大魔術師からのフィードバック
「まず小僧。貴様はすでに大方自身の戦闘スタイルを確立しているな。その力は現時点でも充分世界に通用すると同時に、あまり伸び代がない」
「…………」
これ以上強くなれない、と暗に言われたからか、クロヴィスは納得できないような顔をしていた。
「……というのは、あくまで技術面での評価だな。貴様はもうひとつとんでもないモノをその身に宿しているだろう」
「……」
「ソレについては儂ももう少し詳しく調べてみる必要があるが……上手く使えば身体能力や魔力値を飛躍的に向上させられる力のようだな。ま、そこは伸び代と言えるだろう。肉体がソレに負けてしまわないよう、精々日々の鍛錬を怠るなよ」
「……ありがとうございます」
2人にはわかっているようだけど私には何もわからない。
え……?
もしかしてクロヴィスって……実はすごい力を持った人だったのかな……。
「問題は貴様のほうだ、小娘」
「は、はい!」
ヴァステリアは腕を組んで怒ったような顔で私に向き直る。
「なぜ"聖女の加護"を使わない!?」
「え!?」
私、今聖女の加護使ってなかったの!?
何もわかっていない私の心情を察したのか、ヴァステリアは開きかけた口を閉じて一度私から視線を外す。
「……いや、その………………はあ、感情的になってすまない」
あ、謝った…………!?
傲慢な魔術師なのかと思ってた"大賢者"が……!
「……そうだな……きちんと順を追って話そう」
自分自身に呆れた様子だったヴァステリアは頭をがしがしとかいてから私に向き直る。
「まずは先の戦闘評価だが。貴様の身体能力と状況を冷静に見極めるその目、そしてアーノルドの攻撃を正確に捌きながらもなお集めたデータを分析する能力。大したものだと言える」
「あ、ありがとうございます」
「魔術もだな。自身の思考と同時に自在に魔術を繰り出すその速さ、判断力。加えて聖女の加護に頼らずとも、アーノルドの血まで凍らせることができる高純度の魔力。正しく積み重ねてきた努力と生まれ持った才能を合わせたからこそ成せる技だ」
……どちらも私の力じゃない。
アゼリアの努力とこの体のおかげだ。
「だが、先ほどのアーノルドの動きを封じた小僧の頭部への刺突と雷魔術、血まで凍らせた貴様の氷魔術……本来なら貴様一人で全てできていたはずだ」
…………。
いや、できませんけど!?
クロヴィスがいたから手分けしてなんとか成り立ったのであって!
その上、剣と雷魔術は完全にクロヴィスを頼ってしまっていた。
無理です、と首を横に振る私を見るヴァステリアの目は真剣だ。
「……ふむ。貴様、小僧と違って自分の手に馴染む剣を持っていないな?」
「それは……はい、おっしゃる通りです」
真面目に剣術訓練を始めたのだってつい最近のことだし、使っていたのは騎士団の訓練用の剣だ。
しかも訓練参加は身体強化が目的だったから、自分の剣を持つことは正直ないと思ってた。
「はは、やはりな。貴様、魔術を使いながらもどこか手持ち無沙汰な顔をしていたぞ?」
「え……」
思わず両頬を手で覆う。
ヴァステリアは困ったように笑うと、亜空間に空けた暗い穴から1本の剣を取り出した。
「これを貴様に与えよう」
「これは……」
ヴァステリアに渡された剣の刃は透き通るくらい美しく磨き上げられた銀色で、長さは私が振るのに長すぎず短すぎずちょうどいい。
柄は握りやすく、重すぎもしない。
鞘には赤い宝石を基調とした美しい装飾が施されている。
……これはなんていうか、レア⭐︎5の宝剣……っていうやつでは……。
「それはこの諦観の魔術師が300年かけて打った宝剣。呪いを断ち切り、魂を運命の鎖から解放する力を持つ。銘を『ソルヴェリオン』という」
さ、300年…………!?
年数もさることながら、なんだか背景も重すぎる……ッ!
