死の恐怖を乗り越えろ!
「ま、参りました……」
学院での1日のスケジュールを終え、帰ってきた屋敷で騎士団の剣術訓練に参加させてもらっていた私は、いつも通りセイリスに降参を申し出ていた。
今回は地面に転がされることも剣を弾き飛ばされて丸腰になることもなかったものの、やっぱり私たちの力の差は歴然だと、突き付けられた斬れない剣先から伝わる気迫に思い知らされる。
「……やはりセイリスは強いですね。初めて1本を取って以降、全然勝てません……」
「さすがアゼリアお嬢様! まだ僕に勝つつもりでいらっしゃるなんて相変わらず素晴らしい向上心……ですが、歩く前から剣を握っていた僕にそう簡単に勝たれても困ります。お嬢様がそこまでお強いと、僕たち騎士団の仕事がなくなってしまいますからね」
いや……どんな皮肉だよ。
セイリスは笑顔で剣を下ろすと改めて私に向き直る。
「ただ、今の手合わせは結構楽しかったですよ。まるで怒ったクロヴィスを相手にしているような緊張感がありました」
「…………」
私の瞼の裏にまとわりついて離れないのは、戦闘魔術の授業でのレオンの顔だった。
冷たい瞳と逃げ場のない状況に、授業とはいえ本当に私はあそこで死ぬんだと……同時に、絶対死にたくないと強く思った。
あのときの私にはレオンに腕を掴ませてしまうような隙があったんだ。
クロヴィスだったら腕を掴まれる前に相手を斬り捨てることができただろう。
あの恐怖心は私が弱かったせいで生まれた。
私がもっと強ければ。
もっともっと強くならなければ!
「……もう一度、お手合わせをお願いできますか」
私は剣を握り直してセイリスを見る。
むしろ睨んでいたかもしれない。
セイリスはいつも通り、笑顔で頷く。
「もちろん、お相手いたします」
歯を食いしばって、泣きそうな心を押さえつけて剣を振る。
死にたくない。
強くなりたい。
感情が研ぎ澄まされて、心の中には純粋なそれだけが残った。
30分にも及ぶ長い長い攻防の末、首元に剣を突き付けられたのはセイリスのほうだった。
「参りました、僕の負けです」
「…………」
いつの間にか私たちを囲むように騎士団の団員たちが手合わせの見学をしていて、その気迫と剣技に賞賛の拍手を送ってくれた。
「こんな短期間であのセイリス相手にここまで打ち合えるようになるなんて……お嬢様の成長スピードは末恐ろしいな! 強さの先が見えねえ!」
団長のヘルムートも感慨深そうに頷きながら大きく拍手をしている。
「ヘルムート団長の言う通りですね。むしろこのまま"お嬢様"にしておくのはもったいないくらいです……おっと」
クロヴィスに睨まれたことに気づいて、セイリスは笑いながら口をつぐむ。
団員たちが盛り上がる中、渦中にいながらその声をどこか遠くのものに感じながら、私は小さく震える手を見つめていた。
人は自分の成長に対してとても鈍感だ。
私は本当に周りの評価ほど強くなれてるんだろうか?
私が持つ死への恐怖は、いつかなくなることがあるんだろうか。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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