昼の休憩時間に流れる不穏
「…………ということがあって」
昼休憩の間、4限目の日常魔術実技の授業中にあった出来事をクロヴィスに話すと、彼は少し怪訝そうな顔をした。
「……それはつまり、授業中にお嬢様を狙った人間がいたということですよね」
その優秀さが広く知れ渡っている護衛騎士がそばについていないタイミングをわざわざ狙って。
「おそらくそうでしょう。物質転移魔術の誤発動にしては位置が正確でしたし、魔力に悪意が混ざっていることも感じました」
「犯人に見当はついてるんですか?」
「……いえ。学院内でもトップクラスの魔術が使える生徒が集まった教室ですから、事前に準備さえすれば正直誰でも可能かと。恥ずかしいことにわたくしはクラスのほぼ全員に喧嘩を売ったことがあるので、誰から恨みを買っていてもおかしくはありません」
自分で言ってて悲しくなってきた。
アゼリア、やんちゃすぎでしょ……やっちゃったものは仕方ないけど。
私はサンドイッチを一口かじって咀嚼してから付け加える。
「……一応、魔術講師の先生は物質転移魔術の位置調整と誤発動には充分注意するよう再度呼びかけてくださいましたが、彼女の中では今回の件は事故扱いで終わってしまったようです」
「………………」
「もし当たっていたとしても命の危険はなかったと思いますが、授業中に悪意を向けられたのはさすがに初めてでしたね」
実家からの呼び出しだとかでロクに会話もできないうちに急遽早退することになってしまった大泣きのルチアナをやや引き気味のクロヴィスと一緒に見送って、私は中庭にランチに出て来ていた。
天気のいい中庭には私とクロヴィス以外にも生徒がちらほらいるものの、それぞれがそれぞれと関わりを持たないよう、適切な距離を保っている空間なのがありがたい。
こういった会話も聞かれなくて済むから。
「……犯人を突き止めましょうか?」
「あなたの授業を犠牲にしないなら頼みたいですが……それは難しいでしょう?」
「……………………」
「学院内は基本的に攻撃系の魔術発動に対しては制限がかかるようになっていますし、今のところわたくしでも対処は可能です。ほとんど全ての授業で同じ教室内に王族がいらっしゃることが、抑止力にもなっているはず。それにもう何回か受ければ、魔力を辿って向けられている悪意の元がわかりそうなんです」
自分を囮にするような方法はさすがにクロヴィスが嫌がりそうだけど、王城並の安全性があると言われている学院で、その上レオンまでいる場で、そうそう誕生パーティーのような己の命を顧みない犯人による事件は起きないと思ってもいいだろう。
「……無茶はなさらないでくださいね。俺がこの学院にいるのは騎士としての教育を受けるためじゃなくて、あなたの一大事にすぐに駆けつけるためなんですから」
「ふふ、そうでしたね。肝に銘じておきます」
どこかやれやれ、という雰囲気を出しながら微笑んでいたクロヴィスが突然ハッとして顔を上げる。
「……? どうかしましたか?」
「………………」
その視線の先を追うと、中庭の入り口である本校舎の柱の影からこちらを見ていた一人の男子生徒が、そっと離れていったところだった。
あれは…………
「……確か第4学年シルバークラスの、ノルディエン家所属の騎士の方ですね」
情報が無限に収納されてるアゼリアの脳、すごすぎ……ネット検索するより全然早い。
「……はい。お嬢様の様子を誰かに連絡していました」
「普通に考えたら相手はギルベルト……でしょうか」
「ギルベルト様は暴力事件を起こして停学中で、今は王都にもいないはずです」
"暴力沙汰で停学中の辺境伯令息"って字面やばすぎない?
どんなヤンキーだよ……世界観合ってる?
ここ、高位貴族ばっかりが通う王立学院なんですけど……?
ノルディエン家はエルグランド王国の北部一帯を治める軍人貴族だ。
先代の"剣聖"も所属し大きな軍事力を有していたけど、ジェトリウスがフェリオール騎士団を国内最強と呼ばれるまでに育て上げ、当代の"剣聖"の称号を授かってしまったせいで、その名声は大きく削がれることになった。
これまた間違いなくジェトリウスとフェリオール家のことはよく思っていないはずで、ギルベルトはそんなノルディエン家の跡取りだ。
「さすがに北地にいる人間と会話することは魔術でも無理ですね……」
「さっきの生徒のことは俺に任せてもらえますか? 明日授業で顔を合わせるので、"友好的に"話を聞いてみます」
本当に友好的だったらそんな強調しない気がするんだけど……?
でも今のところ他に有効な方法は思いつかない。
「わ、わかりました。くれぐれも怪我をさせてはダメですよ」
「お任せください」
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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