レオンとの昼食
天気のいい学院の中庭の真っ白なテーブルに、影がふたつ。
すなわち向かいあって座ったレオンと私である。
少し離れたところには王宮の数人の騎士たちとクロヴィスの姿もあるものの、それ以外の生徒の立ち入りは禁止されていた。
……ここ王宮じゃなくて学院なんだけどね!?
レオンは私と話がしたいらしく、昼休憩中の食事に誘ってきた。
目の前のテーブルに並ぶのは、学院食堂では見かけたことがないメニューだ。
なんで学院食堂の服を着た料理人がワゴンでコース料理運んでくるわけ……!?
王家の人間専用メニューとか、そういうこと……!?
前菜から順に出てくる食事を、レオンに見られているという緊張感で相変わらず味もわからないまま、機械のように口へ運んでいく。
こんなことならルチアナにも同席してもらえばよかったかもしれない。
……レオンは誕生パーティーで襲撃を受けた後、アゼリアが何を感じて、何をして過ごしていたのかを聞きたいらしい。
そうは言われても何からどう話し始めたらいいのか、私にもわからなかった。
なぜなら、アゼリアの記憶を見るに……レオンに食事に誘われたのはこれが初めてだから!!
「ジェトリウスからの報告によれば、お前が目を覚ましたのは襲撃から6日後のことだったらしいな」
いきなり本題ぶっ込んできた……。
「はい、その通りです」
「眠っていた間は何か夢でも見ていたのか?」
「…………」
どこまで話したらいいんだろう。
あの透明でいて深い海のような瞳には本心を簡単に見透かされそうで、正直嘘をつくのは怖い。
けど私が『アゼリアじゃない』ということは、もちろん言わないほうがいいに違いない。
私は迷った末、限りなく全てに近い内容をレオンに話すことを決めた。
真っ白な死後の世界へ行ったこと。
そこで自分が死んだことを告げられ、大切な人たちへ感謝や好意、別れを告げられなかったことを激しく後悔して、心が裂かれそうだったこと。
特別にもう一度生きるチャンスを与えられたこと。
目が覚めてから、もう二度と死にたくないと強く思ったこと。
自分の過去のおこないを反省して、人間関係の修復に取り掛かったこと。
突然の襲撃にも対応できるよう、騎士団で日々鍛錬に臨んでいること。
魔術の先生がいなくなってしまったから、学院に復学したこと。
拙い言葉で私が訥々と紡ぐ説明に、レオンは黙って耳を傾けていた。
「ここまでが、わたくしが経験したことです。……その、正直現実離れしているので、レオン様に信じていただける自信はありませんが」
そう締め括った時にはデザートのお皿も空になっていた。
「俺が信じなかったとしても、それはお前の身に起きた偽りのない事実なんだろう」
「……はい」
「戦闘魔術の授業の際に見せたあの柔軟な動きも、『死にたくない』一心で必死に身につけたものだというのなら筋は通る」
「……もしかして、わたくしの話を信じてくださるのですか?」
「現状今の話を嘘だと証明できる手段がない。それに、俺はお前が王族を相手に虚偽を並べるほど愚かではないことも理解している」
「……!」
レオンは無表情で、笑いもしないし怒りもしない、冷酷で合理的な王族の人間。
でも、その心は機械じゃない。
アゼリアがレオンに嘘をつかないだろうという"情"は存在してたんだ。
もしかしたらレオンもちゃんと腹を割って話せば……私が思ってるより、物分かりがいい人なのかもしれない。
とはいえ話していても楽しそうな顔一つしてくれなかったレオンはそれでも満足したのか、「週に一度は定期的に学院での昼食を一緒に食べながらおしゃべり会しようね♪(※意訳)」という恐ろしい約束を取り付けていった。
私の聖女の加護の監視や経過確認の意味なのかな……。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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