィス自身自分の言葉にしっくりきていないような顔をしている。
「魔術防御壁が魔力なしで展開されることはあり得ないし、もし仮にそうだとしても何の解決にもならないんですが…………すみません、やっぱり気にしないでください」
「…………いえ、クロの言っていることは正しいのかも」
私はさっきまで散々暴れ回っていたナイフを拾った。
よく見るとその刃先には魔力を帯びた何かが塗られている。
これは毒?
…………いや、むしろ呪いのような……。
私たちを足止めするための木の根を操る男と、私たちを閉じ込めるように展開された特殊な魔術防御壁。
その外にはナイフを透過していた人間と、操作していた人間。
そしてナイフには呪いが付着している……。
自分たちの持つ魔力リソースの中で、この方法であれば確実に私を殺すことができる算段が、彼らにはあったんだろう。
だからこそ、この魔術防御壁に文字通り命を懸けた。
私を殺すためにそこまでするの……?
もし……もしこれが本当なら……こいつらは完全にどうかしてる……!
私はアゼリアの記憶から、彼女が以前の魔術の先生に授業で教わった内容を引っ張り出した。
「……人が自分で持つ魔力以上の魔術を発動しようとすると代償を払うことになるそうです。その際の選択肢は二つだけ。"時間"か"生命力"か、です」
「……!」
そのうち"時間"に関してはちょっとやそっとでは駄目で、たった一度の発動までに数十年、数百年を消費する必要がある。
各貴族家に代々伝わっている秘伝の魔術……なんてものがあるとすれば、それが該当するだろう。
今回の襲撃犯がそんな秘伝の魔術を持っているとは考えにくい。
ということは。
私は改めて魔術防御壁を見上げた。
「……おそらくこれは、術者の生命力によって作られた特別な防御壁でしょう」
重すぎる代償を支払った代わりに、この防御壁はどんな物理攻撃も、魔術も……聖女の加護さえも通さない。
ただし代償にしている術者の命が尽きれば当然、勝手に消えてなくなるだろう。
「……自然消滅を待ちますか?」
クロヴィスが私に問う。
「……いつ消えるかもわからないし、破壊できるなら破壊したいです。師匠が言っていたことも気になりますから」
本当にアゼリアを殺そうとしている首謀者がこの場にいるのなら、私だってぼんやりしてるわけにはいかない。
頭を整理しながら物質転移魔術でソルヴェリオンを呼び出す。
この防御壁が本当に生命力を原料にしてるなら……ヴァステリアが300年かけて鍛えたこの『呪いを断ち切り、魂を運命の鎖から解放する力を持つ』宝剣で、この特殊な防御壁を破ることができるかもしれない。
私は美しい装飾の施された鞘から剣を抜いた。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
★毎日22時に続話追加




