お茶会仲直り作戦
アルセリア王立学院は完全実力主義の教育機関だ。
学年はあるものの、所属クラスは総合成績によって1クラス約20人の『プラチナ』から『レギュラー』の5クラスに分けられる。
さらに授業に関してはクラスだけでなく学年の壁すら取り払って、実力に見合った教育を受けることができる仕組みだ。
下級生が上級生と同じ教室で学ぶこともあれば、プラチナクラスとレギュラークラスの生徒が机を並べることもあった。
逆に言えば、クラスメイトとはいえ一緒に授業を受ける機会は結構少ない。
「いやだ、せっかく会えたばっかりなのに離れたくない!」と駄々をこねるルチアナに惜しまれながらも別れを告げ、1限目の教室に向かって廊下を歩いていると、前方から来た女子生徒とその取り巻きの数人が私を見て足を止めた。
アゼリア様だ、お元気になられたのかと歓迎とは程遠いその顔に書いてある。
「はぁ~、なんだか泥臭い成り上がり一族の臭いがしますわねぇ?」
「…………」
すれ違いざまに女子生徒が私に聞こえるようにそう言った。
「親が親ならその娘まで、レオンハルト王子殿下のご厚情に厚かましく縋り付いてしぶとく生き延びたなんて、親子揃ってまるで雑草のように惨めで醜いこと」
彼女は力のある侯爵家の出身だ。
フェリオール家が公爵の爵位を失った暁には彼女の家が公爵家になるだろうという話もあったようだけど、ジェトリウスがフェリオール家の威光を取り戻したことでその話も立ち消えた。
そのせいで何かと妬んでいるらしい。
ジェトリウスが貴族として強すぎたせいで、こういった妬みは正直かなり多かった。
アゼリアはこういうとき「レオン様に目も向けてもらえないバカな格下ブスの妬みがキャンキャンうるせえな~(※意訳)」くらい言ってしまってたけど、私はそういうわけにはいかない。
とはいえ、家や父親を馬鹿にされてそれを黙認することは、その言葉を許容したことにもなってしまう。
相手を下げず、家の誇りを守るにはなんて返すのが最適なんだろう?
私は足を止めて彼女と取り巻きたちを振り返った。
…………貴族とはいえ、まだ人生経験も浅い15〜16歳の少年少女だ。
散々貶しておきながら、正面から見られたら気まずそうな顔をするなんてかわいいとこもあるじゃん?
アゼリアにだって人への当たりが強くなっちゃう若気の至りがあったんだから、許してもらいたいならまずはこちらが許してあげないと。
がんばれ、私の表情筋!
私はできる限り優しく微笑んで、努めて穏やかで優しい声を出す。
「こんなふうに気を引かずとも、わたくしとお友だちになりたいのならそうおっしゃってくださればいいのに」
「はあっ!? なに寝ぼけたことを……ッ!」
「わたくしも以前よりあなたとお友だちになりたかったのです。今度ゆっくりお茶でもいかがですか?」
「えっ!? …………い、いや、それは……」
目に見えてたじろいでいる。
はっはっは、かわいいかわいい。
「……ただ、若くしてフェリオール家のために命をかけた父のことをわたくしは誇りに思っています。おっしゃる通り結果としては成り上がりかもしれませんが、悲しくなってしまいますから……わたくし自身へはともかく、父のことまで悪く言うのはやめてくれませんか?」
「う…………」
「表情は少し固いですが、父はとても家族想いで優しいのですよ。お茶とお菓子をご用意いたしますから、今度会いにいらしてください。歓迎いたします」
「ええ……何、コイツ本当にアゼリアなの? 言い返してこないとかキモ……」とでも言いたげなドン引きした表情をしながら、侯爵令嬢はそれ以上の暴言は吐かずに取り巻きを連れて足早に立ち去ってしまった。
お、お茶会仲直り作戦またしても失敗……!
いや、ここでめげてちゃいけない!
手紙と違って直接会話ができるのはやっぱり都合がいい。
このままうまくやれば彼女をきっかけにする私の死亡フラグは潰すことができそうだ。
確かな手応えを感じながら、私は再び1限目の教室を目指した。
普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。
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