高度戦闘魔術の授業(1)
何度でも言ってしまうんだけど、アルセリア王立学院は実力主義の学院だ。
当然、力ある限られた生徒にのみ受講を許可されるような特別授業なんてのもあるわけで。
その代表格が高度戦闘魔術の授業だ。
私がフェリオール家の魔術の先生を失ったために学院に復学しなければならなかった理由のひとつが、まさしくこの授業に出るためだった。
この世界の貴族にとって、武力は権力や財力に匹敵するほど重要視されている。
各貴族のお抱えの騎士団だけがどんなに強くても、その騎士団を指揮する立場である貴族がポンコツだと、その家は長続きしないというのが一般認識らしい。
例え直接戦場に立つことはなくても、一族を守ることができる武力を持っているという事実が他の貴族家への牽制になり、騎士団の士気を上げる。
(そう考えるとジェトリウスは本当に理想的な最強の当主なんだな……)
エルグランド王宮の現役兵士でもある高度戦闘魔術を指導する強面な男性講師は、自分の目の前に立つ学院最上位層の魔術師でもある11人の教え子を厳しく見渡した。
(普段もう1人いるものの、今は暴力沙汰で停学中だ)
「1年の終わりが近づいてきた。すなわちこの1年間における学びの仕上げの時期だ。本日の授業は3チームに分かれて炎魔術と風魔術のみでの集団模擬戦闘をおこなう」
講師がひとりひとりに防火魔術をかけながら説明していく。
「チームは各々の現在の実力を配慮し均等になるようにわけた。先ほど配った同じ色の布を持つ者が命を預ける仲間だ」
私に配られたのは手触りのいい黒い布だった。
「その布は一定以上の炎魔術を受けると発火する。今日の授業は腕に巻いた布を15分間守り抜くこと。その布を発火させた者、炎魔術、風魔術以外を使用した者はその場で失格とし、15分後に失格者の最も少ないチームを勝ちとする」
もし15分間失格者が出なかった場合は……
「なお、15分間失格者が1人も出なかった場合は授業への参加意欲不振として全員失格とし、本授業における今年度評価を等しく減点する」
…………わかってたけど、日常魔術のユルユル講師と違ってこの王宮の軍人講師はそんなに甘いわけがなかった。
「これより5分の戦略会議ののち、各チーム魔術闘技場内の指定された場所へ移動するように」
私と同じ黒い布を腕に巻いていたのは。
「よ、よろしくお願いします! アゼリア様、ミレーユ様」
「ええ。よろしくね、リノンさん」
よりによって、アゼリアの終生のライバルであるミレーユと、私の特大死亡フラグの源である庶民……リノンだった。
「早速作戦を話し合いましょう。なんと言っても厄介なのは……」
「ち、ちょっと待って、ミレーユ。わたくしからひとつだけ質問をさせてほしいのですが」
私がミレーユの言葉を遮ると、彼女は少し迷惑そうに顔をしかめた。
「合理的なあなたらしくないわね? 今は時間がないのだけど」
「10秒だけでいいので!」
「……なによ」
ミレーユの手を引いてリノンから少し距離を取ると、声をひそめた。
「な、なんで戦闘魔術の授業にリノンさんがいるのですか」
アゼリアが休学する前最後に受けた授業では、戦闘魔術の授業にリノンの姿はなかったはずだ。
そもそもこの戦闘魔術の授業は、『緻密で正確な魔術印描写と詠唱が必要』な日常魔術の授業と違って、『素早く反射的に魔術を発動する力』を求められる。
魔術印と詠唱の両方を完全に省略しても攻撃魔術を発動できること……これが参加を許可されるための最低条件なのに。
ミレーユはふん、と鼻で笑った。
「ああ……フェリオール家のご令嬢のアゼリア様は、2週間お休みされてたからご存じないのでしたね?」
そういう嫌味こそ時間の無駄では?
「リノンさんは魔術発動時の魔術印と詠唱の省略ができるようになったからこの授業に参加した、それだけよ」
「よりによってもうすぐ年度末になるこの時期に!?」
「他の理由を疑うのなら、殿下に直接お聞きになればいいのではなくて?」
ミレーユにバッサリ切り捨てられてしまい、思わずよろけそうになる。
や、やっぱりあの冷酷王子のレオンが一枚噛んでるってこと……!?
来年度の初めから参加すればいいものを、こんな半端な時期に戦闘魔術の授業に途中参加だなんて……!
少しでもリノンと同じ空間で過ごしたい的な……!?
ありえない……こんな露骨な権利の悪用……!
私は離れた場所で作戦会議をしている、腕に白い布を巻いたレオンをこっそり盗み見た。
あ、あんな無表情しといて、めちゃくちゃ気に入っちゃってるじゃん、リノンのこと!
こんなところにまで王家の権利が及んでるとなると、『大叙勲祭』もいよいよ本当にまずいかもしれない。
というか『大叙勲祭』の結果に関わらず私の命がやばいかもしれないのがまじでやばい!
「あ、あの……アゼリア様。こうして直接お話できてとても光栄です……! 私は第2学年ゴールドクラス、リノン・ブランカと申します」
緊張した面持ちできちんと自己紹介をしてくれたリノンに思わず肩が震える。
「えっ!? あ、えぇと……あなたのことは知っていますよ。わたくしたちは芸術の授業を同じ教室で学んでいるでしょう」
「わ、私のことをご存じだったんですか……!?」
「ええ、もちろん」
「う、嬉しいです、ありがとうございます……!」
リノンに関わらず、アゼリアの脳にはアルセリア王立学院内の全校生徒・講師・用務員の全ての顔と名前、出身や所属が記憶されている。
……改めてあなたは本当にすごいよ、アゼリア。
「同じチームになったのも何かの縁です。今日は力を合わせて一緒に頑張りましょうね、リノンさん」
「は、はい! よろしくお願いします!」
キラキラした花のような笑顔を向けられて、私は心の中で目元を覆って天を仰いだ。
はぁ~~~なるほど、これが"メインヒロイン"の力かぁ~~~!
自分の命に危機感を感じてるはずなのに、この子のことをどうやっても嫌いになれない……!
だってこの笑顔、かわいすぎる……!
なるほどなぁ~、この不思議な力(?)でレオンの懐にもあっさり入り込んだのかぁ……!
こらこらどこ行くの、戻ってきなさい私の"勝ち目"!
「時間がないわ。挨拶が済んだのなら急いで戦略を立てるわよ」
ミレーユが腕を組み、真剣な顔でその場をまとめる。
「わたくしたち以外の白チーム、赤チームはどちらも4人。集団戦において数ではわたくしたちが圧倒的に不利ね。でもその代わり力量差がある。少数精鋭というこの利を上手く使うしかないわ」
白チームにはレオンが、赤チームにはルチアナが、おそらくそれぞれのチームの主砲として座しているものの、他の生徒は正直2人ほど目立った戦闘力はないとみても良さそうだった。
それに対してアゼリアもミレーユも、同世代の中ではエルグランド王国内トップレベルの魔術師だ。
正直リノンの力はどんなものなのか私にはわからないけど、ミレーユの落ち着いた様子を見るに戦力換算してもいい……みたい。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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