「う、受け取れません、こんな貴重なもの……!」
「うるさい黙れ。この儂が受け取れと言っているのだから断ることは許さない」
「そ、そんな……!」
「それにさほど貴重なものでもない。運が良ければS級冒険者だって人生に一度くらいは目にすることができるし、そこらへんの国の国宝にだって似たようなものくらいある」
…………それって相当珍しいものじゃん!?
「その剣を握っていれば貴様も戦闘中に手持ち無沙汰な顔をせずに済むだろう。はっはっは、赤ん坊の"おしゃぶり"みたいだな!」
「…………」
超高級おしゃぶり……。
「それにいいことだってあるぞ。武器としての切れ味ももちろん保証するが、何よりソルヴェリオンは魔力を引き出すことに長けている。持っていれば貴様のその聖女の加護も使いやすくなるはずだ」
「……!」
思わず再び手の中の宝剣を見た。
この剣にそんな力が……。
「そしてもう一つ。こちらが本題なんだが……貴様も薄々気付いているのではないか? 貴様の持つ本来の魔術と、"聖女の加護"……この二つは使用する魔力源が異なるため、同時に発動することができる」
「!!」
それってつまり……私にはオレンジジュースとリンゴジュースを同時に飲むための、2本のストローが与えられてるってこと……!?
「今まで"聖女の加護"を使用したと実感した瞬間はあったか?」
私は首を横に振る。
「いえ……私の中では使い分けをしている感覚はありません。ただわかっているのは、本来私に適性のない治癒魔術を使っているときはおそらく聖女の加護が発動していることと……先日風魔術を使用している際に、聖女の加護による炎魔術を発動したことがあったらしい……ということくらいです」
「くくく、そうか。昨晩屋敷に魔術防御壁をかけながら父親に治癒魔術をかけた時もそうだったが……自覚はなかったか」
い、言われてみれば確かに……!
クロヴィスはどちらも見捨てなくていいって言ってくれたけど、もしかして彼は私の中の魔術の仕組みに気付いて……?
「言ってしまえば、本来の貴様が使えない魔術は全て聖女の加護が無理やりなんとかしてくれようとする。便利な力だな? 逆に、使い慣れた魔術はどうしても自分の魔力を消費して使ってしまうようだ。故に貴様に必要なのはこれらの正確、かつ咄嗟の使い分けだ。ふはははは! 伸び代しかないなぁ?」
私は自分の右手を見る。
この手は2つの魔術を同時に使うことができる……。
「……師匠、2つの魔術を同時に使う、とは、具体的にどうやるのですか?」
「うーむ。この超絶大天才といえど、さすがに2つの魔術を使うことはできんから理屈しか教えてやれないが……」
ヴァステリアは綺麗な人差し指をぴっと立てる。
「何よりまずは認識すること。自分は2つの魔術を同時に使えるのだということをな。魔術は1つずつしか発動できないものだという固定概念は真っ先に捨てろ」
「は、はい」
彼女はうんうん、と頷きながら中指もぴっと立てる。
「そして実行すること。おそらく『できないことをやろうとする』くらい無理やり使おうとしなければ、貴様の聖女の加護は発動しない。基本的には自分の魔力消費を優先してしまうようだからな」
大体の魔術を自分の魔力で使えてしまうのがまた厄介なようだが……とヴァステリアは付け加えながら、転移魔術を使ってその両手に一対のグラスを取り出した。
まるでマジックのようだ。
「今儂が言ったことを踏まえてここから試してみるといい」
左右の手に渡されたグラスには半分くらいまで水が入っている。
「右手のグラスの水は凍らせ、左手のグラスの水は沸騰させてみろ」
「えっ」
「同時に2つの魔術を使う練習だ」
右手のグラスには氷魔術、左手のグラスには熱魔術……
「わっ……!」
両方のグラスが凍りついてしまった。
「聖女の加護を扱うには、貴様にはここが一番の難関だろうよ。すぐにはできまい」
……確かに、意識して2つの魔術を同時に使うのってものすごく難しい。
意識しているつもりなのにどちらとも凍るか、どちらとも沸騰するかだ。
「小娘が地味な鍛錬に精を出している間、貴様には別の課題を出してやろう。こちらへ来い、小僧」
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
★毎日22時に続話追加




